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3話 グレⅡの世界で確定のようです

『だめだ、オリヴィエ! マディア公爵の思うツボだ!』

『かまいません――私は、私の職責を全うするのみ』

『まて、行くな! 行くなぁあああああ‼ オリヴィエぇええええ‼』


 叫ぶヒマがあるなら身を挺して止めろよ、と誰もが考えるわたしの推しキャラの最期の場面を思い出しつつ、どうやって水を流せばいいのかとわたしは個室の中をくまなく見回しています。

 あの悲劇はもう終わったのでしょうか、それともこれからでしょうか。あれ? これ? ここ押すの? それともこれ引くの? 新聞少年が公衆トイレに連れてきてくれたのですが、もしかしなくても有料な気がするんです。あ、流れた。彼が払ってくれたのでしょうか。ありがとう新聞少年。君の瞳はキレイだ。達者で暮らせ。あれ、ドア開かない。どうやって出るのこれ。


 公衆トイレの管理人女性が助けてくれました。ありがとうございます。手はどこで洗えますか。洗えませんかそうですか。日本製ゲームの世界観だったらそこらへん融通利いてもいい気がするんですが。さっきの噴水のところで洗いましょうか。ハンカチないですが。

 なんと、外で新聞少年が待っていました。すみません払えません。ちょっともじもじしながら宿に送ってくれるって言ってくれたんですけど、「宿、取ってないです」と伝えると不思議そうな顔をしてからにこっとしました。


「えっ、じゃあここに住んでるの? どこ地区? おれもう今日の分のノルマは達成できたから、ちょっと遠くても送れるよ。売り上げだけ店に届けてから」

「えーと、住んでもいないです。迷子です」

「迷子」

「迷子」

 家に帰れないので合ってると思います。それで行きます。ええ。

「え、家どこなの?」

「具体的に言うと群馬県前橋市大手町3丁目ですね」

「……なんて?」

「番地まではちょっと……」

「えーっと、とりあえず聞いたことない場所な気がするんだけど、ここじゃないとこで、遠いところってこと?」

「さすが新聞少年、理解が早い」

「新聞少年て。うーんと……おれはトビ。おねえさんは?」

「あらためまして、三田園子と申します」

「ミタソ=ノコ……?」

「ソノコでお願いします」

「わかった。ソノコ」


 ということでいろいろ説明を割愛しますと、その後トビくんに着いていきました。エンタメはテンポが大事ですからね。べつに要らないでしょわたしの交渉術描写とか。えっ、読みたい? やだわたしってば三話にして読者心掌握しちゃった? しかたないなー、ちょっとだけですよー。


「困ってます、助けてください」

「わかったー」


 連れて行かれたのはトビくんが働いている新聞社です。『グレⅡ』の中でもたびたび出てきていた『ラ・リバティ』という新聞で、ここ『アウスリゼ王国』の中で最大手です。他の新聞社知りませんけど。話の流れ的にここは『グレⅡ』の主舞台である『王都ルミエラ』で間違いなさそうですね。

 と、いうことはですよ。あれです、あれですよ。主要キャラクターがご近所にわんさかいるということ……!


 そりゃあ目を皿のようにして周囲を注意深く見て歩きましたとも。この『皿のようにして』っていう比喩よくわかりませんよね。通行人のみなさん背が高いです。具体的に言うと152.6センチのわたしよりだいたい頭二つ分は高いです。腰の位置も高いです。ふざけんな。

 そりゃそうですよね、ここはグレⅡの世界、ということは神絵師であらせられるところのオレンジ純先生がまだデジタル絵を始められる前の原画が元になっている。ふざけんな。わたしにも適用しろその足の長さ。


 トビくんといっしょに歩いていますし、きっとわたしは子どもだと思われているでしょうかね。アラサーですけど。ちょっとだけ人目が刺さるのはやっぱりロードス島の血が足りないからですか。ちなみにトビくんは十二歳だそうです。勤労ショタかわいい。わたしよりちょっとだけ背が高いのですけれど、ちゃんとわたしを大人として認識してくれているようです。かわいい。


 後日なにかの折に聞いたのですが、なんでトビくんがわたしは年上だと思ったのかというと、「長いスカートのドレスを着ていたから」だそうで。


「おれと同じ年頃の女の子は、まだ短いスカートだから。裾を長くするのは成人しているっていうことだから」


 なにそれグレⅡ隠し設定おいしいごちそうさまです二次妄想捗ります。

 ちなみに女性の成人は十五歳だそうです。まさにわたしがグレⅡに狂っていた年代ですね! さようならかつての青春、こんにちは今まさに直面している青春の形をしたリアル‼ そりゃ思ったことはありますよ、グレⅡの世界に行きたいって。何度も何度も。まさか叶えてもらえるなんて。神様ありがとう?


「よし、着替えろ」


 ラ・リバティ社に連れて行かれて、トビくんから偉そうなおじさんに紹介され、かくかくしかじかしたところそう言われました。なぜ。女性社員さんが奥へと案内してくれて、予備の制服を貸してくれました。裾を引きずるのでウエストでスカートを三回折ります。屈辱。わたしが脱いだワンピースを手にとって女性社員さんがしげしげと見ています。通販でヨンキュッパのやつをタイムセールで30%引きにさらに初回クーポン500円引き使いました。着る機会もうないと思っていましたけどグレⅡ世界にお呼ばれで着回せてよかったです、元は取れました。

 女性社員さんからこれを譲ってもらえないかと言われたのですが、わたしの服ってそれしか今ないんですよね。むしろ唯一の所持品というか。とお伝えしたら、売りに出したらきっと良い値が着くと熱心に言われました。そうですか、よかったです。とりあえず元手ができないと身動き取れませんしね。


 偉そうなおじさんのところに戻りました。トビくんとなにか真剣な表情で話していたみたいです。机がいっぱいの部屋で、いろんなものが積み上がっていていかにも新聞社ーって感じでした。たばこの煙とかの演出があったら完璧です。何人か人がいるのですが、ひとりは机につっぷしたままピクリともしません。だいじょうぶなんでしょうか。

 手招きされて近づくと、トビくんが「だいじょうぶだからね」と言って入れ替わりに部屋を出ていきました。いったいなにがでしょう。

 偉そうなおじさんは偉そうながらちょっとだけ空気を柔らかくして言いました。


「たいへんだったな。今トビを警察にやった。すぐにあんたの情報も出てくるだろう。ルミエラ警察は優秀なんだ」


 なんて????

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感想おきば



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― 新着の感想 ―
[一言] この状況で「だいじょうぶ」と言われても、不安しかないと思うけど……主人公、やっぱメンタル強いなー
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