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第23話【教導国SIDE】 棍棒外交オンリーの国家が、棍棒で脅迫できないとどうなるか。

 リクナがデストにアイテムのサンプルリストを渡して、なんだか色々と発狂しているような声が研究室から聞こえてくるという『想定内』のことがあったが、それはそれ。


 三日後のこと。


 教導国の『神殿』

 首都の中心部に存在する巨大な建造物の地下で、六人程度が座れるテーブルの席が埋まり、話していた。


「どうなっている! 今まで我々の言うことを聞くだけのクズが、交渉案を突き返してきただと!?」


 ふくよか……130キロだが、この場にそれを訂正する者はいないので『ふくよか』ということにしよう。そんな男性が、拳をテーブルに振り下ろした。


 地下という、普段は使わない部屋を使った会議室と言うことは、『表向き』は明かせない内容と言うことになるが、扉から一番遠い椅子に座る男の叫びから察するに、『棍棒外交失敗』と言ったところか。


「は、はい。『遺物』をちらつかせても、首を縦に振りません」

「何を考えている。実際に攻め込んで、町の一つや二つ奪わないと分からないのか?」

「い、いえ、どうやらそうではないようです」

「何?」

「帝国から流れている資料です」


 部下であろう男性が議長に紙束を渡す。


 そこには、リクナが作り上げたサンプルを基に作成された、『遺物対抗防御アイテム』がズラリ!


「なんだこれは! こんなものが出回ったら、外務大臣である私の破滅……一体誰がこんなものを作った!」

「噂では、リクナ・プルートという名前が出ています」

「誰だそいつは」

あの(・・)似非錬金術師です」

「なにぃ?」


 教導国は、『魔法は神から与えられたものであり、最も信仰心がある教導国こそ、魔法の始まりであり、終わりである』という主張をしている。


 そのため、『教導国出身ではない優れた魔法技術』の存在を認めない。


 その主張は変わらず、リクナのことを未だに『似非錬金術師』と呼んでいる。


「あんな雑魚に虚仮(コケ)にされてるとでも? ふざけるな! 神々が遺した崇高なる力に怯えておればいいものを……」


 歯ぎしりする議長。


 ……そもそも、棍棒外交ができないから外務省として破滅というのも、レベルの低い話。


 武力による脅迫で物をねだるなど、本来ならば『より強いルール』が介入してきたら終わるに決まっている。


 もちろん、その『より強いルール』にも強い武力が求められるわけだが、そもそも教導国は『六大強国』であり、言い換えれば同じ『格』の相手が五ついるのだ。


 これで『武力』という交渉材料に時間制限がないと分からない方がおかしい話。


「ぐうぅ……おい、一刻も早く、このアイテムを運んでいる商会の馬車を襲撃しろ。届かなければ使えないし、既に届いているとしても無限に使い続けられるわけではあるまい。このアイテムの供給を妨害する部隊を作れ!」


 あくまでも武力、戦闘力、そういったものに頼るしかないとなれば、この議長の判断は現実的だ。


 ただ、遠目から、商会の馬車に食料が詰め込まれているのかアイテムが詰め込まれているのかわからない以上、馬車を見かけたら全て襲撃する必要がある。


 それは『流通の破壊』につながる行為であり、いくらなんでも国際的に刺激が強い項目になるが……。


「全てを妨害はできん。範囲も限られる。だが、今から部隊を作り派遣すれば、『属国』をいくつか作れる!」


 この議長も、帝国から流れる全ての情報と物資を封鎖できるとは思っていない。


 だが、『属国』をいくつか作り、教導国のために食料や物資を生産させる体制を整えることで、『十分にマジックアイテムが出回っていない今』であれば、ある程度これまでと変わらない生活ができる。


 そしてそのころには、今回のアイテムがどれほど『理不尽』なのか、この議長一人の実力ではどうしようもないことなのだということが、『神殿全体』で共有されるだろう。


 というか、外務省以外の面々も、『何らかの影響』で自分たちのことで手一杯になるはずで、外務大臣のことなど気にしていられなくなるだろう。


(時間を作り、予算を着服、属国圏が出来上がったあたりで後任に押し付けて領地に戻る。完璧だ。完璧な計画だ)


