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Life Point  作者: 青野 乃蒼


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38話 コーヒーメーカー


パン屋内藤とmon tresorを訪れた翌週、予定通り三回目となるクラスの打合せを行った。

最初に朗報として白鳥が仕入れ交渉の結果を報告し、その後当日の教室内のレイアウトと装飾、勤務シフトなどを決めた。


文化祭の準備は計画以上に順調な進捗だ。諸事情によりバタバタした体育祭のことを踏まえると逆に不安になるぐらい順調だが、前もって計画を立てて準備していけば、案外こういうものなのかもしれないなと俺は思った。


翌日の放課後、俺と白鳥は昨日決めた会場の装飾品や消耗品などの買い出しに行った。


一通り買い回り、品物を保管すべく学校へと戻る道すがら、これまでのことを反芻していると、あることに気付いた。


「そういえば、コーヒーはどうすんだ?」


クラスで話し合った結果メイドカフェに必要なものは、大きく分けて食料、飲料、衣装、消耗品の四つ。

食料はこの前確保したし、消耗品と男の衣装は今日買い揃えた。

メイド服はサイズ調整とか男子禁制な瞬間が必ずあると思い、杏奈と白鳥に頼んである。


だが、飲料に関しては議論した覚えがない。感覚的にソフトドリンクは文化祭の数日前にスーパーで調達すればいいと思うが、コーヒーは良くない気がした。それに第一白鳥が許容しないだろう。


「コーヒー……。そういえば皆さんと議論していませんでしたね。うっかりしていました」

「で、何か考えはあるのか?」


白鳥は遠くの空を眺めるように、少し顔を上げる。


「そうですね……。サンドイッチとケーキが上等なものですので、コーヒーもそれなりのものを用意したいと考えています。本来ならドリップやサイフォンで抽出して提供するのがベストなのですが、素人には難しいのでコーヒーメーカーで妥協しようと思っていたのですが、私の家にはコーヒーメーカーが無く……」

「さすが、ちゃんと考えてはいたんだな。白鳥の意見には賛成だけど、俺の家にもコーヒーメーカーはないな。でも、誰かの家にはあるだろ。市販でも売ってるわけだし」

「それはダメです!」


白鳥は俺の意見をピシャリと一蹴した。

あまりに突然だったので、俺はビクッと肩が跳ねる。


「な、なんだよ急に。コーヒーメーカーでいいって言ったのはお前だろ。何がダメなんだよ」

「コーヒーメーカーで良いとは言いましたが、市販のもので良いとは言っていません。それで提供してしまっては、お客様は普段と何ら変わらない味となってしまい特別感を得られません。少しでも普段とは違う味を堪能していただくためにも、せめてお店で使用しているレベルのコーヒーメーカーである必要があります」


だいたい想像はついていたが、やはりそうきたか。面倒なことになりそうだが、白鳥は間違ったことを言っているわけではないし、あのケーキやサンドイッチに見合ったコーヒーを提供したいという気持ちは俺にもある。

幸いにも当日までまだ二週間の猶予がある。前回同様、すぐに借り手は見つかるだろうと考えた。


「分かりましたよ、お嬢様。何軒かピックアップしとくから、予定空けとけよ」


提案に乗ってあげたというのに、白鳥はなぜか不服そうな顔をする。


「最近気になっていたのですが、『お嬢様』と呼ぶのは何なのですか? 気に入っているのですか? あなたから呼ばれると馬鹿にされているような感じがして、虫唾が走るのですが」

「あぁ、気に入ってるよ、とても」


容姿端麗、成績優秀。彼女が才色兼備であることは認めざるを得ない周知の事実だ。白鳥家のご令嬢としてさぞかし寵愛されていることだろう。そんな彼女が、まるで自分の下僕かのように高圧的な態度で俺をあしらう。これを皮肉交じりに表現したのが「お嬢様」なのだ。


「あなたという人はつくづく理解できませんね。私の執事にでもなるつもりですか? まぁ、あなたのような人はこちらから願い下げですけど」


ほら、彼女の愛称にぴったりだ。

お嬢様、いい加減にしろくそったれ。




週明けの放課後、俺と白鳥は全国展開している有名なチェーン店を二軒訪問した。

先週はメイド服の予定が入っていて白鳥の体が空かなかったので、今週からのスタートとなったのだ。


結果は惨敗だった。白鳥が一応経緯は説明したのだが、会社の規則だと言ってにべもなく断られた。


翌日も別のチェーン店を数軒回ったが、答えも結果もまるで同じだった。

これで俺がピックアップしていた店は、あっけなく全滅してしまった。

有名な店だしどこかは貸してくれるだろうと思っていたが、現実はそんなに甘くなかった。


更に翌日、同じチェーン店でも店舗が違えば貸してくれるかもしれないと白鳥が言うので、一縷の望みにかけ電車に乗って隣町まで足を運んだ。しかし、それでも結果は同じだった。


ここまでくると、さすがに焦ってきた。文化祭の前日は会場の設営があるので動けない。

それを差し引くと、俺たちが動ける時間は土日を含めても一週間を切っている。

白鳥もそう感じているのか、そわそわと落ち着かない様子だ。


有名なチェーン店ではなく喫茶店とかはどうかと白鳥に提案してみたが、白鳥曰く、喫茶店は個人経営の店が大半で、それゆえコーヒーの淹れ方に拘る店主が多いのだとか。そのため、ドリップやサイフォンで淹れる店が多く、コーヒーメーカーを使っている店は少ないようで、喫茶店を回るのは宝探しをするようなものだと難色を示した。


ただ、この現状ではなりふり構っていられない。

俺は白鳥にそう告げて、大きな喫茶店を中心に捜索を続けることにした。


もう後がないと土日も返上で捜索した。その甲斐あってかコーヒーメーカーを使っている店に何軒か巡り合ったが、どのお店も使用中のものしかなく、借りることはできなかった。

当然といえば当然の結果だった。


ここまで探しても見つからないと、諦めたいという欲求しか湧いてこない。お前はよくやった、こんなに探して見つからないのだから仕方ないじゃないかと、心の中に潜む悪魔が囁いてくる。


それに、コーヒーメーカーがない、貸せないと断られているだけなのに、なぜか自分を否定されているような気分になり、断られる度にやる気が削がれた。


テレビやネットでよく騒がれるが、就活生はこんな感じなのかもしれないな、と他人事のようにぼんやりと思った。

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