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227話 そういうのない世界観だと思っていました


さいきん少なくてごめんよ

キリがよいところでね



「――うっわあっぶねえ‼」


 細身剣でのアベルへの不意打ち渾身の一突きが回避され、オリヴィエ様が舌打ちしました。


「あにすんだよ宰相殿⁉」

「いやあ、肩の機能訓練の成果を見ようかと思って」

「それ俺に向ける必要ある⁉ ちょ、待てよ‼」


 少し日差しの強いうららかな午後でした。わたしは哀悼客へ「謹んで」と言いつつ、お庭の奥へと消えていく二人のその姿をほほえましく見送りました。わたしの隣にはオリヴィエ様の代行で美ショタ様が立っています。とりあえずわたしが女主人に準ずるとわかればいいんだそうな。

 たまたまだと思いますが、今日は美ショタ様のご友人が哀悼に来られることが多かったです。まだちょっとそこらへんの文化的なことがわからないんですけど、もしかしたら亡くなられたご本人の友人が先に哀悼へ来て、その後に他の方、みたいなシステムなのかもしれません。いずれにせよわたしはずっとお迎えするんですけど。

 基本は立っているんですが、もちろん適宜座ります。そんなときに美ショタ様が「ソノコはさ」とつぶやきました。


「はい。なんでしょう」

「なんでそんな、ブリアック兄さんのこと、たくさん知ってるの」


 ……なんでこの美ショタはそうやっていつもいつも、クリティカルな質問をしてくるんでしょうか。ちなみに、わたしがブリアックの友人たちへ啖呵切ったりしたの、ぜんぶ皆さんに聞かれていたらしいです。恥ずかしい。「グレⅡって知ってる?」って聞いてみればいいでしょうか。やりこみ型SRPGでわたしの人生なんですが。

 そもそも、なんでわたしが生まれ育った世界に、アウスリゼを模したゲームがあったのか。その段階からわからないので、説明できないんですけどね!

 わたしはうなりました。なんでブリアックのこと知ってるんだわたし。嘘偽りのない言葉で伝えるとするなら、なんと言えばいいだろう。


「――先週。ブランディーヌお母様に、昔の写真をたくさん見せていただきました」


 もちろんそれだけじゃない。わたしにとって、それはただの記録じゃなかった。「……ブリアックさんとまともに会話したことって、じつはないんです」とつぶやくと、美ショタ様は黙ってわたしの言葉が成形されるのを待っていました。


「あちらがわたしの存在を正しく認識していたかどうかも怪しいです。そして、わたし自身、ブリアックさんのことをこんなに深く考えるのは初めてです。ずっと『オリヴィエ様のお兄さん』としてしか見ていなかったし」


 もしかしたら日本に一度戻って、そしてこちらに帰って来たからこそ、思い遣れるのかもしれないな、と感じました。わたし自身が、泣いて、考えて。


「――わたしが、不完全な人間だから。きっと、ブリアックさんも足掻いていたんだろうと思って。知っていることなんてほとんどないです。ただ、わたしの手の届く範囲だけでも、理解したかっただけ」


 もし生き存えることができていたら。十年後でも、二十年後でもいい。「あのころわたしら若かったね」って言い合える未来もあったのかと。

 わたしのその言葉に納得してくれたか、わかりません。でも、美ショタ様はそれ以上尋ねて来ませんでした。ただひとこと「そっか」とおっしゃいました。


 夕方に少しだけ通り雨がありました。今日の最後の哀悼客を見送ると、ヨレっとしたアベルが視界の端に見えました。よくぞ生き存えた。

 オリヴィエ様は「ひさしぶりに体を動かしたな。なまっていなくてよかった」とおっしゃいながら戻ってこられました。汗かきオリヴィエ様もすてき!!!!!


「――オリヴィエ兄さん」


 美ショタ様が自室へ戻られるオリヴィエ様を呼び止められました。振り返ったオリヴィエ様へ、美ショタ様は「あのさ」と小声でおっしゃいます。


「稽古つけてほしい。僕に。明日でいいから」


 聞き耳を立てていたわたしも、オリヴィエ様もびっくりしました。二つ返事で快諾されたオリヴィエ様は、ちょっとうれしそうでした。

 ということで、次の日はわたしの隣にドナシアンお父様が立ったり立たなかったり。お父様はそわそわして美ショタ様のお稽古を何度もながめに行かれました。本当は自分が教えたいんだろうなー。かわいい。イケおじかわいい。

 お泊りになられる哀悼客がいらっしゃらなかったので、ひさしぶりにわたしもみなさんと夕食をともにしました。その席でオリヴィエ様が「テオフィル、いつの間にあんなに動けるようになったんだ?」と称賛混じりの声でおっしゃいます。


「……レテソルにいたとき。手が空いてる警備兵とか捕まえて、教えてもらってた」

「そうなのか。学校の訓練だけではないと思っていた。――父さん。よかったら、テオには父さんから教えてあげてくれませんか。きっといい形になる」


 ドナシアンお父様は口元をナプキンで拭いてから「――まあ、いいだろう」と重々しくおっしゃいました。よかったね! そわそわしなくてすむね!

 そうこうして、哀悼の週が終わりました。そして。


「――ではソノコさん。本格的に参りましょうか」

「……はい?」


 ――ブランディーヌお母様プレゼンツ。

 わたしへの、淑女教育が始まりました。


「――肩を引いて。あなたは内股気味だから、たえず足の向きを気になさって。均等に体重をかけるのです」

「はいっ」

「それだとお腹が出てしまうではないですか、引き過ぎです。手は前で組みましょう。これが基本姿勢です」

「はいっ」

「では、基本表情も作りましょう。両目の下に、逆三角を思い浮かべて」

「……はい?」

「口角は少しあげて。――そう。その状態を十分維持してみましょうか」

「……ふぁい」


 ……怒られはしないんですけど。淑女、むずかしい。


「――飲み込みがいいわ、ソノコさん。これならすぐにダンスも身に着くと思うわ」

「……ふぁい? ……だんす?」

「ええ。じつはね、今回の終戦を受けて、ルミエラで五十年ぶりのお披露目会が開催されることになったのよ。うらやましいわ。わたくしは参加したことないもの」


 ……おひろめかい。デビュタント。

 ――異世界恋愛イベントのことかーーーー!!!!!


「え、ちょっとまってください」


 素で返してしまいました。お母様に「ダメよ、姿勢と表情!」と叱られました。はいすみません。


「――え、でも本当にちょっと待ってください。どういうことですか。わたし問答無用で参加になっているんですか?」

「それはもう」

「もちろんだよ」


 オリヴィエ様の声が聞こえました。いつから見られていたんでしょうか恥ずかしい。オリヴィエ様はわたしの前まで来られて「ダンスなんて、私も数えるほどしかしたことないよ。だから特訓だな」とちょっと眉を下げて笑いました。そんな顔もすてき!


「だいじょうぶよ、あなたはわたくしの息子ですもの」

「ええ、母さんの血の導きを信じていますよ。せめて恥をかかないで済むように祈っていていてください」


 専属の先生も来られました。

 まじかー、え、まじかー。

 当然のようにドレスもあつらえることになりました。いやびっくり。

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感想おきば



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― 新着の感想 ―
[良い点] 遺族の一員だとか宰相だとかの立場より、私怨を優先するオリヴィエ様。 [一言] ソノコも実際はいいとこのお嬢様だし、なんやかんやうまくこなすんでしょうねえ
[一言] 淑女教育頑張ってねソノコちゃん! 大丈夫、やればできる! 多分!
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