4話 これも一種のチートな気がしますね
どうやらわたしは『旅行中になにかのトラブルで同行者とはぐれてしまった異国のいいとこのお嬢さん』ということでトビくんと偉そうなおじさんの間で話がまとまったようです。
着替えさせられたのは、上等な服を汚したら困るだろうという配慮のようで。ありがとうございます、ヨンキュッパです。とりあえずなにも言わずにその流れで行くことにしました。ちゃんと正直にかくかくしかじかしたんですけどねー。
偉そうなおじさんはヤニックさんとおっしゃるそうでやっぱり偉い人でした。上から二番目の人。一番目はオーナーさんでしょうから、実質現場の最高責任者とかそんな感じじゃないでしょうか。知らんけど。
そのうちトビくんが帰ってきて、明日いっしょに警察署へ行くことになりました。え、やだ。とりあえず今日はもう休みなさいって、いつも宿直の方とかが使うらしいお部屋を貸してくださいました。ありがとうございます。
こちらに来てからけっこうな時間が経っていたからか、気が抜けてすぐに寝入ってしまいました。
おはようございます。朝です。エンタメはテンポが大事ですからね。ええ。ところでわたしたいへんなことを思い出しました。昨日公衆トイレを出てから、手を洗っていないのです……ばっちい!
起きて部屋を出るともう働いているっぽい若い男性がいます。声をかけていいかわからないので音を立てないようにそっとドアを閉めました。ら、「おはようございます」と言われました。頭を下げてわたしも返します。洗面所の場所を教えてもらって、やっと手を洗えました。よかったです。
男の人が気を遣ってクッキーみたいのをくれました。そういえばこちらに来てからわたし飲まず食わずなのでした。ありがたくいただきます。お部屋の隅にある応接セットみたいなところに座って食べていたら、他の職員さんが紅茶をマグカップでくれました。ありがとうございます。みんなやさしい。
トビくんが来ました。朝の新聞配達やこまごまとした仕事を終えたみたいです。勤労ショタえらい。ヤニックさんは外のお仕事があるので今日は午後から出社するそうです。なので二人で警察署に行こうと促されましたが、気が進みません。だって、行ったところでなにを話せばいいんでしょう。グレⅡへの愛を語ればいいんでしょうか。わたし重いですよ。
でも行かなかったらトビくんが怒られそうなので観光がてら行くことにしました。途中どこかで古着屋さんとかに寄ってほしいとお願いしました。「なんで?」と聞かれたのでワンピースを換金したいと言ったのですが、「おれが知ってる古着屋さんで、あんな上等そうなの、引き取ってくれる店はないよ」と眉毛を八の字にされました。かわいい。
じゃあ警察さんに尋ねてみることにしましょう。ワンピースを入れるのに、トビくんが配達用のバッグを貸してくれました。
警察さんすげー。なんかめっちゃすげー(語彙力)。
石造りの外観でした。めっちゃ堅牢です。入り口のところに制服警察さんが見張りで立っていたのですが、ここの前で悪いことしようとか考えないと思うので必要ないと思います。王都ルミエラの中でも一番おっきい中央警察署ですね。ラ・リバティ社がある区域はここの管轄なんだそうです。
トビくんが昨日のうちに話を通してくれていたので、すぐに中へ入れてくれました。ふつーに事務室です。窓のない小部屋とかじゃなくてよかったです。
女性警官さん(かっこいい)がいらして、事務机を挟んで両側の椅子にそれぞれで座りました。トビくんはわたしの隣。かくかくしかじかしました。それはもう正直に。折に触れてグレⅡへの愛をちらつかせたら異国のアウスリゼ王国信奉者と思われてしまったようで、とっても微妙な苦笑をいただきました。まあ間違ってはいない。まじで行きたいと思っていたからな、おお麗しのアウスリゼ‼
とりあえず、わたしっぽい人のお尋ね情報とかはないそうです(そりゃそうだ)。
滞在場所を教えてくれと言われましたが、「これから決めます」とお伝えしました。ちょっとの間だけラ・リバティ社に言付け係をお願いする感じで話がまとまりました。そしていい感じの古着屋さんがないかをお尋ねしたところ、「わたしが使っているところでよければ」と地図を描いてくださいました。それに紹介用のお名刺まで。エメリーヌ・ボワモルチエさんとおっしゃるそうです。名前までかっこいい‼
警察署を出ました。シャバの空気はうまいぜえ。古着屋さんの地図を渡して、トビくんに案内してもらいました。
そこそこ遠かったです。ちょっと高級そうなお店。入ったとき店主さんにちょっと不審そうな顔をされましたが、わたしがラ・リバティ社の制服を着ていたからか、すぐに笑顔になりました。
エメリーヌさんの名刺を見せて、紹介で来たことを強調しつつ買い取りをお願いしました。ワンピースを見せます。クリーニング出してないんですがいいんですかね。まあ出せって言われても出せませんが!
店主さんが眼鏡を上げたり下げたりしてワンピースを検分します。
これ知ってます、値がつかない商品を査定するときに店員さんの優しさで一応それっぽく振る舞ってくれるやつです。がっかり。ご高齢一歩手前くらいのやせっぽち店主さんは時間をかけて見た後、わたしの顔へと視線を移しました。
「いいお品物ですねえ。デザインはこちらのものに似ているが。素材がここいらのものとは違う。縫製もとんでもなく細密で癖がない。異国から持ってこられたものですか?」
「ええ、まあ。そんな感じです!」
「ぜひこちらで引き取らせていただきたいのですが……あいにく、先ほど売上金を銀行に運んでしまったばかりで、今店に動かせる現金がそれほどないのですよ。無理なお願いとは思いますが、現金で七千リゼ、そして当店の商品を十着程度でいかがですか。十五着でもいい」
息を呑みました。七千リゼって。それって。あれ、あれですよ。グレⅡの中で一個隊一カ月の運営費用とかですよ。まじかー、現代日本通販商品最高かー。ありがとうベル◯ゾンー。わたしは顔色に出さないように「いいでしょう」とうなずきました。トビくんが硬直しています。それはそう。たぶん一般人の年収とかに匹敵するかもしれない額かも。知らんけど。
「では、今用意をいたしましょう。商品も、お好きにご覧になってください。きっとぴったりのものがあるでしょうから」
※数日分予約投稿済みのため、小説情報の総文字数が多めに表記されています