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【休載中】Savage Fairytales(外伝)  作者: 高山 理図
第1章 真夜中の御伽噺
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第16話 言霊の手ほどきとその威力

 ルカがシャワーを浴びている間に、ターニャはシュウと二人、リビングで紅茶を飲んでいた。ターニャの家にはリビングに大型の暖炉があり、たまにしか使わないが北国の風情があって彼女は気に入っている。


 シュウに遠慮して、火力は控えめだ。二人でといっても紅茶を飲んでいたのはターニャだけで、シュウはいつも水を飲む。水道水を飲むよりはと、ターニャはミネラルウォーターを注いでやった。彼はいっぱしの子供のように甘いものをねだらず、彼の食生活はターニャが気の毒になるほど実に質素だ。ターニャが何を薦めても何一つ食べず手をつけようともしない、最初は遠慮をしているのかと思っていたがどうもそうではないらしい。

 彼の身体は血液以外の不純物を受け付けないという。ターニャはひとまず、先ほどからじっと彼女を見つめているシュウの視線に困惑する。


 シュウはターニャの買ってきた服に袖を通したが、すぐに脱いでしまった。実体化率の高いシュウは霊だというのに人間の服をそつなく着こなす。顔色が悪いということに目をつぶれば、彼はようやく一般的な子供のように見えた。彼には黒のニットとジーンズという、ルカとは対照的な服装を選んだのだが……。ターニャに気をつかって、昼間は着るよ。とだけ言って鼻を鳴らした。


 彼が纏っている白衣は彼が霊として誕生した瞬間から纏っていたものであり、彼の霊体と同じく反実体化物質だ。彼の如意に自在に実体化し、あるいは非実体化する。つまり彼は白衣を着ていなければかなり実戦で不利となる。その点は彼にとって引っかかるようだった。服ごときで他の自然霊に不覚をとられたくないということだ。


「ねえ、私の顔になんかついてる?」

『ううん』

 彼は困惑したように首を振る。ターニャは席を立ち暖炉に向かい、灰を崩して新たな薪を火にくべた。薪は勢いよくはぜて燃え上がり、火の粉が飛ぶ。彼も暖炉の近くにきて、ターニャの手伝いをするように新たな薪を渡した。彼女は暖炉の至近距離にやってきた雪霊に違和感を覚える。雪霊は火を怖がるものとばかり思っていたからだ。そして現に、シュウの苦手なものは火炎だという記載を、彼にまつわる書籍で何度か目にしたことがある。それは間違いだったのか。


「こんなに火の傍に来て、平気?」

『なんともないよ。どうして?」

 彼はそれを実証するかのように手を伸ばし、火箸で薪を動かした。その手にはかなりの熱が伝わっているはずだ、やせ我慢なら早く火もとから遠ざけなくては。


「いや、きみ雪霊だからとけちゃったりとかしない? 危なくない?」

『普通の炎はたいしたことないよ。あなたと同じ、触れたらやけどするぐらいで。フレームライン(Flameline)の火炎なら危険だけど』

「じゃ、夏バテとかする?」

『湿度があればしないよ』

 逆に言うと湿度0%の環境は、シュウの大きな弱点といえた。高温は大したことないが、湿度がないとシュウは雪霊としての力を使えない。降雪ができないからだ。


「えー、きみ日光も高温も炎も大丈夫なの? 意外と頑丈なんだ。ところでフレームラインって何?」


『火霊だよ』

 正確に言うと、フレームラインは霊族長だ。


 定期的に山林に大規模火災をもたらすのが、彼だ。彼は数年前、南アメリカの西部の森に大火災をもたらした。彼の起こす火災は特徴的で、海から吹き上がってくる風向きを利用し、いつも乾燥地帯で起こるので火力が強くなかなか消火しない。


