33話 次の祭り
山の木々が紅く色付き始めている。
とはいえ、色付いているのは気温が低い山頂付近のごく一部で、まだ山は青々としている。
勿体を付ける山とは違い、人々は着々と衣替えを進めている。
日中こそ残暑の名残を感じるが、朝夕はめっきり冷えるようになった。
女子生徒の大半、男子生徒の半分ほどは長袖になっている。かくいう俺も長袖だ。
体育祭から一ヶ月。三年生は余韻に浸ることなく、入試に向けて本格的な勉強モードに移行している。
いずれは俺にもこの時がやってくると思うと気が重い。なので今は考えないようにしている。
残りの一、二年生はというと、早くも次の祭り――文化祭の準備に取り掛かろうとしていた。
今日はその出し物を決めることになっている。
放課後、学級委員である俺と白鳥は教壇に立った。
白鳥が司会進行役、俺は板書役だ。
「では、各自やりたいものがあれば自由に意見をお願いします」
白鳥の呼び掛けにより、クラスメイトたちが案を出していく。
「焼きそば」
「たこ焼き」
「カフェ」
俺はそれを黙々と板書した。
途中、お化け屋敷の案が出た時に白鳥の肩がピクっと揺れた気がした。
「他に意見のある方はいらっしゃいますか?」
誰も発言しない。
これだけ案が出れば弾切れだろう。俺は黒板を眺める。
焼きそば、たこ焼き、カフェ、フランクフルト、クレープ、ジュース、射的、モグラたたき、お化け屋敷、テーブルゲーム、演劇、映画。
数こそは揃っているものの、どれもありきたりなものだと思った。
「では、意見がないようですので、この中から決めたいと思います。何がやりたいかも大事なのですが、まずは需要が多いものだけに絞った方が良さそうですね……」
先日、俺と白鳥の二人で参加した文化祭実行委員会で委員長から、我が校の文化祭は商いとは何たるかを実践で学ぶことが目的であること、ゆえに予実管理の徹底、利益の追求、赤字厳禁が至上命令であることを熱く語られている。
といっても実際は、明らかに赤字と分かるようなものは予算提示の段階で除かれるだろうし、仮に赤字を出したとしてもここは会社ではないので、クビにされたり減給されることもない。
だから、不正行為さえせず楽しくやればそれでいいと、他の学級委員は思っているはずなのだが、白鳥だけは真に受けているらしい。
そのことを伝えようかと思ったが、結局この中から決まることを考えると、どれでもいい気がしたのでやめた。
「需要を考えると、飲食系の方が良さそうですよね。食欲は老若男女問わずありますし。それに比べて、映画や演劇は披露する内容によって需要が大きく変動しますので、リスクが高いと思います。特にお化け屋敷などもってのほか、愚の骨頂です」
そう言って、白鳥自ら飲食以外の案に取り消し線を引いていく。
途中まで根拠に基づいた納得のいく発言だったのに、最後だけ妙に雑ではなかったか。
お化け屋敷を名指しで吊るし上げ、何の根拠も提示せずこき下ろしていた。
お化け屋敷に何か個人的な怨恨でもあるのだろうか。
こんな言われようでは、お化け屋敷の案を出した生徒がかわいそうだ。
ご愁傷様です、と俺は心の中で呟いた。




