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Life Point  作者: 青野 乃蒼


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40話 喫茶ジャックポット


俺はこの店に来るまでの経緯を話した。

今週うちの高校で文化祭があること、その出し物でカフェをやること、そのためにコーヒーメーカーの貸し手を探していること、毎日のように店を訪ねているが見つかっていないこと、見つからず途方に暮れていること。


その間、和泉さんは時折相槌を打ちながら話を聞いてくれた。


「――と、まぁこんな感じです」


俺は終わりとばかりにカフェオレをすすった。


ただ説明しただけなのに、体の内側に溜まっていた澱が吐き出されたような爽やかな感じがする。

気分も少し軽くなった。


「そう、それは大変だったねぇ。高校生なのによくここまで頑張ったよ。あなたたちは偉い」


傷心に労わりの言葉が淀みなく染み入ってくる。ボロボロになった心が癒されていく。

問題は解決していないが、来てよかったと思った。


「それにあなたたちはツイてる、ラッキーよ。きっと今まで頑張ってきたあなたたちに、神様がご褒美をくれたのよ」


俺たちに同情するように心痛な表情をしていた和泉さんが、パッと明るい笑顔に変わる。


俺は和泉さんの言っていることが理解できなかった。

白鳥も理解できていないのか訝しげな顔をしている。


確かに和泉さんに会えたことは良かった。でもそれを神からの贈り物と呼ぶには大袈裟だ。

期せずして心の傷が癒えたことは幸運だったが、未だにコーヒーメーカーは手に入っていないのだから。


「それはどういう意味ですか?」

「うちの店ね、コーヒーメーカー使ってるのよ。それで、ちょうど最近新品に入れ替えたの。そのカフェオレも新しいので淹れたのよ」


和泉さんが俺のカップを指差す。


「本来なら入れ替える時は旧品を持って帰ってもらうんだけどね、前の結構使ってたから年甲斐もなく愛着湧いちゃって。だから、手放せずに持ってるのよ」


和泉さんははにかみながら、さっきと同じように手をパタパタと振る。

この小規模な店でコーヒーメーカーを二台使用しているらしい。


「でもうちは年金暮らしの老人が趣味でやってる小さいお店だから、一台あれば充分。前のは使ってないの。旧式だから少し古いけど、それでよければ貸してあげるよ」

「本当ですか!」


俺よりも先に白鳥が反応した。立ち上がって大きく目を見開いている。


「うん、本当だよ。持ってるだけじゃ意味がないし、あの子だって使ってもらった方が嬉しいだろうからね」


和泉さんは目を細める。

旧式と過ごした日々を思い出しているのかもしれない。


これでようやくコーヒーメーカーを調達できそうだ。

さっきは和泉さんの言っている意味が分からなかったが、今ならはっきりと分かる。

神からの贈り物と言っても今の俺たちには決して大袈裟ではない。

寂れた鉱山を必死に掘り続け、やっと金を見つけたような幸福感、達成感を感じる。


「ありがとうございます! 和泉さん」


白鳥は和泉さんの手を両手で包み、感謝の言葉を口にした。その瞳は潤んでいるように見える。


当然だと俺は思った。白鳥は俺の倍以上、依頼のため説明し頭を下げてきたのだ。喜びも一入(ひとしお)だろう。

俺も飛び跳ねたいくらいには嬉しかった。でもそれ以上に、今まで抱えていた焦りや不安、重圧といった重荷から解放された安堵の方が勝り、ドッと疲れが押し寄せてきた。

俺はそのまま机に突っ伏した。


「あらあら、どうしたの?」


優しく問いかける和泉さん。


「何をしているんですか」


はしたないとばかりに俺を咎める白鳥。


俺は顔だけを二人に向けて苦笑いする。


「コーヒーメーカーが借りれると思ったら、なんか逆に疲れちゃって。おかしいですよね、嬉しいはずなんですけど」

「おかしくなんかないよ。今まで気を張っていたからあまり疲れを感じなかったんじゃないかな。それが急に緩んで正常に戻ったのよ」


和泉さんが俺の頭を優しく撫でる。

頭を撫でられるなんていつぶりだろうか。懐かしい感覚に心が和む。


「もう一杯入れてあげるから、ゆっくりしてからお行き。ほら、あなたも座って、ね」


和泉さんはゆっくりと白鳥から手を離して白鳥を座らせた後、カフェオレを作りに暖簾の奥へ消えていった。




おかわりのカフェオレを堪能した後、俺たちは何度も和泉さんに礼を言って店を出た。

今日はこの後メイド服を受け取らねばならないため、コーヒーメーカーは明日借りることにした。


店を出る前に白鳥が今日の代金とレンタル料を払うと言ったのだが、和泉さんは老い先短い老人だからお金はいらないと頑なに断った。代わりに、また店に寄ってほしいと言われた。

二人の笑顔が見れたらそれが私の財産になるの、と添えて。


俺と白鳥は迷うことなく、口をそろえて「はい!」と答えた。


そういえば、この店は何という名だったか。

脈なしと決めつけて諦めムード全開だったので店の名前まで確認していなかった。


俺は振り返り、テントに書かれた白い文字を見た。思わず笑いが噴き出す。

きっとこの店のことは一生忘れないだろうなと思った。


風が吹きテントが靡く。そこに浮かび上がる白い文字。


――喫茶 ジャックポット。

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