第17話 元気なアイツがはしゃぎながらやってくる。
「宮殿探索ですううっ! 宮殿探索ですううっ! む? 尋問室? ここからリクナさんがいるはずですね! むっほほーい!」
元気いっぱいのカメリアが宮殿の地下ではしゃぎまわっていた。
……なお、当然門番はいるし、カメリアを見て頭痛が痛くなって来たかのような感覚がしている様子だが、止めようとはしない。
リクナが呟いた『豊穣国の大精霊の匂い』というものが厳密にどういうものなのかはともかく、公平であるオーゼルトが権威を認める店長の店員に、『他国の人間』である彼女が滑り込めるとなれば、もともと高い地位に立っているのだろう。
そうなると止めようがない。
ただ、どこか『本当にヤバい地雷を踏まない』のがなんとなーくわかっているのか、警備隊長すら溜息交じりに放置している様子。
「カメリア。どこまで行くんですか?」
まあ放置している一番の理由は、シズクという保護者がいるからだろう。本人は保護者呼ばわりされたら断固拒否するだろうが、彼女がいることでとりあえず良いということにしている。
そもそも、エースライトにおいてシズクは金銭管理の責任者であり、宮殿に来る理由も四人の中で一番多い。
とまぁそういうわけで、ギリギリセーフっぽいし追求するのも面倒で、かりに追求してもなんだか解決しなさそうなので放置している。
「むっふっふ! リクナさんの尋問シーンが見たいんですよ!」
「なんでそんなことが気になるんですか?」
「む~……うへへ~♪」
「……」
シズクは諦めた。
「はぁ……」
「む? あそこに誰かいるみたいですね」
カメリアが勝手にどこかの部屋のドアを開けた。
「む! シズクさん! なんか三人くらい椅子に縛られてますよ!」
「……三人?」
シズクは中を覗き込んだ。
そして全てを察した。
「あー、なるほど。なんかすでにいろいろ終わってる感じですか」
「え?」
リクナを狙った暗殺者たちだ。
これからの身の振り方を考えているのかもしれないが、カメリアが部屋に入ってきて反応に困っている様子だ。誰だってそうなる。
「むうう! まだまだ重要なことを聞いていないはずですよ! 私が聞きだして見せます!」
一体何を聞くつもりなのか。
表情が抜け落ちるシズクをよそに、カメリアは肩にかけていた鞄から、『お鍋』と『水』と『コーヒー粉』と『小さいコンロ』と『うちわ』と『マスク』を取り出した。
明らかに容量オーバーなので、中に別空間が用意されているマジックバッグだろう。
カメリアは机の上に全部おいて、コンロの上に鍋を置いて、その中に水とコーヒー粉を流し込んだ。
コンロの火をつけて、自分はマスクをする。
「フッフッフ……」
うちわを手に馬鹿みたいな不敵な笑いを漏らすカメリア。
「さあ、いろいろ聞いてやりますよ! 昨日の昼は何を食べたんですか!」
「「「……」」」
先ほどからずっと絶句している三人だが、さすがにこれを『素』でやられると、優秀な暗殺者集団としても対応に困る。
「私はホットドッグを二十本食べましたよ!」
知らんがな。ていうか食いすぎだ。
「むうう! こうなったら攻撃です!」
湯気が出ている鍋の上でうちわを揺らして、湯気を暗殺者たちに向かわせる。
元々机に近い場所で拘束されているので、届くと言えば届くが……。
「……あれ、思ったより反応が少ないですね」
反応が薄い三人。
まあ、確かに激臭であるが、訓練を受けている三人からすれば顔をしかめる程度で済むだろうし、そもそも拷問対策で『痛覚』を含め、『一定以上の強い感覚』を全て薬で遮断しているのだ。
デストが『拷問は意味ない』と主張する理由の一つでもある。
そういう感覚を制限するものを用いることで、必要な情報に対して敏感になるという効果もある。
暗殺任務からそこそこ時間が経過しているのにまだそれが残っているので、かなり強い薬を使ったのだろう。
……まあ、カメリアにはそんなことさっぱりわからないが。
一応シズクも気が付いているが、あえて言わない。
「むう、思ったよりそうでもないんですかね?」
そういうと、カメリアはマスクを外して、熱湯に触れない程度に顔を鍋に突っ込むと、鼻で息を吸い込んだ。
「むぎゃああああああああああああああああああああああああっ!」
絶叫。
激臭が鼻から全身に突き破り、体中が痙攣するレベルの衝撃がカメリアを襲った。
「う……うっ……うえええええええええええん!」
目から涙をボロボロと出しつつ、シズクに抱き着く。
シズクは『あっほやわぁ……』と笑いをこらえながらカメリアの頭をポンポンと撫でる。
「ああ、私達はこれで失礼します」
指をパチンと鳴らすと、シズクの収納魔法の中にカメリアの尋問セットが消えていった。
そのまま軽く礼をすると、部屋を出ていく。
「……リーダー。どうします?」
「自分の感情を言葉にできないからって私に振るな」
「まあそれはそれで……どうするんです?」
「……はぁ」
リーダーの男は溜息をついた。
「……鞍替えするか」
「わかりました」
「私もそうします」
そう、なんというかこう、すごくモヤモヤした感じになっているが……。
すごく大雑把に言えば、彼らは『馬鹿馬鹿しくなってきた』のだ。多分そんな感じである。