138話 ずっと聞いてみたかった
おはようございます。あのですね。今日はクロヴィスに呼ばれています。リッカー=ポルカで軍議に参加したというか、連れて行かれたあたりのことの事情聴取です。なので一日マディア邸におじゃまします。よってお見舞いに行けないのは不可抗力です。しかたがないことなのです。はい。そういうことで意識統一よろしくお願いいたします。
午前中にお迎えの自動車が来ました。ミュラさんがちょっとだけ心配そうな顔で見送ってくださいました。ほんとは着いてこようとしてました。でも呼ばれているのわたしだけなのでね。
……ところでリビングのモアイこけし家族、双子ちゃん立っちできるようになったんですねー。小さいモアイちゃん二人かわいいねー。うふふー。
なんだかとてもひさしぶりに来た気がしますが、実際は数日ぶりです。なんかもうその数日でいろいろありすぎて。さあ振り返らないで前へ進もうか。
家令さんが出迎えてくださってクロヴィスが居るところへ連れて行ってくれます。廊下の両サイドでメイドさんと侍従さんたちのおじぎ列ができています。もうこちらでは重役扱いですね。はい。慣れました。
正式な取り調べということで、クロヴィスの他にもいろいろな方がいらっしゃいました。自己紹介を受けましたけれど、書記官さんと警察のちょっとお偉い方二名でした。軍のことでも警察の方が入るんですね。それにもちろんマディア軍の方が数名いらっしゃいます。でもわたしが緊張しないようにという配慮からか、書記官さんと警察の方ひとりは女性の方でしたし、メイドさんたちも控えています。ジャムが乗ってるクッキーも出てきました。おいしかったです。
正直なところ、軍議の内容ってあんまり覚えていません。あのときは『開戦してしまう』という事実に追い詰められて、ただ耳を傾けていることしかできませんでした。
モノクロ写真をいくつもテーブルの上に並べられました。軍議に参加していたおじさんたちの写真です。テーブルに着いていた順番で並べてみてくれと言われましたが、断言できるのは自分の正面に座っていた人くらい。あと、文書の読み上げ係のおじさん。そういうこともすべて包み隠さず述べたうえで、質問されたことにもすべて記憶のとおりにお伝えしました。で、途中で気になってお尋ねしました。
「軍議に参加されたすべてのおじさんが罪に問われるのですか?」
みなさんきょとん、とされました。クロヴィスまで。え、いやだって。みんながどうしてたか聞くから。
「――いや、それはない。そもそも、開戦へ向けての軍事行動すべては、私が指示したものだった。責任所在を明らかにするため必要な仔細を尋ねてはいるが、一番責任があるのは私だよ。彼らは、ただ私に従順だっただけだ」
クロヴィスは少し笑いながら言いました。その笑顔が悲しそうなのを、気づかないふりをしてわたしは「わかりました」と言いました。
だれにも叱ってもらえなかったんですね、クロヴィス。開戦なんておかしい、って。言えない環境だったのでしょうか。クロヴィスのお父さんくらいの年齢の人もいたのに。それはちょっと悲しいな。そんな状況もきっと、明るみになっていくのでしょう。トップダウンだけじゃない組織に、変革していけたらいいね。
あらかた質問が出尽くして、少し昼に差し掛かったあたりで終わりました。わたしから提供できる情報には限りがあるので、わたしへの聴取はそれで完了です。クロヴィスとお昼ごはんをいっしょに食べます。そこで、さっきはなんとなく聞けなかったことを口にしました。
「……サルちゃん。どうなるんですか」
クロヴィスは、今度は悲しみを笑顔で覆うことはしませんでした。いえ、一度そうしようとして失敗して、隠すのをやめました。
「わからない。現状のままなら、ルミエラへと護送してそちらで裁かれることになる」
「なんか、すごく重い罪になりそうですか」
「彼の言い分をそのまま信じたとしても、彼が主導の立場にあったという状況証拠が出揃いすぎているんだ」
「たぶん、あの人本当に指示とかなにもしてないと思うんですけど」
「しかし、自らの名のもとに組織されそれが動くことを拒否もしなかった。それは同意ではないか」
言い聞かせるような言葉でした。それはきっとクロヴィス自身に。先ほどの聴取で把握できましたけれど、サルちゃんはクロヴィスの剣のお師匠だったみたいです。サルちゃんが、前作キャラとして国の英雄であるにも関わらず、国軍に引き抜かれずマディア公爵領の軍隊所属なのも、それがあるからで。
サルちゃんは、クロヴィスの亡くなったお父さんの武具持ち従者として頭角を現した人でした。若いころからマディア軍に従事し、戦前からその腕は買われていて。派兵するにあたってマディアから出した戦力を率いていたと。そしてすばらしい武功を立てて凱旋してきて。きっとかっこよく見えたんでしょうね。クロヴィスにとっては第二のお父さんなのかもしれません。
「――会ってみるか。ミタ嬢。……これが最後かもしれない」
その声色が、悲しくて。なにも言えずにただわたしはうなずきました。
牢屋でした。サルちゃんの身分であれば、もっとちゃんとした禁錮室みたいなところがふさわしいんでしょうけど、サルちゃん自身が望んだんだそうです。根拠はないけれど、なんとなく『らしい』なあ、という感想を持ちました。どうしても他の牢の前を通らなくてはいけなくて、クロヴィスの姿を見た多くの収監者が我先にと反省を述べて酌量を哀願しました。一顧だにしないクロヴィスのスタスタ歩きにびくびくしながら小走りで続きました。
ちょっと広い場所に出て、そこに控えていた監視員さんがクロヴィスへ向けて休めの体勢をとります。ねぎらいの言葉をかけて、さらに奥へ。ここまでくると収監者は少なかったです。途中で、ブリアックが椅子に座ってうなだれているのを目の端で確認しました。
「――やあ、ソナコ。それにクロヴィスくん。こんなほこりっぽいところまでようこそ」
サルちゃんは、領境警備隊のお部屋にいたときみたいに小さな椅子をきしませていました。他の収監者はまだマディア軍の黒い制服を着ていましたが、サルちゃんはリッカー=ポルカのときみたいに普段着です。なので、どうしてここに入っているの、と思うくらい窓際感のある普通のおじさんに見えました。わたしは廊下の端っこにあった木製の丸椅子をとってきて、格子の前に置いて座りました。クロヴィスはちょっと後ろに立っていました。
「なになに。僕とお話しに来てくれたの、ソナコ? 獄中結婚になっちゃうけどいいかな?」
「だめです。ちょっと膝詰めで話したいなーって思っただけです」
そう言うと、にこにこしながらサルちゃんも椅子を持って格子のところまで来ました。そしてわたしと向かい合わせに座ります。
「わあ、ソナコ。あらためてあなた、ちっちゃくてかわいいね。惚れ直してしまうよ」
「ありがとうございます。惚れ直しはけっこうです。わたしサルちゃんにいろいろ聞きたいことがあるんですけど」
「なになになになに。なんでも答えちゃう。僕の口座教えるからそこから結婚費用捻出して?」
本当に六桁の暗証番号と通帳の置き場所教えやがりました。即座にわすれました。わたしは膝に両手を着いたまま、深呼吸してちょっとむせて、回復してから言いました。
「サルちゃんは、どうして死にたがっているんですか」
サルちゃんはにこにこで「ほんと、ソナコってば僕のこと大好きなんだね。僕もだよ」と言いました。






