4話 神の子
小学生になってから、友達や先生にゲージのことを一応聞いてみたが、やはり誰も見えていないし知らなかった。
それでも、日々を過ごしていくうちにゲージの傾向を掴むことができた。
それは、若い人ほどゲージは長く、老いた人ほどゲージが短いということだ。
もちろん、若くても短いという例外の人もいたがごく少数だったし、逆に老人でゲージが緑色の人はおらず、皆が短く橙色か赤色をしていた。
俺は最初、健康度合いとかそんな風に考えていたのだが、そんな生易しいものを示してはいなかった。
俺が四年生の時、九十歳の曾祖母が、通っていたデイサービス先で脱水症状を起こして入院することになった。
当時、家族の誰もが曾祖母の入院を甘く見ていた。デイサービスに通っていたとはいえ矍鑠としていたし、脱水症状ぐらいならすぐに治るだろうと、両親は見舞いに行こうと口にすることもなかった。
しかし人々が思っている以上に老人の体というものは脆い。
一度動かさなくなれば、体はみるみる衰え再起不能となってしまう。
曾祖母も御多分に漏れず、容体が良くなることはなく、まるで坂から転げ落ちるかのようにあっという間に衰弱していった。
定期的に見舞いに行っていた祖母から曾祖母の危篤の報せが届いたのは、入院から一ヶ月も経っていなかった。
両親と共に病院へ駆けつけた時には、近くに住む親族が勢揃いしていた。
皆の表情に沈痛と諦観がありありと浮かんでいた。
俺と初音は、親族の間を縫って曾祖母が寝ているベッドに向かった。
曾祖母が視界に入った時、俺は思わず目を疑った。
俺の目に映っていたのは、前に見た曾祖母とは似ても似つかぬ、まるでガイコツのような老婆だった。
入院着から伸びる四肢や顔には一切の肉が無く、突き出るように角ばった細い骨に血の気のない皮がへばりついているようで、とても生きた人間の体には見えない。
曾祖母の家に遊びに行く度、「お母さんには内緒よ」とおこずかいをくれた優しい曾祖母の面影は、もうどこにもなかった。
横たわる曾祖母の頭上には、赤色だと微かに判別がつくほどしかゲージは残っていない。
「ひーおばあちゃん……」
呟いた初音は膝から崩れ落ち、口を手で押さえながら咽び泣いていた。
それから一時間後、曾祖母は死んだ。
皆が涙を流す中、俺だけは泣かなかった。
曾祖母の変わり果てた姿があまりにも衝撃だったからかもしれないが、悲しいとは思わなかった。
ベッドに横たわっている死体が、曾祖母のものであるとはどうしても思えなかった。
でも曾祖母は、俺に大切なものをくれた。
ベッドサイドモニターに映る心電図の波が直線になり、アラームが鳴り止まなくなった時、曾祖母の頭上にあった僅かなゲージが無くなった。それと同時に、表示がゆっくりと透けていき、やがて透明になって、消えた。
このとき、俺は確信した。
各々の頭上に浮かぶこのゲージが意味するもの。
それは――。
寿命。
俺には人の寿命が見えるのだ。
長年悩み続けたゲージの答えを、曾祖母は俺にくれた。
胸がすく思いがした。俺はとんでもない能力を手にしている。
紛れもない、正真正銘神の子なんだと、俺は本気でそう思った。




