35話 幸先のいいスタート
翌週、文化祭実行委員会が開かれ、各クラスの出し物が公開された。
結果、二年五組もカフェであることが判明し、見事に被ってしまった。
すぐに話し合いの場が設けられ、二年五組の事業内容を聞いてみると、何やら普通のカフェではなく、「妖怪カフェ」というものをやるらしい。
どんなことをするのか訊いてみると、妖怪の格好をして、見た目をグロテスクにしたケーキや飲み物を提供するということだった。
うちは何をするのかと訊かれたので、ただのメイドカフェだと答えた。
双方で協議した結果被っていないと判断したが、念のため委員長にも確認することになった。
状況を説明すると、趣が異なるため問題なしと判断が下った。
よって、一年二組の出し物は正式にメイドカフェとなった。
委員会翌日の放課後、メイドカフェに正式決定したことをクラスに報告した後、そのまま打合せを行った。この日は当日提供する商品のメニューと衣装を決めた。
メニューは、飲み物がオレンジジュース、アップルジュース、コーラのソフトドリンク三種に、コーヒー。食べ物はサンドイッチとケーキの二種だ。当初予定していたクレープは、学校周辺でクレープを提供している店がなく調達が困難と判断しボツにした。
衣装は、女子はメイド服と決まっているので男子の衣装の話し合いだった。
メイドカフェなので男子に当てる予算はないということになり、男子はワイシャツに黒エプロンという何とも質素な衣装に決まった。
翌日以降、俺と白鳥は商品の仕入れ先確保や、必要物購入に奔走することになった。
初日である今日は、サンドイッチを確保するためパン屋を訪ねることにしている。最大三軒回る予定だ。
放課のチャイムが鳴ると同時に、俺と白鳥は急いで一軒目に向かう。
一軒目は学校から一番近い店――「パン屋内藤」にした。
外国かぶれの横文字ではなく、日本語の店名であることに、俺は好感を抱いていた。
俺は重みのあるガラスドアを押し開く。
ドアが開くと同時に、上部に取り付けられているカウベルが「カランコロン」と小気味いい音色を響かせた。
足を店内に踏み入れると、すぐに香ばしく甘いパンの薫りが俺の鼻を強襲してきた。
放課後の学生には悩殺的な匂いだ。後から入ってきた白鳥が、小声で「いい匂い」と呟くのが聞こえた。
「いらっしゃーい」
店の奥から声がした。おそらく奥が調理場なのだろう。
少し待つと、パン屋お馴染みの白い作業服を着た、恰幅のいい男性が出てきた。
五十代後半ぐらいだろうか、LPは橙色で、残りは四分の一程度だ。
白鳥は男が出てくるやいなやすたすたと歩いていき、男が立っているレジの前で足を止める。
「不躾に失礼いたします。こちらのお店の店主さんでいらっしゃいますか?」
男は一瞬不思議そうな表情をしたが、すぐに柔和な笑顔を浮かべた。
「あぁ、そうだよ。私がここの店主、内藤だ。私に何か用かな?」
申し遅れました、私――、と白鳥が所属校と名前を告げた後、それに続けて俺も名乗った。
「来月私共の高校で文化祭が開催されるのですが、私たちのクラスではカフェをやることになりまして。そこでサンドイッチを提供することにしているのですが、来ていただくお客様に満足いただけるよう、お店で販売しているサンドイッチを提供したいと思い、お伺いした次第です」
内藤さんがうんうんと頷く。
「突然のお願いで恐縮なのですが、文化祭当日、私たちにサンドイッチをご提供いただけないでしょうか。もちろん代金はお支払いします」
「うん、いいよ」
「マジですか?」
まさか一軒目で仕入先が見つかると思っていなかった俺は、つい心の声を漏らしてしまった。
すぐさま白鳥が刺々しい視線を送ってくる。俺の言葉遣いを窘めているのだろう。
「マジ、マジ。大真面目だよ、ハッハッハ。久しぶりだ。」
快諾しながら豪快に笑う内藤さん。
体格と同じように、心も笑い声も大きいようだ。