 しかも延焼のスピードも並みの火災とは比較にならないほど早く、フレームラインの起こした火災は最低でも数百人の命を、膨大な森林面積を生物たちから奪う。


 近現代に入ってようやく人々の消火技術が向上し被害者数が減少したが、動物たちにとっても、人々にとってもフレームラインは有害な霊であるといえた。火霊と雪霊……シュウと対極的な存在がフレームラインなのかもしれない。そしてフレームラインの人々の殺戮を、それが火災という彼の職務にまつわるものである限りウォルターは容認している。つまりシュウも、降雪の過程で何人、何百人人間を凍死させてもウォルターには咎められない。


 それは自然災害による被害としてみなされる。

 ただし、シュウやフレームラインが、たとえば人々を個々に殺してゆけば……即座にウォルターに断罪されるのだ。一種一体の霊ではなくウォルターの殺害対象となるフレームラインは、そのルールをよくわきまえていた。


「シュウくんとどっちが強いの?」

『むこうは稀人を食べてる』


 シュウは実際にフレームラインと戦闘行為をしたことがないので評価しづらいが、フレームラインは稀人を完全に一体、喰らった。喰らったといっても直接的にではなく、火災に巻き込まれた犠牲者のうちに稀人がいたということだ。フレームラインは火炎と一心同体であるので、稀人がフレームラインの火炎によって焼死することは彼が捕食したことと同義だ。


 その結果、フレームラインもまたウォルターの断罪を免れつつ、驚異的な実力をつけた。これに味をしめたのか、フレームラインはここ数年、一回の火災で起こる延焼面積を拡げている。延焼面積が広ければ広いほど、稀人を焼死させる確率も高くなるからだ。


 もしフレームラインがこの地に来てターニャを狙うとすれば、キリクの街に大火災が起こるということを意味している。北国はシュウの領分だ。シュウとターニャがこの街にとどまる限り、ターニャをフレームラインから守ることはできる。


 だが……春になれば、あるいはターニャが降雪のない土地に旅行に行けば……そこはシュウの支配域ではなく、フレームラインの支配域となりうる。ブルータル・デクテイター、アルトラにフレームライン……周囲は強敵ばかりでシュウは頭が痛くなる。


 火箸を持ったまま落ち込んだシュウを励ますように、ターニャはこんなことを言った。

「ねえねえ、わたしの血でよければ何度でもあげるよ?」

『いらない。ルカから輸血用の、もらってるから』

 彼は頑なに拒絶する。


「でも、言ってたじゃない。おいしくなかったんでしょ?」

 ターニャはシュウの口から確かに聞いた。輸液パックの古い血液は彼の口にあわなかったと。

『もう二度と、人のあたたかな血は飲まない。決めたんだ』


 シュウは今後、人に使役され自然界からどれほど蔑まれる自然霊と成り下がってでも、もはや人の血液を摂取したくなかった。確かに人に使役されている限り、それが輸液パックであっても血液には不自由しない。ターニャを稀人として知らしめたシュウのあの行為がなければ、彼女の運命はもっと明るいものだっただろう。恩を仇で返した、シュウはそれを深く悔やんでいた。


「きみは何も食べられない。パンも、ジュースも、野菜もお菓子も食べられない。君には人の血しか食糧がないのに、我慢して古いパックのを飲むの? そんなの体に悪いし、弱っちゃうよ……私は全然平気だよ。同居人同士、助け合わなきゃ」


 シュウは悲しそうにうつむいていた。そんな彼にかける言葉が見つからず、ターニャはトイレに行くためにその場を離れた。シュウはその隙にテーブルに戻り、おもむろに果物に手を伸ばした。ふと思い立って、自然霊として生まれて初めて、人の血液以外の食べ物……リンゴを皮のままかじってみる。彼はひとかけらのリンゴを、無理矢理喉の奥に押し込んで飲み込もうとした。味はなかった。


 ターニャがトイレから戻ってきた。

 彼女はシュウがしていることを目撃して、目を見張った。彼は食べ物を食べようとしている。ぎこちなく咀嚼して、飲み込もうと奮闘していた。ターニャは、はじめて乳離れする子供を目の前にしているように思った。しかし、その瞬間に立ち会うことは叶わなかった。


