27話 大きな収穫
「はいはい、不審者のようですみませんでしたね。で、冗談はさておきだ。今日はお前に話があって来た」
「話……ですか?」
「あぁ、そうだ。体育祭の件について、お前と話さなければならない」
沈黙が訪れる。白鳥は何かを逡巡しているのかもしれない。俺は白鳥が口を開くのを待った。
しばらくして、受話口から白鳥の声が届いた。
「……分かりました。今玄関を開けますので少し待っていてください」
予想だにしない返答に、俺は耳を疑う。
「家に入れてくれんのか⁉」
「当たり前です。客人が来ているのに家に迎え入れないなんて失礼でしょう」
さっきまでの言動はかなり失礼だった気がするのだが。
ともあれ、何とか無事に白鳥と話す機会を得られたことに、俺はホッと胸をなでおろした。
数分も待たずに、ガチャリと音がして玄関のドアが開かれた。
「お待たせしました」
当然ではあるが、白鳥は制服ではなく私服だった。
黒の半袖ニットに白のロングスカート、本人の細身のスタイルもあってか、素直に綺麗だと思った。
白鳥の私服姿に気を取られ動かなかったせいか、白鳥が怪訝な顔をする。
「何をそこで突っ立っているのですか? 早く上がってください」
白鳥の指示を受け、自転車をガレージの端に置いた後、屋内に入った。
館にふさわしい広い玄関ホールのすぐ近くにある、客間に通された。
客間は歴史の教科書で見るような本格的な和室で、奥のスペースには壺に入った花と掛け軸が飾られている。中央に設けられた木製の机の上には、ピッチャーとグラスが二つ用意されていた。
奥の席に促され腰を下ろすと、白鳥が「すみません、冷たいものが水しかなくて」と詫びながら水を注いでくれた。
俺は礼を言って、それを一気に飲み干した。暑さと緊張でカラカラに干からびていた喉は、一瞬で潤いを取り戻した。冷水が食道を通っていく感覚が気持ち良く、思わず声が漏れる。
「ぷはーっ。生き返るわー」
「大袈裟ですね」
白鳥は少し表情を緩ませながら、再び水を注いでくれた。
次いで自分のグラスにも水を注ぎ、ピッチャーを置いたところで白鳥は手を止めた。
「体調は大丈夫なのか? 崩してるって聞いたんだけど」
「えぇ……大丈夫です。少し疲れが溜まっていたのでしょう。昨晩しっかり眠りましたので問題ありません」
大丈夫とは言うものの、顔色からして完全に回復しているわけではなさそうだ。
それに、俺にはどうしても白鳥の頭上に浮かぶ真っ赤なLPがチラついて、安心することができない。
だから俺は良いタイミングだと思い、以前から気になっていることを訊いてみた。
「お前、病気を患ってたりするのか?」
「いえ、そのようなことはありませんけど。どうしてですか?」
もうすぐ死にそうだから、とは口が裂けても言えない。
問い返されると思っていなかったので、答えるのにまごついてしまう。
「いや、その、今回の体調不良は持病が原因だったりとかするのかと思ってさ」
「あなたは意外と心配症なんですね。私は少々疲れが溜まりやすい体質のようですが、それ以外は健康そのものですよ」
本人の話が正しければ、このLPは持病によるものではないようだ。これは大きな収穫だ。
彼女を救える可能性がまだ残っている。
「そっか。なら良かった。それで体育祭の件なんだけど、進捗はどうなってる?」
本題を口にすると、白鳥は俺から視線を逸らし、伏し目に答えた。
「……予定より少し遅れてはいますが、問題ありません」
怪しい、と俺は思った。普段の白鳥なら優等生然とした態度で堂々とものを言う。しかし今はどうだ。
まるで似合わないしおらしい態度で、後ろめたさからか俺と目を合わそうとしない。
これまでに見たことのない反応だった。




