お花が笑うと私も笑う
プラポットから花壇に植え替えしたネモフィラも次々と花を咲かせてチューリップの足元を囲んでいる。
学校の中庭にある花壇のお世話を始めてもうすぐ1年、高校生になって初めての春休みも“この子達”がすくすく成長するのが嬉しくて、毎日学校へ通っている。
ちょうどバスケの部活もやっていて、体育館から出て来て、渡り廊下をガヤガヤ行く生徒の中に中尾くんの姿を見掛けた。
1年の時、同じクラスだった中尾くん……最初はセンパイ達の中に隠れて顔が見えなかったのに……この1年ですいぶん伸びたんだな……
中尾くんの背中を見送って、また花壇に視線を戻す。
チューリップの花茎の先っぽの蕾は大きく膨らんでそよ風に揺れ、ゆっくりとカウントダウンを始めている。
「ふふ、なんだか中尾くんみたい……」
思わず口に出してハッ!とした。
『少年が大人になる瞬間って尊いよね!』って言ってたのは同じクラスで仲良くなった心優。大人っぽい子でクラス委員の牧田くんとデキてるって噂だけど実は『中尾くん推し!』
私が中尾くんに目が行くのは、きっとこの子の影響だ!
中尾くんは……背が伸びて逞しくなっていくにつれ、女子の間では“株”が上がっているのだけど、きっと落ち着く先は心優だよね……
心優と別々のクラスになるのはイヤだけど、中尾くんとは別がイイかな……キモチをこじらせてしまいそうだから……
「この青い花! なんて言うの?!」
いきなり声を掛けられて「キャッ!」と叫んでしまった。
だって!!!
向うへ行ったはずの中尾くんが後ろに居るんだもん!!
「ゴメン!!花壇に上村さんが居るのが見えたから来ちゃった!」
「えっ?! でも“バッシュ”は??」
「ん?下駄箱からダッシュで来た!」
「ええ?? 何で?!」
「何で?って……上村さんが居るから」
サラリとこんな事を言われて私の心臓はバクバクだ!!
「ハハ、そうだよね!部活でも無いのに春休みに学校居るのはおかしいよね!!」
「えっ?! 花壇のお世話でしょ?! 上村さんがいつもお世話しているの、オレ、見てて知ってるから」
こう言われて私はもう!!
自分の心の中が出てしまわない様、必死に取り繕う。
「……そうなんだ 知らなかった……」
「あ、ストーカーじゃないから!! 引かないでね!」
そう言って見せてくれた中尾くんの笑顔が眩し過ぎて私は堪らず目を伏せた。
「怒った?」
「怒る訳ないから……」
「ホント?」
その問い掛けに頷く私に中尾くんはますます笑顔になった。
「良かった!! せっかくまた同じクラスにしてもらったのに、上村さんから嫌われたらどうしようって!!……」
「えっ?!えっ?!」
と戸惑う私に中尾くんは教えてくれた。
「バスケ部顧問の片山先生が今度の担任なんだけど……頭下げまくって上村さんの事、スカウトしてもらったんだ!」
ああ、中尾くんって!!
今にも咲き出しそうなこのチューリップみたい!!
もう!私のコイゴコロは!!このひと言で完全に花開いて……幸せな風に揺らいでいた。
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「表のプランター、ネモフィラが花盛りだね!」
仕事先から直接来てくれた大翔くんの顔を見て私はホッ!とした。
やっぱり……産婦人科は初めてだし、私、緊張してたんだ……
そんな私の隣に座って大翔くんはそっと手を握ってくれる。
「いつだってふたり一緒だから! 心配ないよ! だからいっぱい笑お! 僕たちの好きな花たちの様に……」
大翔くんの優しい言葉に……
私は泣き笑いしそうになる……
大翔くんの手をキュッ!と握り返した時、
「中尾さ~ん! 中尾花音さ~ん!」と私を呼ぶ看護師さんの声が聞こえた。
おしまい
なるだけ可愛いのを書きたかったのです(#^.^#)
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