 彼が飲み込んだ次の瞬間、床の上に落ちたものはリンゴの咀嚼物だ。リンゴは彼の身体を通過して、ただすり抜けて落ちただけだった。彼は次にテーブルの上のクッキーを小さく割って飲み込もうとした。しかし同じようにフローリングの上に、クッキーのくずが落ちただけだった。彼はなおもクッキーを口の中に入れている。


 ターニャはそれを見て、思わずクッキーを握ったシュウの手を取った。

「もう充分だよ。君は食べられないんだ。それでいいんだから。……もうやめて、自分を責めないで。それに、君は私の血を飲むたびに強くなれるじゃない。私は稀人だから、きみを強くするでしょ?」


 シュウはうなだれたまま、わずかに首を振っただけだ。彼の気持ちが、痛いほどにターニャに伝わった。


「まーた暗くなるー。きみねー、霊だからってなにもずっと辛気臭くしなくてもいいじゃない」

 寡黙で陰気でいることこそが霊の仕事のようなものだ。付け加えて、人間を脅かすことも仕事なのかもしれない。陽気で人懐こい霊など厚かましいだけだ。と、シュウは思うのだが。


『あなたはどうしてそんなに明るくなれるの……? 自然霊に命を狙われてるっていうのに』

 とりわけ地霊長アルトラがノードを通ってこの街にやってきて、ターニャを捜しているというときだ……シュウはその情報を、ターニャに告げることができなかった。

 彼女はあれこれ抱え込んで悩んでいるシュウの罪悪感を取り除くように、くすりと微笑んだ。


「君も追放されてるでしょ。狙われ仲間だね」

『あなたの方が深刻だよ』


 シュウはいざ瀕死となればウォルターの助太刀がある。シュウは彼女と違ってそう簡単には死なないが、ターニャは無防備だ。ウォルターは自然霊にとって脅威だが、シュウの命を保証する大きな保険であるということもどこかで自覚している。


「大丈夫だよ。ただ、夜間外出ができないっていうのはちょっと痛いかな」

『あなたは写真家だから、夜の景色も撮影したいでしょう?』


 図星だった。というのは、ターニャは野生動物専門の写真家だ。彼女の被写体は雪原や森で出会う小動物たち。そういった小動物は夜行性のものも多く、ターニャは夜の森に幾度となく足を運び、けもの道を歩き、数々の動物たちをカメラにおさめてきた。森にいるのは小動物ばかりではないので危険な目にも何度も遭ったが、それにもくじけずターニャが数か月と時間をかけて追っていた被写体もある。


 今、彼女は、とある水場で出逢ったシベリアオオカミの親子と、越冬して古い枯れ木の虚にいる孤高の老白フクロウを追っている。定期的に巣穴を見張っていなければ、彼らの居場所を見失う。


 彼女が究極の目標としているのは、ワイルドライフ・フォトグラファ―・オブ・ザ・イヤー(Wildlife Photographer of The Year)という名誉ある国際的な賞だ。その目標に一歩でも近づくためには、とにかくフィールドを歩いて被写体に巡り合う機会を増やさなければならなかった。昼夜を問わず、いつか最高の瞬間を手にするために……。


