1話 こんにちは、園子と申します。
わりとなにも考えていませんが、着地点だけは決めてあります
退路を断つために投稿しました
「書けよ」という圧お願いいたします
ゲーム内転移したようです。
こんにちは、園子と申します。
目が覚めるとそこは、めちゃくちゃファンタジーな場所でした。
まるで英国のウィンザー城みたい。夢? いや、現実っぽい。
寝る前にエリザベス女王のお葬式中継を見ていました。葬送にふさわしい装いでと思ったので、同僚の結婚式で着たグレーの一張羅ワンピース。なぜか見切り品で買った黒ヒールまで履いています。なんでだよ。
深夜まで起きて、かぶりつきで中継を見ていました。スクショも撮りました。外国のことながら、自分の小さいころからずっと見知っていた方が亡くなるってなんだか切ないですね。悲しい、悲しいと思いながら床についたのは覚えているんですが。あれ、わたしパジャマに着替えなかったっけ?
妙に鮮明な夢だなあと思いました。ほっぺをつねる。痛い。まじか。どうやら起きているようです。ちょっと寒いとか感じているのは掛け布団蹴っ飛ばしたからじゃないのか。
さて、いったいここはどこでしょう。
わたしは今、アーチ状の門のところに立っています。中を覗くと石畳がずっと奥へ奥へと続いています。エモかっこいい。ステキ。スマホで写真を撮ろうとしましたが、わたしは手ぶらでした。なん、だと……。せっかく、せっかく目の前に創作の資料になる光景が広がっているというのに!
じつはわたし、数カ月前からWeb小説を書いているんです。後先考えずに趣味でポチポチと。プロット? 知らない子ですね。
しかたがありません、ここはしっかり目に焼き付けておくことにしましょう。
手ぶらであるということは、なにも持っていないということです。浮かんでくるいろいろなフレーズを、一切合切メモできません。――おお、神よ、なぜにわたしの記憶力をお試しになられますか。わかります、きっとこの経験は次の作品へと活かされます。たぶんきっとおそらくめいびー。わたしはエモかっこいい作品を書ける! 二年後くらいに! きっと! たぶん!
などと、いろいろひとりで脳内わちゃわちゃをしていたのですが、いったいここはどこだ、という問題を解消しようと思いました。どう見てもこれまでわたしが来たことのある場所ではありません。日本っぽくもありません。
もしかして、あれです? あれですかね。わたしの中の第二の人格が、心の故郷である英国の映像を見て居ても立ってもいられずに、飛行機に飛び乗って現地入りしちゃったとか、そういうやつですかね。ほら、ビリー・ミリガンでそういうの読みました。かなりいい線を行っていませんか。
この説の問題点は、わたしはパスポート持っていないってことなんですけど。
ということで、たぶんここは日本のどこかにある英国テーマパークじゃね? ということで一旦落ち着きました。で、財布もなにもありません。ひとまず係員さんを探して「迷子です」と名乗り出ようかと思ったんですよ。なので門をくぐって、ずんずん中へ進んで行きました。
いた。いました。リアルで見る衛兵さんの制服かっこいい。帽子が黒いふわふわじゃありませんね。なんか、制帽の大きいのです。二人組でずんずんわたしの方に向かってきます。わたしも歩いて近寄り、ちょっと頭を下げました。
――ら、とっ捕まりました。
なんで????
なんか不法侵入的な、なにかがどーのこーのみたいです。牢屋ではないですけど、なんか窓のない小部屋に連れて行かれて、いろいろ聞かれました。こわい。とてもこわい。
すごいですね、キャストが全員コーカサイドっぽい見た目の方なんですけど。どんだけこだわっているテーマパークなんでしょう。こんなに入場料がお高そうなところ、わたしお金を払わないで入っちゃったのでしょうか。すみません出来心だったんです、わたしの第二人格がご迷惑おかけしました。
住所氏名に年齢と職場、そしてワンチャン迎えに来てくれそうな友人の名前と職業などを述べて自首しました。入場料は友人が建て替えてくれます。先月借りた三千円まだ返してないけど、彼女ならきっと。ええきっと。
衛兵のキャストさんたちはとてもとても、残念そうな、それでいて憐れむような眼差しをくれました。
「うん、そうか。じゃあ、もう来るなよ?」
流暢な日本語でおっしゃってにこっとします。え、今度はちゃんとお支払いして来たいんですけどだめですか、出禁ですか。厳しい……。
わたしはテーマパークから出されました。歩いてきた石畳の道路を通って。知らない街でした。振り向いてテーマパークを見ると本格的な造りの城壁で、これ突破した第二のわたしやるじゃーん、と思いました。
それでですね、スマホも、財布もないわけですよ。
とりあえず交番へ行って「迷子です」と名乗り出ようかと思って、街を散策しました。知らない場所なのでおっかなびっくり。
まじでスマホ忘れてきたわたしなんなの。バカなの。あれです、ドイツのファンタジー仮装お祭りみたいな、あんな感じに街がラッピングされています。うぇーい。頭の中がたのしいことになりました。書きたい、めっちゃ小説を書きたい。書かせろ今すぐ。
そして噴水のある広場へ出たんですが、台に登った男性が、紙束を片手に演説をしていました。人だかりすごい。近づいてみます。新聞屋さんで、号外の内容をかいつまんで大仰に宣伝しているようだとわかりました。
「――というわけだ。詳しいことはこいつに書いてある。さぁ、買った買った!」
多くの人が手を伸ばします。周囲にも新聞社の人が何人かいたみたいで、そちらにも人が群がります。えー、号外って無料じゃないのー。ぶーぶー。だんだん人がはけてきたときに、わたしと同じくらいの背丈の男の子が声をかけてくれました。
「おねえさん、一部どう?」
おお、翠眼ですよ。きっれー。まじまじと見つめてしまったら、ちょっと男の子はひるみました。すみません。
「お金、持ってきてないんです」
わたしがそう言ったら、こっそり一部を差し出してくれました。
「――いいよ、あげる。おねえさんかわいいから」
男の子は「おねえさんかわいいから」と言ってくれました。男の子は「おねえさんかわいいから」と言ってくれました。大事なことなので。ええ。
で、こう書いてありました。
『いよいよ決戦か⁉ 深まりゆく亀裂……王杯はどちらの手に? リシャール殿下とマディア公爵――それぞれの内幕を探る‼』
んんんん????