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第5話 【王国SIDE】間違いは、正されつつある。

 リクナが『素材屋エースライト』の営業のために錬金素材を現地調達しているころ。


 それは、リクナがアーガリア王国を出てから、四日が経過していた。


「父上、リクナがこの城を出たというのは本当ですか?」

「ああ。今頃はどこかで店でも開いているだろう」


 シュライムの仕事場である国王の執務室。


 そこに、王子のオルトが来ていた。


 どうやら話題はリクナがこの城を出たことの様子。


「フンッ、あんな素材もどきしか作らない奴が錬金術師を名乗っていたのが気に入らなかったんだ。これで清々する」

「……」


 オルトの言い分に、シュライムは黙った。


 育て方を間違え……どのようにすればよかったのかを、シュライム自身が理解しているゆえに。


 現在十六歳であるオルトは、まだ王立学院に入学して日は浅い。

 そのレベルであり、王都から出たこともあまりない。


 言い換えれば知識も知恵も狭い。


 そのような状態で、リクナが作る様々な素材が並ぶ王都の市場に触れ過ぎた。


 十年前、リクナを拾ったときオルトは六歳であり、そこから、この国はリクナの素材によって頭角と現したが、『教導国』が裏で手を引いた結果、リクナのことを認めると都合が悪くなるという状態だった。


 この国が強くなり、『五大強国』の仲間入りを果たして『六大強国』になったのは二年前。


 シュライムはリクナという錬金術師に対し、高い『公的な評価』を与えたことはない。

 リクナもそれを必要としていなかったということもあるが、それが、オルトに誤解を与えたのだろう。


 もしも、『教導国』の『脅し』に屈することなく、リクナを評価していたら、オルトも彼を認めていたかもしれない。


 ただそれがなかったため、オルトは、高い素材アイテムが市場に並ぶことを、何も不思議に思わず過ごしてきた。


 それが、シュライムの一つの間違い。


「これでこの城はあるべき高貴さを手にする。これからが楽しみだ」


 良い笑みを浮かべるオルトに対して、シュライムは口を開く。


「オルト」

「……何か?」

「学院での実技試験の結果は聞いている。歴代でも有数の実力と評価されていたな。流石、私の息子だ」

「!」


 驚愕。


 オルトの表情は、驚愕に包まれている。


「これからも頑張れ。あと……学校と言うのは、人脈を広げる上で重要な場所だ。早いうちに、『鑑定スキル』を習得して鍛えておくといい」

「鑑定スキルを?」

「そうだ。幅広く、情報を取得できるスキルと言うのは重要だ。人の中には、『話術は得意ではないが、かなり高い素質を有する者』もいる。そういう者を見逃さないようにするために、鑑定スキルは必要だ」

「……ち、父上も?」

「そうだ。私は学校で学ぶ傍らで鑑定スキルを鍛え、卒業してからも優秀な人材を集めた。今将軍を任せているアスベルも、これがあったから見逃すことなく引き入れることができた」

「アスベル将軍を……」

「会った頃のアイツはちょっとのことでビビり散らかしていたぞ。蛙が横道から出てきただけで騒いでいたのもいい思い出だ。ただ、その実力はお前も知るところ。そういう人材を集めるために必要だ。わかったな?」

「……鑑定スキル。ですね。これからも励みます」


 そういって、オルトは部屋を出ていった。


「……ふう、アスベル。お前を(さかな)にしてすまんな」

「いえ、それで話が進むのであれば、私から言うことはありません」


 横の扉が開いて、アスベルが入ってきた。


「……少し褒めただけであの反応、ワシも随分、父親に向かないな」

「陛下……」

「今まで、リクナを抱える上で必要な交渉のために動き続けたが、あの子を褒めたことはほとんどなかった。アイツとの『約束』のためとはいえ、自分の息子を放って、他の子を優先するなど、父親として失格だろう」


