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第7話 開店二日目にして『国策の鉄道』の計画書が来た。

 商人にとって扱う商品の質は重要だが、それ以上に、『誰が買いに来たのか』というのも無視はできない。


 五台の馬車に積み込むほどの大量の商品を買い、そしてそれを騎士団の倉庫に入れる。


 そして、帝国騎士団のトップ、『将軍』の地位についているのは、皇太子であるデストだ。


 それだけで大きな『箔』が付く。


 皇帝の居城にして帝国の中枢である宮殿から噂話が広がり、それはそれぞれの貴族や商人に伝わる。


 もちろん、一度に大量に買って、それを自分たちの商会で分配するというルートが多い故に、『大口の取引』ばかりで、訪れる人数は少ない。


 ただ、大口の取引ばかりなので、扱う金額はとても大きなものになっている。


「おおおっ! 金貨が大量ですうううっ!」


 カメリアが金貨の山を見て興奮している。


 開店二日目の昼にして、金貨の山ができており、それを見て興奮しているわけだ。


「……これほど稼げるレベルの素材を一人で現地調達って、おかしいじゃろ」

「普段は研究のために素材に錬金術を使ってるから、一個一個微妙に変えてるけど、店に並べるのなら全部一緒で良いからな。まとめてパッパと錬金すれば、後は売ればいいだけだし」

「その規模が大きすぎるという話ですよ」

「……そうか」

「というか、どこに取りに行っとるんじゃ?」

「基本的に南」

「南? まさか……いや、ありうるのう」


 うーんうーんと考えている様子のフィーテル。


「うっへっへ~♪ これだけのお金があれば……」

「あれば?」

「娼館に行ってたくさん胸を揉めますね! あだっ!」


 スパンッ! と頭に手刀が落とされた。


「シズクさん! 何するんですか!」

「おバカなことを言わないでください」


 とても元気いっぱいな様子のカメリアだが、どうやらそういう趣味らしい。

 ただ、帝都の娼館というのは金はそれ相応に払う場所なので、このままだと浪費がすさまじいことになるゆえに止めておこうという判断だ。


「むうう……」


 カメリアが唸る。


 シズクの顔を見ていたが、直ぐに視線が少し下がる。

 そこには、シャツのボタンが二つ開いて、ちょっと見えているシズクのDの胸が。


「むふふっ!」


 カメリアの目が『キュピーン!』と光る。


 ……が、次の瞬間、その顔面に右ストレートが叩き込まれた。


「むぎゃあああああっ! 痛いですうううっ!」


 悶絶しているカメリアだが、なんでだろう。あまり心配する気になれない。


「……はぁ」

「遠慮ない一撃じゃったな」

「カメリアにはあんまり効いてなさそうだけどな」


 フィーテルとリクナはドン引きである。


「ひどいですよシズクさん! 私はただ大きな胸が揉みたいだけなんですよ!」


 プンスカ怒るカメリア。


「……カメリア」

「む?」


 シズクは右の拳に左の手のひらを当てると、バキバキと鳴らし始める。


 なんだろう、『ゴゴゴゴゴゴッ!』とオーラがあふれている気がする。


「もう一発、入れましょうか?」

「ごめんなさい! 真面目にやります!」


 危険を察知したのか、カメリアが必死に謝っている。


(……これで五分は持つかのう?)


 フィーテルはそんなことを思った。

 あまりにも短いが……カメリアの精神性がこの程度で揺らぐとは思えない。


 いうほど外れていないだろう。


 ……若干シズクの心が疲れてきたあたりで、ドアが開いた。


「あ、いらっしゃいですうううっ!」


 元気いっぱいで挨拶するカメリア。


 入ってきたのは、黒生地に金装飾の制服を着た男性だ。

 以前、デストが馬車を呼んだ時に、いろいろ連れてきては手続きしていた青年である。


「あ、昨日ぶりですね! 何を買っていきますか?」

「ああ、いえ、今日は買い物とは別の要件で来ました」

「ん?」


 首をかしげていると、青年は紙の束を鞄から取り出してリクナに渡している。


「陛下からのとある計画書です。至急、確認するようにと」

「……君って、デストの部下じゃなかったのか?」

「そうなのですが、近衛兵が今は忙しいので……」


 騎士団の組織図はよくわからないが、皇帝からデスト、デストからこの青年へと計画書が渡ってきたのだろう。


 ……まあ、別に、一等地にいるリクナに渡すだけなので誰でも出来るが、『皇帝が関わる計画書』ともなれば責任重大なので、任せられるギリギリの範囲で彼が選ばれたと言ったところか。


