29話 SNS音痴
真夏とは思えぬほど快適な、空調が利いた部屋の中で、俺は今後の対応方法を考えていた。
夜の帳が下りているにもかかわらず、まだ遠くの方で蝉が鳴いているのが聞こえる。
白鳥との話し合いの結果、資料作成は引き続き白鳥が担い、まだ手付かずであるクラスの仕事は俺が引き受けることになった。
謝罪した後も白鳥は俺が手を貸すことに難色を示していたが、俺はあくまでも白鳥の代役として対応にあたるだけであり、白鳥に余裕が生まれたら、その時点で主導権は譲ってサポートに回るつもりだと説明すると、渋々了承してくれた。
こうしてなんとか引き受けることに成功したのだが、元々学級委員として体育祭の準備をするつもりがなかったので、どうすればいいのか分からない。自ら率先して引き受けてはいるが、これは成り行き上そうせざるを得なかっただけで、俺からすれば急に仕事を振られたようなものなのだ。
クラス全員を集めさえすれば何とかなるだろうと思ったが、自分では集められないことに気付いた。
俺はクラスメイトたちと連絡先を交換していない。コミュニケーションが苦手だからではない。
むしろ人よりも秀でているとさえ思っている。口を開くだけで相手をイラつかせるような特殊なタイプを除けば、基本的には誰とでも話を合わせられるし、冗談を言って盛り上げることだってできる。
ただ、自分から話し掛けようとは思わない。
自ら口を開くほどの話題や用事が、クラスメイトに対してない。ただそれだけだ。
その結果、連絡先を交換するまでに至っていないということなのだが、俺はそれを悲しいとか辛いとか思ったことはない。
自分ではクラス全員を集められないが、仕事を引き受けてしまった以上、集めなければならない。
俺は数少ない友人の一人である杏奈に頼ることにした。
電話を掛けると、どこかのコールセンター並みの早さで繋がる。
「もしもし、隼人くん? 急にどうしたの? 電話なんて掛けてきて」
「悪いな、急に。折り入って相談があるんだ。ちょっと話を聞いてくれないか?」
「隼人くんが相談なんて珍しいね。何かあったの?」
俺は、今まで体育祭の準備を白鳥に任せきりにしていたことは伏せて、白鳥が軽く体調を崩していること、それによりうちのクラスの準備が滞ってしまっていること、とりあえずクラス全員を集めたいこと、ただ自分では集めることができないことを話した。
「だから、杏奈の力を借りれたらと思ってさ」
「なるほどね。でも、クラス全員の連絡先持ってなくても集めることは簡単にできるんじゃない? 私だって全員の連絡先なんて知らないし」
「簡単? どうやってやるんだよ」
「クラスのほとんどの子が入ってるグループがあるから、そこに投稿すればみんなと連絡が取れるよ。スケジュール調整とかの機能もあるから、みんなのレスポンスさえ早ければすぐに調整できると思う。グループにいない人には、その人の連絡先を知ってる人から伝えてもらえばいいし」
なるほど、そんなやり方があるのか。これならすぐに集められそうだ。
ただ、俺には当然出るはずのないアイデアだった。
「普通にSNS使ってたらすぐ思いつくんだけどなー。相変わらずなんだね」
「あぁ、まーな。俺には必要ない」
今や当たり前となっている――人によってはなくてはならないものとなっている――呟いたり写真投稿したりする類のアプリを俺は使ったことがない。これらの何が楽しいのかまるで分からない。
唯一連絡を取るアプリは入っているが、連絡を取る以外に使うことはほとんどない。連絡先は家族以外に中学時代の友人がちらほら入っているものの、今連絡を取り合っているのは杏奈と涼介だけだ。
そんな俺でも中学生の時に、一世を風靡していたスマホゲームに熱中していた時期はあった。
自分のキャラクターを成長させ、強いモンスターを倒すのがスカッとして気持ちよかった。
キャラクターをより強く成長させるためには、特定の曜日や時間限定で発生するイベントに参加する必要があり、最初は特別感もあっていそいそと参加していたのだが、段々とそれがゲームではなく作業になった。それでも、強敵を倒したときの快感を味わうべく日々作業を続けていたある日、ふと思ってしまった。
俺の人生がゲームに搾取されている、と。
その日以来、スマホゲームをしなくなった。
「今必要になってるでしょ。少しぐらい慣れてた方が何かと便利だと思うけどなー。まぁ、私がいる間は頼ってくれたらいいけど」
「悪いけど、そうさせてもらうわ。招集案内頼んだ」