 溜息をつく。


「これからは褒めることもしっかりせねばいかんな」

「……そして、殿下が鑑定スキルを取得して鍛えれば、リクナ殿がどれほど優れた錬金術師だったのかに、いずれ気が付くと?」

「まあ、鑑定スキルを勧めたのはそれもあるな。学院でしっかりと歴史を学び、そして鑑定スキルで人の力を、リクナの素材の凄さを知れば、自ずと『真実』が見えるだろう」


 リクナの存在で成り上がったのが、今のアーガリア王国だ。


 それまでは、帝国と教導国の間に挟まれた、いくつかの小国の一つに過ぎなかった。


 国力を高めてそれらの小国をまとめ上げたことで『強国』となったが、それでも歴史は浅い。


 そんな国であるという『真実』を、オルトはまだ、理解していない。


「……オルトは優秀だ。少なくとも、幼いころのワシよりもかなり。あとは真実を知った時にどうするか。それは、腹を割って話す必要がある」


 オルトはシュライムに対して過剰な評価を抱いている。これは間違いない。


 『六大強国』の名は決して軽くはない。

 いくつもの小国をまとめ上げて、たった十年で、元小国を『強国』に成長させた『王』という、そんな人物像を、オルトはシュライムに対して持っている。


 もちろん、リクナがいたからと言ってどんな王でも『強国』にできるわけではないので、そこはシュライムの手腕だが……。


「さて、もう一つ、片付けるべきことがあるな」

「確かに」


 アスベルが頷いたとき、ノックもなしに、部屋の扉が開いた。


「陛下! リクナがこの国を去ったと聞きましたぞ!」


 豪華な服を着た小太りの中年男性が入ってきた。


「何かね? コードス財務大臣。確かに事実だが?」

「なぜ彼を手放したのですか!」

「……おぬし、この前の会議で、リクナのことを貶しておらんかったか? 彼がおらずとも、アーガリア王国は発展できると」

「そ、それは……」


 言葉が詰まるコードス。

 それに対して、シュライムは溜息をつく。


「しかし、ワシは誰にも話していないはずだが、誰から聞いたのかね?」

「それは……」

「おぬしの部下で構成されている『宮廷廃棄物管理課』じゃろ?」

「な、何故それを……」

「そもそもこの組織は、『高い素質を持つ術者たちの研究の副産物に対し、適切な廃棄処分を行う』というものだったか? 確かに、下手なことをして爆発する素材というモノも、中には存在する」


 シュライムは一度、言葉を切る。


「そして、リクナは錬金術師としては、『研究者』であり、『素材開発』ではない。あくまでも彼の研究のために、彼が錬金術を行使したにすぎん。最初の頃は、アスベルが彼の素材が優秀と言っておったから、職人に渡して農具を作成、普及させたが、この組織ができてからは、おぬしが素材を管轄することになったな」


 ジロリとした視線を向ける。


「まあ、輸送費を自分の懐から出したくないおぬしは、王都に、そして一定数を『教導国』の商人に流しておったのじゃろう?」

「な、何を根拠に……回収し、安全が確認できた素材は、全て王都の市場に……」

「ああ。取り繕う必要はない。別に罰することを考えておらんからな」


 手をかざしてコードスの言葉を止める。


「ああそれと……リクナはもうおらんからな。宮廷錬金術師の予算はワシの独断で多額に設定していたが、それは排除じゃ。もうおぬしは着服できんぞ」

「な、何を馬鹿なことを!」

「いや、それも罰することは考えておらん。これからおぬしは大変なことになるじゃろうから、それを考えると、それまでに良い思いをさせておこうと思って、アスベルから報告は受けていたが黙っておった」


 リクナがこの城を出た日。

 食堂でオルトから『多額の予算を使いこんでいる』と言われたが、そもそも扱う素材の全てを『現地調達』し、その移動費は身体強化を使った『疾走』であるリクナに、多額の予算など必要ない。


 ただ、宮廷錬金術師という称号を与えている以上、多額の予算を用意しておかないと、他の者が『上を目指さない』ので、かなり用意していた。

 しかも現金で。


 別に何に金を使ったのかに対して報告もいらないということで、コードスは財務大臣として『有効活用する』という建前で、三か月ごとに用意されるそれらの予算を、四半期末に全て着服していた。