「うん。でも、シュウくんとルカさんが止めても勝手に行くから大丈夫だよ」

 ターニャは凛とした表情でそう言った。固く結ばれた唇と、意志の強いミルクティー色の瞳。譲る気はなさそうだ。シュウにはターニャの気持ちが手に取るようにわかった。


『勝手に行かないで』

 彼が泣きそうな顔で懇願しても、きっと彼女は家を抜け出してでも行くつもりだ。

「心配してくれるんだ。でも、ビクビクして一生家の中に引きこもるのは嫌だし」

『せめて、一緒についていく』


 ターニャが夜中に抜け出しそうになったら、シュウはルカをたたき起こしてでも彼女についていくつもりだった。だが、本当は家の中にいて欲しい。おねがいだから。ターニャは知らないのだ、自然霊を甘くみている。口では強がりを言っても、いざ命の危険が迫ると腰がくだけ動けなくなるのがせいぜいのところ。話の通じる相手ではない。現にターニャも、土霊を前にして、ウォルターに泣いてすがりついたという。あの恐怖を忘れたというのか、喉もと過ぎればというが、実際の自然霊と遭遇すればその恐怖は土霊の比ではない。しかも自然霊たちは、ターニャを生きたまま喰らおうとするだろう。


 生かしたまま……彼女の絶叫と泣き叫ぶ声を聞き流しながら、つまりターニャの意識を残したまま足から順に食いちぎってゆくのだ。稀人の肉はできるだけ新鮮な状態で喰うのが力を獲る秘訣だとされている。苦痛が少ないようにひと思いに……などという配慮はまずない。


『ターニャ、自然霊に見つかったら食べられるんだよ?』

「そしてそのおばけが強くなって、皆に悪いことするんだよね?」


 ターニャは気を紛らわせるように、磨いていた一眼レフのカメラをシュウに向けて焦点を絞る。ターニャの血液を受けてシュウは高度に実体化しているとルカが言っても、シュウの姿はまだ機械には認識されていないようだ。ピントは彼の後ろの暖炉に絞られ、シャッターを切った。デジタルカメラに映ったのは、暖炉の火だけ。彼の姿は透過して、この世のものとして認識されていない。ターニャは確かに今、霊と話しているということを実感する。


 しかし、まるで霊ではないかのような優しさと思いやりが彼にはある。彼は自然霊であるが、以前は人間だったのではないかと、ルカが言った。ターニャもそうなのではないかと思う。


 シュウにこんなことを言うのは、ひどく残酷だ。だがターニャはどうしても、ルカのいないうちに彼に伝えておきたかった。万が一のときに、どうしてほしいかを。彼女の遺言を。

今すぐに。


「そのときはシュウくん……その前にきみが食べてね、私を」


 シュウはターニャの言葉を聞いて凍りついた。


「君になら食べられてもいい……そのおばけに食べられるぐらいなら。ルカさんが何て言っても、私はそれを望むから。でも約束して。君は誰より強くなって、その力でみんなを助けてくれるって」


『だめだよ。そんなこと言わないで』

 稀人の言葉には自然界を揺るがすほどの力が宿る。彼女がそう言えば、それが現実のものとなる可能性もあるのだ。くるのだろうか、シュウがブルータル・デクテイターによって究極の事態に追い込まれ彼女を喰らわれるぐらいなら、彼女を喰らってやりたいと思うようになる日が? 


 嫌だ、そんなのは……嫌だ。シュウは震えるように、小刻みに首を振った。

 そんなことになるぐらいなら……シュウはターニャに重大な、あることを教えようと決意した。


『……ねえ。僕に“動くな”って言って』

 シュウは唐突に、しかし真剣にそう言う。彼はまたしても追い詰められているように見えた。

「どうしたの急に」

 いつになく必死なその様子にターニャは苦笑したが、彼はどうしてもと言ってきかない。

『言ってみて。心からそう念じながら。本気でだよ』

「それ何かの遊び?」

 ふざけることのないシュウだが、何かの遊びでそう言っているのではないのだろうが……。それほどに、その要求は些細で他愛もないことだった。どうしてそれを要求するのか、その理由を訊きたくなるほどに。


『昔ね……たったひとりだけ、霊に殺されなかった稀人がいたんだ。彼女は……言葉の力を使ってね。稀人の肉体は自然霊の糧となるけどその反面、僕らに影響を及ぼすこともできる。だからあなたが言霊を使えるようになって僕に動くなと命じたら、僕は何があっても動くことができなくなるんだよ。僕だけじゃなく、全ての自然霊に対しても』