 昨日はデストが直々にこの店に来たが、初日だから彼が来ただけで、まかせられるのなら部下に任せるのは当然のこと。


「近衛兵が忙しい? 何をやっとるのかのう」

「オーゼルトさんのお腹の調子が悪いんじゃないですか?」

「威厳もクソもないこと言わないでください」


 なかなか好き勝手な言い分に兵士の青年も頬がひきつっているが、注意しようとする仕草はない。


 それだけ、フィーテル、カメリア、シズクは認められるに値するのか。


 まあ、それはともかくとして。


「うーん……」


 三人のやりとりに頬をひきつらせている青年を尻目に、リクナは書類を読んでいる。


「……大雑把にまとめると輸送強化って感じだな」

「輸送?」

「この国で普及しているのはモンスターの馬を使って、大型の馬車を引っ張るものだが、それを超える輸送手段が欲しいみたいだ」

「ふむ……『商業連合』が『鉄道』の研究をしておるし、それ関連かのう?」

「ああ。鉄道って書かれてる」

「鉄で作った道と箱を使って、凄い速度で運ぶ奴ですね!」

「『モンスターからの襲撃の可能性がある場所に安全な線路を引く』……この研究が進んでいないそうですが……この資料、私が見ても?」

「構いません」


 リクナから資料を受け取ったシズクはパラパラとめくって確認している。


「……車両の方はかなり進んでいますね。モンスターが嫌がる音や光を発するアイテムを装備しつつ、物体を動かす大型マジックアイテムで車輪を動かす方式ですか……」

「魔法の中でもかなり原始的な使い方じゃな」

「む? 物体を直接動かす魔法ってありましたっけ?」

「風属性魔法は、空を動かして使うタイプと、魔力そのものを空気に変えて使うタイプの二つがある。別に珍しいことではないのう」

「空気と鉄の車輪は全然違いますよ!?」

「じゃから大型マジックアイテムを使って出力を上げるということじゃな。それで、線路の方は?」

「ほぼ進んでいませんね」

「まあ細かく言えば、線路は合金を開発がほぼ終わってるが、それを安全に維持する方法が見えてないって感じだな」


 リクナは青年の方を見る。


「要するに、線路に対して何かアイデアを考えておけってことだろ?」

「そうなります。今夜、陛下が会議を開きますから、その時までに考えていただければ」

「……わかった。考えておく」

「では、私はこれで失礼します」

「また来てくださいね! 今度は素材も買ってくださいね!」

「ええ、そうさせてもらいます」


 そういって、青年は店を出ていった。


「……で、先生、何か案はあるんですか?」

「いろいろある」

「え、いろいろですか!?」

「ただ、運用できないと意味ないから、限られるんだよなぁ。この国の技術と利権を完全無視でいいのなら好き勝手するけど、さすがに通らないだろ」

「そうじゃな。『モルト商業連合』に食って掛かるような計画じゃ。利権の絡み方も相当のはず。仕方ないじゃろ」

「商売で発展して六大強国になった国を相手に流通網で追い越そうということですか……まあ、完成すれば一気に追い越せるでしょうね」


 どういう狙いがあるのかはうっすら見えてくる程度で具体性はないが、経済というものは輸送能力で決まると言っていい。


 速く、多くの物を、安全に。


 それを効率よくできる国が発展するのは当然のことだ。


 インフラ整備ともいうが、要するにそれを、『モンスターが蔓延る世の中でどう実現するか』ということである。


 十分、皇帝が指揮を執るに値する案件だ。

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