7話 わたし物書きなので、文書捏造は任せてください
ら、とっ捕まりました。
なんで????
なんでもかんでもありませんでした。わたしが本人の前で呼び捨てにしたのはアウスリゼ王国の王太子殿下なのでした。不敬罪。しぬ。助けて。
一時間くらい拘束されてからエメリーヌさんが帰って来られたらしく、異国のアウスリゼ信奉者だから容赦してやってほしい、と王宮に嘆願書を提出してくれたようです。夕方くらいに釈放されました。捕まっている間ちょっと泣きました。今から古着屋さんに行って、それから不動産屋さんに間に合うでしょうか。なんでわたしグレⅡ世界に来てまでタイムアタックしているんでしょう。なんだかよくわかりませんが、反省文みたいのを提出するようにと言われました。書式は、とお尋ねしたら、好きに書け、と言われました。いいんですかそんなんで。
どうやらリシャールは飛び込みで警察署の視察に来たようです。なんというタイミング。善良な一般市民が出入りする場所にサプライズするなや‼ わたし市民登録してないけど‼
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説明しよう‼ 『リシャール』とは‼
グレⅡ世界での主要舞台アウスリゼ王国の正統王位継承権第一位と目される人物である‼
『王の器』を量るために伝わる神器、『王杯 (キングス・グレイル)』が次代へと選んだ一人目の人物。複数の選択肢が示唆されるという前代未聞の裁定に、アウスリゼ王国は二分されることになる。
グレⅡのシナリオの起点となる人物であり、プレイヤーが操作できる主要キャラ二人のうちのひとり。どちらかの視点を選んでゲームを進めることになる。
豪奢な短い金髪に碧眼で、第一王妃である母に似た美形。性格は軽薄。だが情に厚く、懐に抱えた者への愛が強い。二十三歳。
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――そんなやつが突然目の前に現れたら声上げるでしょ。グレⅡオタですよわたしは。何回あいつのシナリオ回したと思ってんねん。わからん、気が遠くなる回数。わたしの推しがたくさん出てくるルートですから。
蒸気バスで古着屋さんの最寄り停車場まで行きました。まだ開いていて良かったです。住所が定まったことをお伝えしたら、服は届けてくださるとのことでした。ありがとう。
バスでまた移動しようと思いましたけどいい時間のがなくて、結局歩きました。もう日が沈んでいて、不動産屋さんは閉まっているかなーと思ったのですが、わたしを待ってくれていたみたいです。すみません、大金なので持っていたくなかったので助かります。
お支払いも終わって、ラ・リバティ社にも顔を出しました。むしろ今からが書き入れ時っていう感じで、煌々とオイルランプがいくつも点いていました。
「そうかー、家が決まったかー、よかったなあ!」
ヤニックさんはいらっしゃいましたが、さすがにトビくんはいませんでした。さすがに。お菓子ありがとう、といらした社員さんたちが挨拶してくれました。いえいえこちらこそ。
本当に、本当に疲れました。なにもしていないんですけど。
社員さんのひとりが外に出る用事があるということで、馬車でわたしの家の前まで送ってくれました。じゃなきゃたどり着けなかったかもしれません。みんなやさしい。
アウスリゼ三日目の夜も、カーテンのない部屋でブランケットにくるまり夢も見ないくらい深く寝ました。
おはようごいます(ry。
さすがにお風呂に入りたいです。公衆浴場って朝から開いているんでしょうか。とりあえずタオルを濡らして、体を拭いてみました。なんか自分が臭いので。頭も洗いたいんですが、シャンプーどころか石鹸もないのでした。買ってこなきゃ。とりあえず昨日行ったカフェ探して、朝食食べて来よう。わたしこっちに来てから、ちゃんとまともな食事できてませんね。痩せたでしょうか。痩せてるといいな。痩せてろ!
三十分くらい歩いたら見つけました。ちょうど看板出したところでした。昨日と違うものを頼んでみます。紅茶をたくさん飲みました。
そして、店員さんに公衆浴場はいつごろ開店するのか尋ねてみました。もうすぐ、というざっくり回答が来たので、それを信じてちょっと足を向けてみます。いちおうタオルも持ってきました。着替えまだないけど。
てゆーか、雑貨屋さんにキャミみたいなのとかショーツとか下着も置いていたのですけれど、男性店員さんがレジのときに買えないなあ、などという乙女心からスルーしたのでした。一応女子ですのでわたし、ええ。
公衆浴場、来てみました。開いていました。入場料の支払いのとき、かなりじろじろ見られました。石鹸も買いました。浴場というか、シャワールームですね。プールにあるような個室がずらっと並んでいます。中に入って鍵を閉めて、そこで服を脱ぎます。
ちゃんとお湯が出る! ショーツを洗ってそれで体を洗いました。一石二鳥? 固く絞ったらまた穿いていけると思うので。時間制限があるみたいなのでとにかく手早く。髪の毛にもがしがし石鹸をこすりつけます。シャンプーとリンスって存在するんですかね。ここには売ってませんでしたので、高級品なのかも。そういえば某俳優さんが某八つ墓村映画で主演のとき、役作りのために石鹸で髪の毛洗っていたって言ってました。わたしもそういうことにしておきましょう。はーすっきりした。最後めっちゃ冷たい水が出てびっくりしました。
「ありがとうございましたー」と言いながら浴場を後にしました。めっちゃガン見されていました。そんなに珍しいかモンゴロイド。
濡れた下着をつけたまま歩き回りたくないので、まっすぐ帰宅します。お昼ごはんを確保しようと雑貨屋さんに寄ったら、カーテンができたのであとで取り付けに来てくれるとのことでした。ありがとうございます。嘆願書を出してくれたエメリーヌさんへのお礼に日持ちするスコーンも買いました。ところでお兄さん以外の店員さんはいないんですかね。下着は百貨店で買うことになりそうです。
あっ、お隣さんへのご挨拶忘れてた! 午後に古着屋さんから服が届けられるはずなので、それが終わったら行ってくるかなー、百貨店。
文机に向かって反省文の文面を考えていたら、雑貨屋さんがカーテンを持ってきてくれました。まるでなにもない部屋になんとも言えない顔をされて、カーテンをつけた後、たしか姉の家に使っていないベッドがあるがいるか、と尋ねてくれました。いる、と答えました。ありがとうございます。みんなやさしい。
古着屋さんを待っている間に、反省文を書き終わりました。便箋で十六枚になりました。会心の出来です。涙なしに読めません。これでリシャールも心揺さぶられわたしもお咎めなしでしょう。知らんけど。
配達員さんが午後イチで来てくださったので、百貨店ついでに警察署へ提出にも行けそうです。違う服に着替えました。トップスはオフホワイトのブラウスで、緑地に黄色のチェックが入ったマキシ丈ジャンパースカート。かっわいいー。では、いってきまーす。