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それから私は

作者: 籠目

その日は、上手くいかない事が連続で続き、意識しなくとも涙が出てきてしまうくらいには疲れ切っていた。

私は、重い足取りで帰宅していた。


なにか癒やされたい。

癒やしが、欲しい。


泣いて赤くなった目を気にしながら、家に向かって歩く。


ふと、のろのろと動かしていた足を止めた。

目の前には、百円ショップがあった。


ここに何かあるだろうか、そう思いながらまるで吸い込まれるように店に入っていった。



店内は思っていたよりも広く、一周するのにも時間が掛かってしまうほど沢山の物が置いてあった。


私は、残り少なくなってきた鼈甲飴の補充分を片手に、店内をふらついた。


懐かしい物が目に入った。


シャボン玉だ。


何年もやっていなかった懐かしさから、思わず手が伸びた。


少し明るい気持ちになりながら、飴とシャボン玉を持って会計を済ませ、家に帰った。


夜ご飯を食し、入浴し、暖かくなった体のまま外に出る。


秋とは思えないほどの寒さで、ひやりと肌の表面を風が撫でた。


私は、先ほど買ってきたシャボン玉を取り出した。


ピンク色の入れ物。黄緑のストロー。懐かしさがにじんでいる。


早速、液にストローをさして吹いてみる。



ふぅ。


キラキラ、と夜の街灯がシャボン玉の中に閉じ込められて空高く上がっていく。


私は夜にシャボン玉をしたことはなかったので、不思議な気持ちに包まれた。


辛かったことも、悔しかったことも、吐いた息と共にシャボン玉の中に閉じ込められて、

輝きながら遥か頭上で割れて行く。


まさか幼いときに飽きるほど遊んでいた物が、こうして今疲れた心を消してくれるとは

過去の私は一ミリも思わないだろう。



それから私は、シャボン玉が好きになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 癒しというのは、身近だけれども、記憶から遠ざかったものにあるかもしれないと思えるような小説でした。とても良かったです。 [一言] シャボン玉、良いですよね。自分も子供たちが遊んでいるのを見…
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