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197話 年齢のわりにはふさふさしてるなって

 勇二兄さんは目を見開いてフリーズしました。ちょっとしてから再起動しました。そして「……園子は、会いたがらないだろうと思っていた」とつぶやきます。


「まあべつに、会いたいわけではないんですけど。これまで会ったことないし。たぶん。なんでしょうね、けじめ?」

「――わかった、いつがいい?」

「なるべく早く」

「わかった」


 そうおっしゃって。すすいだ食器を水切りかごに置いたら、手を拭いてすぐにスマホをかけられました。


「時間外にごめん、加藤さん。社長の明日の予定、教えてくれないか」


 向こう側でだれかがなにか言っています。ちょっと無言が続いて、勇二兄さんが「じゃあ、十五時に面会入れておいてくれ」と言いました。


「俺と――妹の園子が行く」


 えっ、と向こう側の声が聞こえました。たぶん女声。勇二兄さんは「じゃあよろしく」と言って通話を切りました。


「ありがとうございます。助かります」

「問題ない。ただちょっと、仕事の時間をずらさなきゃならないから今日はもう帰るよ。明日、直接社に来られる?」

「はい、行きます。ついたらちーちゃんに声かけます」

「中村さんには俺も言っておく」


 おお、ちーちゃんが覚えられている。きょぬーだからか、そうなのか。よかった、きっとお給料アップ!

 で、さばの味噌煮炒め、けっこう残っちゃいました。それを勇二兄さんが買ってきたジップロックに入れたんですが、「持って帰る」とのこと。なんで。


「――園子が……俺に作ってくれたものだから。……ありがとう」


 ……えっ、じつはよろこんでくれていた? わかりづらいなあ。とりあえず玄関で見送りました。

 次の日。リクルートスーツを着用して、モアイこけしを入れた黒バッグを持って。数件持っていた銀行口座の通帳と印鑑をバッグに入れて。そのうち三軒の銀行口座を解約しました。内二軒から引き留められましたし、理由を根掘り葉掘りされました。「国外に移住するからです」と言ったら、海外赴任する場合の取り決めとかいろいろ言われて、びっくりするくらい時間がかかりました。たくさんって言うほど預金はなかったのに。銀行も今たいへんなのかな。

 で、お昼ごはん食べて。ひと息ついて。いざ、三田本社へ!


「お待ちしておりました」


 受付のお三方が、わたしの姿を見るなりすっと一礼されました。とりあえず「あ、はい、ありがとうございます」と言って、ちーちゃんに「このまえシフォンケーキありがとう。おいしかった、みんなで食べた」と伝えました。そしたらちーちゃんは真っ赤になって、「うん……三田常務からもお礼を言われて……ごめんなさい、なんだか、お口汚しをしてしまって」とめちゃくちゃ恐縮してしまいました。


「すごく、なつかしかった。おかげさまでいい思い出ができたよ。ありがとう、感謝してる」


 わたしがそう言うと、ちーちゃんはちょっと笑ってから「……あのね、園子ちゃん。結婚するって本当?」と聞いてきました。


「うっ……彩花ちゃんから?」

「うん。園子ちゃんと会えたって、連絡来て」

「あの……うん。……まだ、本決まりとかじゃ、ないんだけど」

「おめでとう! ……あの、お祝いとか送っても、迷惑じゃない?」


 もじもじしながら尋ねてきたちーちゃんへ、どう答えたらいいかわからなくて。わたしが「迷惑なんかじゃないよ! でも……」とまごまごしていると、「園子ちゃんはねー、めっちゃ遠くの国へお嫁に行っちゃうの! だからお祝いなら今のうちにしときなー!」と背後から声がありました。


「あ、こんにちは」

「こんにちはー! 行こうかー」


 真くんさんが迎えに来てくれました。右側受付さんからもらった仮パスでピッとして。いっしょにエレベーターへ乗り込みます。他にも待っていらした人いらしたのに、同乗しなかったのはなぜなんだぜ。


「あのさー、園子ちゃん」

「はい、なんでしょう」


 エレベーターの壁に背を預けて腕を組んで。真くんさんがどこかをながめながら言いました。ちょっと怒られること想定して身構えたんですが、「ありがとうね」と言われました。


「――僕、わりと失礼なこと言っちゃった自覚あるんだけど。そういうの気にしないで、さくっと行動してさくっと結果出しちゃうあたりとか、なんかほんと園子ちゃん専務に似てるね」

