13話 軟禁ホームルーム
あれから一週間が経過するも、白鳥とは何一つ進展がない。
接触すらしていないので当然の結果ではあるが、仕返しの『し』の字も出ないほどの没交渉だ。
実は、文句の一つでも言ってやろうと何度か話し掛けようと思ったのだが、その度に白鳥に貼られた『変態』のレッテルがボディーブローのように攻めてきて、俺を萎えさせた。
その結果現在に至る、というわけだ。
今日こそ何とかしなければと思っていたが、気付けば放課前のホームルームに突入していた。
今日も残念でしたと尻尾を巻いてとっとと帰りたいところなのだが、早く帰れそうにない。
以前から担任に言われていたことなのだが、今日のホームルームでクラスの学級委員を決めることになっており、決まるまで終わらないのだ。終わらないと言っても、俺たちはブラック企業に勤めているわけではないしそもそも社会人でもないので、それなりの時間になれば担任が強制的に任命するだろうから、ある程度の時間軟禁されるだけなのだが。
とはいえ、高校生活という短くも尊い貴重な時間を無為に過ごすのはいただけない。
できる限り早く解放してほしい。
「それでは、今から学級委員を決める。まずは男子から決めようと思う。誰か立候補か推薦があるやつはいるか」
担任の辻先生が口火を切った。
辻先生は少し腹が出た中年男で、年は確か四十代ぐらいだと入学時の担任挨拶で言っていた気がするが、興味がないので忘れてしまった。
LPは橙色で、残り三分の一といったところだ。四十代と仮定すると、今の時代的には長生きとは言えないだろう。
担任の声に反応する生徒は誰一人としておらず、教室内は静まり返った。
当然だ。誰が好き好んで面倒な役を引き受けるというのか。
いるとするならそいつは、余程の自信家ぐらいだ。
「なんだ、覇気がないなーお前たちは。男のくせにみっともない。女子からの推薦でも構わんぞ。誰かおらんか」
なんだその「男に呆れた女」みたいな罵倒は。このご時世セクハラ発言だぞ。
それでも挙手するものは現れなかった。
「これでは埒が明かんな。とりあえず男子は後回しにする。では、女子の学級委員に立候補もしくは推薦するやつは挙手」
さっきのデジャブが起こるだけだと思っていたのだが、女子は違った。
ピシッと一本の腕が天井に向かって綺麗に伸びている。
俺の席は最後列なので、その手が誰のものであるかは一目瞭然だ。
「おぉ、白鳥。立候補か、それとも推薦か」
「立候補です」
やはりだ。こんな面倒な役を自ら引き受けようとするものは、こいつみたいな自信家しかいないのだ。
女子はこれで決まりだろう。男子もさっさと決めてもらってお開きにしてもらいたい。
「そうか。では、他にいないか」
数名の囁き声がちらほら聞こえてはいるが、挙手するものはいなかった。
「よし、じゃぁ女子は白鳥で決まりな。男子、白鳥を見習えよ。もっと男らしく果敢にチャレンジしてもらいたいな。で、誰かいるか」
数秒の沈黙の後、男子が一人手を挙げた。
「お、青山。立候補か推薦か」
これも必然だ。涼介は優秀な上に空気の読める、真の完璧な男だ。男子の学級委員が決まらず担任がやきもきして不穏な空気になる前に、自らが犠牲となって場を収めんと手を挙げたのだ。
感謝の意を込めて、帰りにジュースでも奢ってやろう。
「推薦です」
ん? 推薦?
「誰を推薦するんだ」
「赤崎隼人くんを推薦します」