 議長は内心でほくそ笑む。


 利権を利用し、うまい汁を吸い続けてきたにしてはある種の『潔さ』であり、『引き際』をわかっている。


 そしてその際に、ある程度まとまったカネを用意しておけば、生活にも困らない。


 確かに、完璧のように見える。


 ただ、彼にとって計算外だったことが、一つだけ……。


「チオーデ大臣! 大変です!」


 男性が紙束を手に会議室に入ってくる。


「何事だ!」

「遺物に抵抗するアイテムのレシピが……すでに、教導国の『隣国全て』にばらまかれています! しかも、小国が取り掛かっても三時間ほどで作成できる難易度と……」

「なんだと!?」


 『これ以上の補給、供給はさせない』


 それが議長の作戦だったが、これではそれが成立しない。


「何故だ! 私のこの資料は、帝国に近いエリアでスパイを紛れ込ませている国から、最速種の馬を乗り継いできたのだぞ! すでに、教導国周辺に情報が届いているなど、ありえん!」

「それが事実なのです! 昨日は帝国に近いエリアしか我々に反対しておらず、教導国周辺国家はまだいうことを聞いていましたが、先ほど、隣国から抵抗されたと……」

「ば、馬鹿な……」


 驚いている議長だが、別に難しい話ではない。


 通信魔法。


 話をまとめてしまえばそれで済む話だ。


 帝国は教導国内部にも通信魔法の拠点を仕込んでいるし、その周辺国にも中継地点を作っている。

 その中継地点ももちろん通信拠点であり、帝国からの通信を受け取れる。


 帝国国境で『様々な国の大使』を集めてアイテムの説明をして、そのまま国境に作った通信拠点から、各国の帝国大使館に作った拠点と通信。


 これによって、馬よりも早く『レシピ』が届いたのだ。


 なお、これは従来なら簡単なことではない。


 膨大な魔力を使うというのは、既に何度も言っている話。

 拠点の位置がばれたら魔法で妨害されやすいので、帝国が通信拠点を作っている場所を明かすなど本来あり得ない。


 ……のだが、まあ、諸悪の根源はリクナである。


 ホバーゴーレムに通信拠点を乗せて、誰も見えない上空に配置。

 それをいくつも等間隔に並べたのだ。


 必要な魔力に関しては、惑星内部に存在する魔力の『脈』……の説明を始めると長いので端折(はしょ)るとして、『魔脈』からくみ上げて帝国から一番近いホバーゴーレムに射出。


 それぞれのホバーゴーレム同士で魔力を受け渡しを行い、ずっと浮いているのだ。


 これによって、通信を行いたい術者たち自身が魔力を全く使うことなく、通信を行える。


「考えられるのは……通信魔法か。だが、何故それに気が付かん!」


 魔法に対して熟練度が高くなると、体内の魔力を感知する機能が高くなる。


 今回のアイテムは事実確認が何度も何度も必要になるほど重要なことで、それだけ膨大な魔力がバンバン飛び交っていたら、教導国から派遣されたスパイが気が付くはず。


 だが、そんな様子はない。本当に今、レシピ情報が教導国の隣国に届いたのに気が付いたといった様子。


 もちろん、これも最大の原因はリクナである。


 リクナはこの『魔力の受け渡し』の機能に、線路で使う予定の『擬態化』を組み込んだのだ。


 通信魔法の魔力の移動ルートは他国に知られたくないとデストが言ったので、『大規模実験』ということでリクナが組み込んだのである。


 ちなみに、その場にいた大使たちが魔力を全く感じられなくなった段階で、気温が二十度くらい下がったような雰囲気になったが、その内心はお察しである。


「わ、わかりません。ただこれにより、交渉が全く進みません」

「ば……馬鹿な……」


 ガクリと椅子に崩れ落ちた議長。


 もうこうなると、どうしようもない。


 今回の相手、理不尽の権化であるリクナにとって、『帝国にいたとしても、最初から教導国は間合いの内』ということが証明されたのだ。少なくとも議長の頭の中ではその結論が出ている。


「お、終わりだ……」


 議長は表情が抜け落ちた顔で、そう呟いた。

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