28話 ようやくのスタートライン
俺は話を掘り下げることにした。
「具体的には?」
「えっ?」
「今何をしていて、次はどうする予定なんだよ」
「…今は学級委員での決定事項を資料に纏めているところで……。それが終わり次第、二組の皆さんを招集して、競技に参加するメンバーを決める予定、です……」
白鳥の声が尻すぼみになっていく。自分でも分かっているのかもしれない。
このままでは間に合わない可能性があることに。
状況は把握できた。ただ、もう一つ確認しておきたいことがあった。
「そっか、分かった。じゃぁ最後にもう一つ。学級委員である俺が体育祭の準備に参加していないことを、お前は他の学級委員になんて説明したんだ?」
「私が強制的にあなたを排除した、と言いました。この仕事を一人でこなすことで成長したいと思っている、だから私はあなたに頼んで、手を出さないようにしてもらっている、これは私の勝手な都合で、あなたは何も悪くないのだと、そう説明しています」
武田が言っていたとおりの内容だった。俺が参加しないのは、白鳥の意志によるものとなっている。
ただ、俺にはなぜ白鳥がこのような行動を取ったのか理解できなかった。
今こうして学級委員の仕事を白鳥だけでやることになっているのは、紛れもなく俺のせいだ。俺が仕事を押し付けているのだ。ならば、白鳥は俺のことを憎みこそすれ庇うなんてことは普通有り得ない。なのにこいつは、俺が非難を浴びないような嘘をでっち上げている。
「なんでだ……。なんでわざわざそんな嘘をついた?」
「嘘?」
「そうだ、実際は俺が押し付けているのに、それを隠して自分の勝手な都合にしている。どう考えても嘘じゃないか」
白鳥の表情が、すっと元の毅然とした顔に変わる。
「嘘とは言い切れませんよ。成長したいと思っていたのは本当ですし、やるなら一人の方が楽だとも思っていました。なので、結果は同じだったかもしれません。そういう意味では嘘ではないと思います」
「……俺に非難を向けさせないために仕組んだんじゃないのか?」
「いえ、違います。確かにそう見えるかもしれませんが、それはあくまでも偶然であり、ただの副産物です。勘違いしないでください」
こいつも存外、嘘が下手な人間なのかもしれない。
そこに気付いている時点で、副産物とはいえないだろう。
愛想がなくて口の悪い性悪女だと思っていたが、本当は他人のことも考えられる優しいやつなのかもしれない。
俺はもっと白鳥を知りたいと思った。
「そうですか、それは失礼しました。でもこれで状況は理解できた。俺も手伝うよ」
「何を言っているのですか? 嫌です。あなたの手など借りません。それにまだ私はあなたを許したわけではありません」
そりゃそうだ。俺は彼女に許されるようなことをしていない。散々仕事を押し付けた挙句、今回の件で借りまで作ってしまった。彼女に許されるまで、どれだけ奉公すればいいのか分からない。
でも最初にすべきことだけは、はっきりと分かっている。
「白鳥」
俺は正座になって姿勢を正し、白鳥の目を見据えた。
「俺が悪かった、ごめん」
羞恥心を悟られたくなかったのもあるが、俺は頭を下げた。
客間が静まり返る。白鳥がどんな表情をしているのか分からない。静寂が苦しい。
少しの間をおいて、白鳥が口を開いた。
俺は顔を上げる。彼女の表情と口調は、いつもより穏やかな気がした。
「どうしたんですか? 藪から棒に。あなたがこんなことをする人だとは思いませんでした。意外です」
「うるせーよ。俺をなんだと思ってんだ。謝罪ぐらいできるわ。……それで、俺は許してもらえるのか?」
「いえ、まだですよ。許すかどうかは今後の行い次第です」
白鳥は手を口元に当て、淑やかに微笑んだ。
俺の目は彼女を捉え、そして離さない。まるで釘付けにされたかのようだ。
初めて見た白鳥の笑顔。
それは、彼女のことを憎らしいと思っている男でさえも魅了するほどに美しいものだった。
もっと笑えばいいのにと、俺は思った。




