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第18話 暗殺者たちの人質を助けることになった。

「ここから先に、あの暗殺者たちの人質がいると?」


 大型の馬……おそらくモンスターと判断される個体が引っ張る馬車の中。


 そこには、リクナとフィーテル。そしてデストの側近を務めるバステルの三人が話している。


「ああ。帝都に来る途中にいろいろ見て、それを元に判断したが、ここから先の森の中にある屋敷。帝国の中でありながら教導国が所有しているそうだが、そこに人質が集められてる」

「通信拠点とは全く関係ないじゃろうな。ただ、『森の中の屋敷』という立地故に、『地下』を弄りやすいじゃろう。そこをうまく利用して、牢屋を作ったということじゃな」


 リクナが説明してフィーテルが補足する。


 なお、フィーテルはこういうタイミングではあるが酒が入った瓶をいくつも持ってきており、馬車の中にある冷蔵庫に保管している。

 一応、酔い覚ましのためのポーションは持ってきているようだが……外見が十歳程度の女の子なのにここまで酒盛りをやっているとなかなかシュールだ。


「屋敷は所有していましたが、重要な物が運び込まれた様子はなかったはず。相手が教導国とはいえ、あまり絞めつけ過ぎても悪い結果につながるので『屋敷』を使わせていましたが……自国民の暗部の人質のために使っていたとは……」

「そもそも教導国にすらいないとなれば手を出せないからな。通信拠点を使えば、本国から人質の抹殺命令だって出せるし」

「そうじゃな。まあ、その通信拠点はリクナが全部暴いてしもうたから、向こうは使いにくいとおもうがのう……」


 リクナを狙った暗殺者たち。


 どういう経緯があったのかは不明だが、あれからあの三人は帝国に鞍替えすることになった。


 ただ、絶対に裏切らない条件として、彼らの人質の救出を要求してきた。


 恋人、妻子、幼馴染など、彼らにとって大切な人間が捕らわれており、優秀な素質があった彼らは脅されて暗部活動をしていた様子。


 ……まあ、それにしては暗部活動に『慣れ』を示していたが、これに関しては、長い長い時間の中で『諦め』たり、どこか感覚が『麻痺』してしまったからだろう。


「それにしても、暗部を忠誠とか教育とか、そういうんじゃなくて『脅迫』で作ってたなんてな……」

「教導国の中で、強硬派の暗部は急ごしらえと聞いたことがあります。おそらく、鑑定スキルか何かで素質がある物を見出して、その周囲にいる関係者を攫って脅迫。といった手法でしょうね」

「そうじゃろうなぁ。あの三人以外にも、身近なものが捕らわれたものがどれほどいるのか想像もできん」


 馬車は森の中に入っていく。


 ただ、大型の馬は木々をなぎ倒して、速度をほとんど落とさない。


「しかし、すごい馬じゃなぁ。まだ聞いてないんじゃが、どこかで待機しとるのか?」

「ああ。普段何処にいるのかは俺もよくわからんが、『笛』の魔法でどこかから来てくれる」

「ほう……」


 召喚魔法、使役化(テイム)、ゴーレム創造など、モンスターを自分の仲間とする方法やその『関係維持』には様々な種類があるが、今、リクナと馬の関係は、リクナの『使役化』によるものだろう。


 笛で来るということは、召喚魔法で必ず必要な『異界』の概念が介在しない。


「……道が整備されていない森の中を、馬車のつないだまま気をなぎ倒して進む……そんな方法なのに、酷く静かですね」

「まあ、音は空気の振動でしかないし、地面の揺れだって振動だ。そういうのを制御できれば、静かに進めるもんだよ」

「振動を制御するのか。なかなか反則じゃな」


 魔法全般に対して高い実力を持つフィーテルだが、そんな彼女からみて『反則』ともなれば、その実力は相当なものだ。


 というより……『振動』を制御する。と言葉にすれば簡単だが、よく考えれば汎用性が高すぎである。


「……ん? あの屋敷か?」

「もう見えてきたのですか?」


 地図を手にバステルが驚きながら馬車から外を見る。


 すると、森を広く切り開いた平地に、大きな屋敷が建っているのが見えた。


「……あの屋敷で間違いないですね」

「なんというか、あの大きさじゃと、『隠れて何でもやっていいですよ』と言ってるようなもんじゃな」

「俺もそう思うが……まあいいか」


 門の近くまで馬車を移動させる。


 当然、こんなところにでかい馬と豪華な馬車がいきなり来たら門番がめちゃくちゃソワソワしているわけだが、こちらの馬車の豪華さと、馬車に刻まれた『帝国騎士団』の紋章を見て扱いに困っている様子。


「で、どうするんだ?」

「基本、正面突破で問題ありません。軍事国家である帝国において、騎士団が持つ権限は大きいですから」

「将軍であるデストの側近のおぬしなら、権限も十分と言うことかのう?」

「そうですね。これで何もなければ始末書どころではありませんが……」

「ならさっさと早く踏み込んだ方がいいと思うがのう。隠し通路で地下から森の外に逃げられたら厄介じゃぞ?」

「いや、もうすでに錬金術で塞いでガチガチに固めたぞ」

「「……」」


 フィーテルとバステルは『そういやコイツの方が理不尽だったわ。思い出した』といった表情になった。


「……それをするということは、逃げようとしたものがおるということか?」

「ああ。なんだあれ、金庫かな? なんか大きな金属の箱から袋を鞄に詰め込んで地下から逃げようとしてたから、とりあえず地下通路の壁から土の腕を出して殴り飛ばしておいた」


 かわいそうに。


「まあ土だけどそこそこ痛いから泣いてるけど、ついでに壁から棒を出してぶっ飛ばしたら、両足の向う(ずね)に同時にあたったぞ」


 泣きっ面に蜂というか、泣いてるやつにダブル弁慶である。


「……うむ、で、地下の牢屋とかはあるのか? 誰か捕らわれておるか?」

「百人……はいると思う。なんか魔物と合体させられてる人とか、四肢のどこかが欠損してる人とかいるけど、面倒だから全部治しておいた」

「おぬし凄いのう……」

「……もう、突入しましょうか」


 バステルは相当疲れている様子。


「というわけで、リクナ。行ってくるのじゃ」

「え、俺?」

「ワシも行くし、バステルの権限も必要じゃが、こうなると、もう適切な手順を踏むなんぞやってられんからな。とりあえずお主が先に行くのじゃ」

「わかった」


 特に抵抗なく門番のところに歩いていく。


「おい、止まれ。ここは教導国が使用している屋敷だ。関係者以外は――」

「あのー。とりあえず、中で暗殺者の人質が囚われてるから、通してもらうぞ。いいな?」

「なっ、ふざけ――ぐふっ!」


 ド直球なリクナに対して槍を構えた門番たちだが、リクナが鳩尾に鉄拳を入れると、そのまま悶えて地面に倒れた。


「容赦ないのう……」

「容赦する必要あるか?」

「いや、ないんじゃが……」

「じゃあ、中に入るぞ」


 そういうと、リクナは鍵がかかった門を腕力でこじあけて、中に入っていった。


「自由過ぎませんか。あの人」

「まあ、皇帝から直々に認められておるとは言え、デストにも遠慮ないくらいじゃ。おそらく『権限』があればあまり容赦しないということじゃろうな」

「あまり与えないように制御しないといけませんね」

「そうじゃな。好き勝手させていい結果になることはほぼないじゃろ」


 リクナに対して呆れを隠すことなく、二人はついていった。

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