34話 それなりに、日常に戻るための努力はしています
「おっはよおおおおおおおおう‼」
ちょうハイテンションなあいさつで起こされました、おはようございます! 新居第一日目の朝です! 起こしてくれたのはルームメイトのレア・バズレールさんです!
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説明しよう‼ 『レア・バズレール』とは‼
グレⅡマディア公クロヴィスサイドのシナリオのノンプレイヤーキャラクター(NPC)のひとりである‼
クロヴィスの敵対陣営であるリシャールの諜報部隊『グロリア』の工作員。一般人に成りすまし、美しい容貌を駆使して様々な諜報活動を行う。クロヴィスへの人的諜報(セクシャル・エントラップメント含む)のためマディア公爵領内に潜伏している。
二次創作では『グロリア』の長であるジル・ラヴァンディエと恋仲として描かれることが多い。
真っ直ぐなプラチナブロンドに、少し青みがかった灰色の瞳。
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ジルの彼女、きたーーーーーーー‼
いやあ、実写怖い。ほんと怖い。まじで美人。怖いくらい美人。これはもうハニトラひっかかりますって普通なら。キレイなお姉さんは好きですか? はい、だいすきです! みんなも好きだろ? え? 素直になれよ。わたしは大好きだ。だから相手がわたしの監視員でもぜんぜんおっけー!
朝起きて一番最初に見る顔が美女って最高じゃないですか。人間やっぱりキレイなものとかわいいものは愛でたくなるし大正義なんですよ。
どのくらい美人かと言いますとね。わたしと並んだらおフランス人形とモアイこけし。もうまじでそんな感じ。おまえモアイほど彫り深くねえだろ言うな。ただのこけしだろ言うな。
ちなみにモアイこけしは、リビングに飾られました。なにかの折りに見せたらレアさんがいたくお気に召したようなので。ときどき触ってるので動いているのはそのせいだと思います。
なんてことを考えながら「おはようございます‼」と起き上がろうとしたわけですけども。むりでした。はい。
「アシモフ、降りなさい。ソノコが困っている」
わたしの上の物体が頭をあげてわたしの顔を覗き込みます。わんこです。わんこがいます。中型犬くらいの大きさなのに子犬なんだそうです。白のサラサラもふもふです。さらもふ。ちょっとレアさんに似てる。かわいい。でも重い。中型犬サイズ子犬重い。たぶん、アフガンハウンドみたいな犬種。アフガニスタンここにないけど。べろんべろん顔をなめられ始めたところで、レアさんが抱き上げてくれました。
「ごめんね、ソノコ。この子あなたが好きみたい」
「光栄です‼」
まず顔を洗うために一階のバスルームに行きました。お手洗いはお風呂と同じ空間にある、アメリカンな感じでした。アメリカないけど。ここアウスリゼだけど。
それに‼ バスタブが‼ バスタブがあるんですよ‼(大興奮)
小学生のときに同じクラスだった彩花ちゃんのお家にあった、ジェニーマンションロサンゼルスみたいなお風呂です‼(伝われ)(むり)
水道の形式はひねる蛇口ではなくて、しゅこしゅこするやつです。しゅこしゅこ。たいへんだなあと思ったんですが、蒸気で汲み上げる仕組みらしくて、何度かしゅこしゅこしたら後は止めるまで勝手に動いてくれるそうです。いいね!
昨日はちょっと入る余裕がなかったんですが、今日はぜったい入る! 垢すり! 垢すりするの!
一日の予定としては、午前中に病院へ行って、午後から交通局へごあいさつに行ってきます。あと、住所変更ってどこでどうやってするんだろう。あとでレアさんに聞いてみよう。
まずは病院。いつもはちょっと待ち時間があるんですけど、今日は三人くらいしか先に待っていませんでした。
「同居者さんはどう? うまくやって行けそう?」
ドクターのフォーコネ先生が微笑みながら尋ねてくださいました。先生だいすき。黒縁メガネがお似合いの色っぽい女医さんです。これまでの人生いろいろあったっぽいオーラと陰の方です。だいすき。
「はい、良き理解者になろうとしてくださって。わたしがこうして先生にお話を聴いていただいていることも、承知の上で受け入れてくださいました」
「それは良かった」
「それに、わんちゃんがいるんです! おっきくて白い子犬!」
「あらあ! 最高ね! 子犬、子犬はいいわよ、すごくいい!」
子犬すごくいい! 名言いただきました!
お薬とかは処方されていません。「あなたには必要ないわ」と二回目の診察のときに断言されました。うれしいような不安なような。その代わりしばらくの間週イチで顔見せなさいって言われてるんですけど。
お昼は病院の食堂でとりました。なんとなく未だに、ごはんを食べていたらアベルがひょっこり顔を出しそうな気がしてしまいます。気のせいです。
なんだかんだわたしはこちらに来てから、退屈することのない賑やかな生活ができていたんだと思います。まあ生活に追われていたんですけども。おかげさまで、群馬での生活や置いてきたいろいろなものを、あまり思い出さずにいられました。まったく考えないでいることはむりですけども。いつか帰れるかな、という思いはいつだってあります。そのときまで、元気でいなくちゃ、とも。
そのためにも、まずは毎日のおまんまを食べなけりゃね! 仕事! 仕事に復帰しなきゃ! ということで、交通局にたくさんごめんなさい、のごあいさつです!
「ソノコちゃん、だいじょうぶかい?」
心配そうに言ってくれるのは、トゥーサン・セールさんだけではありませんでした。初めて来た日に面接してくださった、お孫さんが六歳のおじさんも、知らないおじさんも、あの事件のことには触れずにただ「無理するんじゃない」と言ってくださいました。ありがたい話です。
でもですね、無理しないと稼げないんですよ!
アベルが前に言っていたように、身分証がある今なら他の仕事だってできるのかもしれません。でも、ちょっと他の環境に行くのが怖いっていうか。だからといって以前と同じような交通量調査のカチカチがまたできるかっていうと、それもちょっと怖いんですけど。なんかそういうもろもろを加味した、都合のいい仕事ないですかね。なんてことを、言葉を隠さずにお伝えしました。
うーん、とうなってから、セールさんは奥の方に「なあ、来週のあれ、ファピーの計測、決まったかー?」と呼びかけました。「いやー、空きあるよー」との返答。
「じゃあ、ソノコちゃん。交通量調査じゃなくて、単発の催事参加者カウントやるかい? これなら、何度も同じところに行かなくて済むし、午前中の一回だけで終わるよ。交通整理の制服支給されて大勢でやるから、前みたいにきっと目立たないだろうし」
「やります!」
カチカチ、すきなんです。なんだかんだ言ってもね。やった。
まだ誰かにどこかから見られてるんじゃないか、という恐怖心は、けっこうあります。カチカチ始めたら、また同じことになるんじゃないかという心配も不安も。
でも、逃げるようなことはしたくないから。ぜったい負けてなんかやらない。
……だって、悔しいじゃない。






