47話 告白
「紅葉が見頃を迎えています」
ニュースでアナウンサーが連日言ってくるのを飽き飽きしながら聞いていると、いつの間にか師匠が東奔西走すると言われる十二月に入っていた。
師ではない俺たち生徒も、今は期末テストに大忙しだ。と言ってもこれはあくまでも一般論、俺は例外だ。
もちろん俺も期末テストは受ける。ただ、期末テストが塵に霞むほどに重大な任務が俺には控えており、テストどころではないのだ。当然、勉強など身に入らなかったので、相応の覚悟はしている。
任務は白鳥の寿命に関することだ。今日まで白鳥の身には、俺の知る限り何も起きていない。大病を患ったり、急病で倒れたり、誰かに襲われたということはなかった。
――一カ月前にお化けに襲われたのはノーカウントで。
大過なく過ごせているのはいいことだ。いいことなのだが、寿命が見える俺にとっては都合が悪い。白鳥のLPは刻一刻と減っており、俺の感覚では残り一ヶ月も残っていない。赤く光るそのゲージが、空前の灯火に見えてならなかった。
俺には寿命が見えても変える術は持ち合わせていない。律儀に漸減していく白鳥のLPを見る度に、「お前は白鳥を見殺しにするのか」と言われているような気がして、気が狂いそうだった。
それに耐えられなくなった俺は、テスト期間に入った直後、涼介と杏奈に相談した。
その結果、少しでも寿命を変える可能性を高めるため、白鳥にLPの話を打ち明けて協力してもらおうということになった。
LPのことを打ち明けること、そして死が目前に迫っていることを白鳥本人に告げること。
これが俺の任務だ。
俺は悩んだ。LPを打ち明けることは、信じてくれるか、一笑に付されるかのどちらかなので問題はない。でも本人に寿命を告げることは正直酷すぎる。もし俺が医者から「君は後一ヶ月しか生きられない」などとあまりにも短い余命宣告をされようものなら、正気でいられる自信は皆無だ。
一ヶ月などあっという間だ。やりたいことリストを作っている間に過ぎ去ってしまうだろう。
俺と杏奈は同意見で最後まで渋っていたのだが、涼介に「白鳥さんを救うには伝えるしかない」と諭されたのだ。
自分でもそれは分かっていた。LPのことを信じてもらうには、流れの中で必ず白鳥の寿命を言うことになると。
これが寿命が見えるものとしての責務なのだろうなと、俺は覚悟を決めたのだった。
迎えたテスト最終日、俺は他の教科同様、問題を解くというより空欄を埋める作業に勤しんだ。この作業を侮ることなかれ。実は結構難しいのだ。答えが分からないのに、それとなく正解に近い答案を捻り出すか、でっち上げなければならない。多分普通に回答するより頭を回転させていると思う。
スペックの低い頭を浪費させながら、なんとか今日の教科を片付けた。
これで期末テストは全て終了だ。
テストが終わり、「どうだった?」とか「あそこの問題が分からなかった」などと賑やかにテスト談義に花を咲かせているのを尻目に、俺は白鳥の席へと向かう。
「じゃぁ、行こうか」
俺たち四人は学校を出て、ある場所へと向かった。今日のことは事前に白鳥に取り付けてある。具体的なことは何一つ伝えていないが、学校では話しにくいので外で、と言うと白鳥はそれを察して何も言わずに了承してくれた。
目的の場所には十分もかからないうちに着いた。
築古らしい薄汚れた外観に、扉の上に貼られた赤いテント。扉を開けると、音の低いカウベルが「カランコロン」と鳴る。
続けて、「いらっしゃーい」と店内から男か女か分からない中立的な声が聞こえてきた。
俺と白鳥は二度目の来店だ。
「あら、あなたたち、また来てくれたのね」
喫茶店「ジャックポット」の店主である和泉さんは、ニッコリと優しく笑んだ。
今日は白地にいくつもの小さな赤いバラがあしらわれたシャツを着ている。
「はい、約束でしたから」
俺も笑って返した。
「あらあら、まぁ、こんな老いぼれの戯言に付き合ってくれるなんて。ありがとうねー。好きなとこに座ってね」
前回座ったテーブル席を今回も使うことにした。男女が向かい合って座る。
席に着くなり杏奈は、身を乗り出すように前のめりになって「あの人って、男? 女?」と小声で訊いてきた。
やっぱり分かんないよなー、気になるよなー、俺もそうだったと思いながら、「男、おじいちゃんだ」と答えた。
それを聞いた杏奈が「へぇー、かわいいおじいちゃんだね」と言っていると、本人がやって来た。
「お待たせー。寒かったでしょう。これでも飲んで温まってね」
和泉さんはこの前と同じく、カフェオレを四つ持ってきた。
まだ頼んでないんだけどなぁと思っていると、白鳥が控えめな声で「和泉さん、私たち何も注文していないんですけど」と俺の心の声を代弁するように言った。
和泉さんは子を諭すように「細かいことは気にしなくていいの」と言って、カフェオレはそれぞれの前に配っていく。
白鳥を見ると目が合った。俺はやれやれといった調子で肩を竦めて見せる。
白鳥も同じように思っていたのか、仕方ないといった感じで微笑んだ。
「それじゃあ、ごゆっくりねー」
和泉さんは嬉しそうに笑いながら、身を翻して戻っていった。
涼介と杏奈がここに来るのは初めてだったので、俺はこの店を知った経緯や和泉さんの人柄などを話した。
ひとしきり話して場が温まったところで、いよいよ本題に入ることに決めた。
俺はカフェオレを一口すする。
「それでさぁ、白鳥。今日の話っていうのは、俺のことなんだけど……」
――実は俺、人の寿命が見えるんだ。
人にこの力のことを打ち明けるのは小学生の時以来だ。あの時、自らを守るために封じた行い。
苦い記憶が甦り、脳裏をよぎる。
緊張で手に汗が滲み、甦った恐怖心で奥歯ががたつきそうだった。
それでも――。
目の前にいる白鳥は、俺をじっと見据えて次の言葉を待っている。
白鳥の寿命を変えたい、救いたい。そのためにここへ来たのだ。過去に囚われている場合ではない。
俺は脳内に拡散していた苦い記憶全てを掻き消し、一度呼吸を挟んでから一息で言った。
「実は俺、人の寿命が見えるんだ」