 ……ブルータル・デクテイターも稀人の言霊からは逃れられない。ターニャはカメラをテーブルの上に置き、ソファに座り膝に手を置いて前のめりになっているシュウと正対して、深呼吸をして一気にこう言った。


「シュウ君、”動かないで”!」


『……!?』

 シュウは驚いたように目を見開いた。実際に驚いているのだろう。表情の変化に乏しいのでわかりにくいが。ターニャはまさか、と思いながらも一応訊ねてみた。

「どう?」

『あれ? まさか……』

「え?」

『感じたよ、あなたの言霊。すごく痛い、ぴりっとした。』


 シュウはその感触を確かめるように、間違いがなかったかを確認するように瞳を閉じた。言霊は霊を痺れさせると言われている。落雷にも似た痛覚と衝撃だと、シュウは感じた。シュウは霊族長会議の席上、年経た霊たちから一度話を聞いたことがある。痛覚以外はほぼ五感のない霊にとって、あまりにも強い衝撃。これは言霊(SPM)、稀人だけが持つ武器だ。今はほんの一瞬だったが、もっと訓練してシュウを止められるようになったら……殆どの霊を捩じ伏せられる。


「あ、ご、ごめん、痛いんだそれ。知らなかったから」


 稀人が自らの身を自身の力で守るには霊能者になるか言霊を習得するしかない。実在する二人の稀人、ライザ修道会の修道士、六冥宗の道士ともに言霊は使えないと聞いているが……それは体質的なものなので、訓練したからといって必ずしも出せるようになるものではない。シュウは半ば駄目かと諦めていたが、彼女はいきなり言霊を使うことができた。彼女には奇跡的に才能があったようだ。彼女は間違いなく言霊(SPM)を発することができる。これはシュウにとって深刻な脅威であるとともに、ターニャにとってはこの上ない武器ともなる。


「え! やったあ! そしたら、外に行ってもいいってこと? でしょ? 霊に襲われたら、片っ端から“止まれ”って言えばいいんだよね? なら霊なんて怖くなくなるってことだよね!」

 彼女は浮かれた。言霊の訓練次第で夜中に野生動物の写真を撮りにいくことができそうだから。


『確かに言霊は霊にとって絶対的なものだけど、あなたが言霊を発するまでの時間に殺される。いくら訓練しても人間は自然霊のスピードに勝てないよ。有効なのはターニャが先に霊を見つけた場合だ』


 言霊を使いこなすことができれば、確かに霊能者の比ではない。彼女は霊を殺すこともできるのだ、それは絶対に霊能者にはできないこと。だからといって、自然霊にとって万全の備えとなることはまずない。

 だからどうすればよいかというと……。


『僕より強い自然霊をターニャが先に見つけて、“死ね”って言えばいいんだよ』

「え、霊が死ぬの? もう死んでるのに?」

 霊を殺せるのは稀人と、そしてウォルターだけだ。もし彼女の言霊の力が強まれば、彼女は霊を完全に殺すことができるようになる。彼女はブルータル・デクテイターを仕留めることのできる、唯一の人間かもしれない。


『霊も死ぬよ。その場にいる自然霊は、あなたの言霊で殺される』

 彼の眼差しは、ターニャを試しているわけではない。もしシュウがその場にいて、自然霊に向けて発したターニャの、死を命ずる言霊を聞いたらどうなるのだろう。最期の瞬間までターニャの傍にいると言ったシュウは……彼はすぐ傍で言霊を聞くかも知れない。ターニャが望まなければ、シュウは除外されるだろうか?


「そのとき、シュウ君はどうなるの?」


『僕も死ぬよ。それが最善だ』

 ターニャは彼をけなげに、そしていとおしく思った。どうしてそんなことを教えるのだろう……。彼はターニャの生存のために必要な、ありとあらゆる情報を彼女に教えようとしている。たとえ真実を教えることで、彼がどれだけ不利な立場に追い込まれようとも。

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