「そもそも、彼の予算を着服することは『最初から』予想しておった。総合計すれば小国の国家予算に匹敵する全額を遠慮なく豪遊に使い込んだと知った時はワシもアスベルも苦笑いじゃったが、まあ、これから大変だろうし、別にいいという話になった。高級店に金を落とす人間も必要ではあったからな」


 シュライムにとって、コードスは正義でも悪でもない。


 小国をまとめ上げて大国にした際、それぞれの元王族を『立てる』必要があり、コードスを『財務大臣』に割り当てるという経緯でこの国にいる。


 一応、『血統』と言う意味で軽く扱うことはできないという背景もあるが。


「そして、お主が統治していた国、『テンガル王国』があった地域は、アーガリア王国の中でもっとも教導国に近い。集まった素材を教導国に流し、アイツらが『聖なる武具や道具』みたいなものを作っておるのも知っておる」

「……」

「流し込むことで、何かいい『席』を用意されたのだろう。そして……二年にわたって素材を流し、『これからも続く』と思って、『長期契約』も結んでおる」


 フフッとシュライムは微笑んだ。


「何故、ワシが彼が作った素材を管理する組織の設立を認めたと思う? 何故、教導国に流れる素材を黙認しておったと思う?」


 少し、ニヤニヤが混じる。


「それはな。もうすでに、アーガリア王国の食糧生産を行うのに十分な農具が生産し終わっていること。そして……リクナがこの国を去って困るのが、おぬしと教導国の連中『だけ』になったからじゃ」

「……ば、馬鹿な」

「何度も言うが、罰するつもりはない。というより、素材を流せないおぬしを、教導国はどう思うかのう? アイツらはなかなか苛烈、そして『裏』で動くのが好みじゃからな」

「ど、どうかお慈悲を!」

「何を言っておる。罰するつもりはないといっておるだろうに」

「このままでは私は破滅だ! わ、私を保護してくれ!」

「嫌じゃ。これまで良い思いをしてきたじゃろう? 上手い話には裏がある。それを忘れ踊っていた愚か者に、何故そんなことをする必要がある。小国の国家予算を使いこむおぬしを、何故守らねばならん」


 もう、シュライムはコードスを見ていない。


 テーブルの上のベルを二回鳴らす。

 すると、槍を構えた兵士が三人、部屋に入ってきた。


「衛兵。彼を領地に送り届けろ。くれぐれも丁重にな」

「「「はっ!」」」


 事前にシュライムから事情を聴いていた衛兵たちは、敬礼し、コードスを抱えて部屋を出ていった。


「……さて、これからどうなるかのう」

「教導国への警戒は当然として……帝国から、諜報員を借りる必要があるかと」

「そうじゃな。流石に、急激に発展しすぎて暗部が育っておらん。まあ帝国も、教導国との間にアーガリア王国を挟み込んで壁にしたいじゃろ。おそらく首を横に振ることもあるまい。いくつか情報は抜かれるが……教導国を相手にするのなら、それくらいは妥協せねばな」


 『宗教』というモノは、いつでも『厄介』である。


 それを軸とする教導国が何をしてくるのかはまだ定かではないが、もともと帝国は軍事に対して研究を進めた結果、新しい魔法を開発しているため、仲が悪い。


 というかそれ自体、教導国が崇拝する宗教において、

 『魔法は神から与えられたものであり、最も優れた信者である教導国が、魔法の始まりであり、終わりである』

 という馬鹿すぎるそれを掲げているゆえの『仲』だ。


 しかも、リクナのことを認めることはせず、その上で彼が作っていた素材を喜んで使っているのだから、随分と『都合の良い脳みそ』をしているが、今更である。


「帝国内部にも、教導国の連中は入り込んでおるはず。そいつらが動く可能性も十分にあるが……まあ、あの皇帝とリクナなら問題はないか」

「私もそう思います」


 これから色々動くだろう。


 そんなことを思いつつ、シュライムはフフッと微笑んだ。

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