「そうですか。ぜんぜん似てない気がしていたので、血縁証明できてよかったです」

「まあさぁー、とりあえず。これは僕のけじめとして。――ひどいこと言って、ごめんね?」


 謝られても。なんか謝られるようなこと言われましたっけ? 「ちょっとよくわかんないですけど、わかりました」と言って、その謝罪を受け取りました。真くんさんはちょっとあきれたような顔をしてから、笑いました。


「今日さー、ひさしぶりに、勇二が手弁当で来たの」


 ポン、とエレベーターの基盤から軽快な音が聞こえて、上へ進んでいた箱が止まりました。二十八階。降りながら真くんさんは「でさー、すんごくそわそわしてて。つっこんでほしそうでさー。笑えるから放っておいたんだけど」とドSなことを言います。


「お昼にはさすがに無視できないじゃん? 弁当めずらしいねーって声かけたら、ドヤ顔で『園子が作ってくれたおかずがたくさんあったから』とか言うのよ」

「うっわまじっすか」

「まじまじー。さば味噌炒めをぎっしり弁当箱に詰めて。彩り鮮やかに」

「彩り鮮やかに」

「ちょっとちょうだいって言ったけど、くんなかったー。なんか、ここ数年で一番幸せそうだったわ、あいつ」


 なんか勘弁してほしいかんじで恥ずかしいんですが。はい。真くんさんに食べさせないでくれたのがせめてもの救い。

 連れて行かれたのは役員室のひとつでした。入ったらまず応接室、みたいな。重役だからね、勇二兄さん。奥の部屋へ入ると正面に立派なデスクがあって、勇二兄さんが座って、PCをにらみつつすごいスピードで打鍵していました。


「……来たね」

「はい。おじゃまします」

「じゃあ、行こうか」


 すっと立ち上がって。あ、もう行きますか。真くんさんが「いってらっしゃ~い」とひらひらと手を振ってお見送り。さっきとは真反対の方向にあるエレベーターへ、勇二兄さんについて乗り込みます。

 一階だけ上でした。ちらっと腕時計を確認してから歩き出した兄さんに着いていくと、りっぱな両開きのドアがありました。ためらいなく開けて入る背中を追って、わたしも中へ。


「加藤さん、約束には六分早いが、いいかな」

「はい、少々お待ちください」


 ビル入り口の受付嬢さんブースみたいなカウンターがあって、そこに加藤さんと呼ばれた女性が座っていらっしゃいました。秘書さん席なんですかね。内線電話をかけて「いらっしゃいました」と告げます。


「どうぞ」


 開けてくださった扉を、勇二兄さんに続いてくぐりました。加藤さんにじっと観察されているのがわかりました。中にもうひとつドアがあります。勇二兄さんがノックして、「社長、参りました」と声をかけました。返事が聞こえたような気がします。開けて、入りました。

 中には、やっぱりりっぱなデスクがあって。街中を見下ろせるガラス窓がその背後に続いていました。すてきですね。多少逆光でしたが、勇二兄さんをエイジングしたような男性がそこに立っていました。写真で見たよりちょっとくたびれてる。勇二兄さんが「園子です」と言って、わたしに道を譲るように一歩脇へ反れました。わたしは黒バッグを肩にかけたまま、とりあえず「はじめまして」とあいさつしました。クッションなさそうだし。

 しばらく、義嗣さんは無言でした。わたしの姿を見もしません。とりあえずわたしはわたしの考えていることが実行できれば問題ないので、じっとその様子を見て言いました。


「あの、その頭髪。地毛ですか。カツラですか」


 勇二兄さんがびっくりした顔でわたしを見ました。義嗣さんも似たような表情でこちらを見ました。いやだって。


行けたら水金も……

でもいちおう、今週は月木だと思っていてください

あと、企画でVRMMOっぽいのを書きました

おもしろくはないです

気が向いてあまりにも暇でこの世に他の娯楽がないように思えたら読んでみてください



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― 新着の感想 ―
[良い点] ごめんが言える真さん けじめとしてって前置きしてるにしても、ごめんなさいをまっすぐ言えるのえらい 悪いと思っててもなかなか言えなかったりするよね [一言] 覚えてくださっていたとは 素敵…
[良い点] さば味噌炒めを彩り鮮やかにぎっしり詰めるって、どうやって?!あ、なすとピーマンも一緒に炒まってるから出来なくもない? 勇二兄さんの箱詰め技術とセンスに笑ってしまいました。 園子ちゃんに作っ…
[良い点] 園子ちゃんの第一声が! 怒るのか、笑うのか、呆れるのか? どんな人なのか気になります。
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