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第14話 暗殺とかそれ以前の問題である

 デストが通信対抗アイテム……と呼ぶことにしたアイテムに録音されていた音声を聞いて『暗殺命令が下されたことを知った』と言う状況。


 要するに、すでに(・・・)教導国大使館にフェーリットからの暗殺命令が届いているということである。


「あれが素材屋エースライトだな」


 帝都で一般エリアと一等地を分ける壁。


 とても高く頑丈、かつ魔法に対する耐性も存在し、関所を通らなければならない。

 壁を見張るものも常駐しており、違法侵入しようとしても難易度は高い。


 ただ、難易度が高いということは、『不可能ではない』ということ。


 六大国家の暗部ともなれば、気づかれなくとも垂直の壁を登れるアイテムやスキルを所有している。


 三人の黒装束の男たちが、闇夜に紛れて壁の上で待機している。


「リクナ・プルートの抹殺が今回の任務だ。対象はあの中だな?」

「そうだ。それ以外の三人に関しては、一人が一等地の中で夜間も営業する酒場に、二人は一等地の外に出ている」

「実質。対象だけが店内にいるというわけか。こりゃ楽だな!」

「大声を出すな」


 三人の内、どうやら一人だけ軽薄な雰囲気のものがいる様子。


 他二人と比べて頭一つ背の高い男……おそらくリーダーらしい人に注意されているが、その笑みをとめる様子はない。


「へいへい。でもよぉ、対象はあんな何の変哲もない二階建ての建物で一人だけだろ? 実際俺一人で十分だろ」

「油断するな。他の部隊がアーガリア王国で暗殺に失敗している」

「それはバカ強ぇ装備で感知能力が高い将軍アスベルと、世界で五指に入る『魔法戦士』と認定された王子のオルト・アーガリアがいるから、下手な暗殺者を放り込んで摘まみ出されたからだろうが」


 溜息をつく軽薄な男。


「錬金術師一人に失敗なんてありえねえだろ」

「……」


 リーダーの男は『ありえない』と言う主張に対しては否定しなかった。


 実質、一等地と他を分ける壁の上に待機している時点で、『他の暗殺組織を凌駕している』のは確定。


 自信を裏付ける訓練と装備とスキルが揃った彼らに、『この条件』で失敗などありえない。

 そう考えるのも無理はない。


「そうですね。ここで失敗なんてありえない。今回も不審死が一人出るだけです」


 眼鏡のブリッジをおしながら言うもう一人の男。


 暗部所属で『視力が低い』ということはあり得ないので何らかのマジックアイテムだろう。それを通した目で今も素材屋エースライトを見つめており、そこに失敗のビジョンは浮かんでいないようだ。


「……そうだな。では、『行こうか』」


 合図だろう。


 三人は壁の上から飛びあがった。

 目標は、素材屋エースライトの屋上。


 空中にいる間に、三人の脚を覆うブーツが仄かに光る。

 何らかの魔法……おそらく着地の際に衝撃と音を消し去る物を起動。


 その魔法の通り、三人は音も衝撃もなく着地した。


 そして、素早く屋上から二回に降りるための階段が中にある扉をあける。


 二階に降りるための扉と窓だけのもので、『普通に屋上にある構造物』である。

 通常は鍵がかかっているものだが……。


(……鍵がかかっていない。屋上から入るものはそういないとはいえ、不用心なものだ)


 リーダーの男は内心で溜息をついて、内部に侵入。


 足音を出さずに他二人もついてくる。


(廊下といくつかの個室があるだけ。シンプルな間取りだ。対象の部屋の情報はないが、この広さならすぐに見つかる)


 リーダーの男は人差し指、中指、薬指の三本を立てて、二回振る。

 ハンドサインであるそれを見た他二人は無言でうなずく。


 そのまま、あまり距離を開けずに三人で進む。


(しかし……アーガリア王国で大人しく、利用価値のあるポジションを維持していればいいものを、馬鹿なものだ)


 内心でそのようなことを考えながら、リーダーの男は歩いている。


 ★


「昼ほど明るくはないですけど、夜の明かりで夜景は綺麗ですね!」

「夜景は社畜の魂が作るものじゃからなぁ。確かにきれいな物じゃの」


 上空二百メートル。


 とても大型の箱が載せられている鉄の浮遊板の上で、カメリアとフィーテルは話していた。


「社畜の魂……なるほど。あれ、住宅街の方も綺麗ですけど」

「それは単なる夜更かしじゃ」

「むう……まあいいですね!」


 自分で振っておきながら話の繋げ方が分からなくなったのか、カメリアは話題を放棄した。


「それにしても、この板、ホバーゴーレムでしたっけ? 凄いですね!」

「魔力に浮く力を発生させて飛んでるとリクナは言っておったが、こんな十トンの鉄の箱を運べるほどの物とはのぅ」

「体内に魔石もありますから実質的にモンスターですし、特殊なスキルが宿ってるんですかね?」

「リクナ作成じゃから可能性がいろいろありすぎて分からんの」


 中にいろいろ入った総重量十トンの鉄の箱。

 それを浮かせることが出来るとなれば相当な技術力である。


 ……まあ、リクナのことなので。という理由で納得していただくしかないが。


「むぅ……一応モンスターですよね。歩かず、体の可変性もなく、ただ浮いて進むだけのモンスターっているんですね」

「むしろ、今まで錬金術師が作っておったゴーレムの方が複雑すぎという話かもしれん。人間の動きを人間以上の速度で動かそうという研究ばかりしておるそうじゃからな」

「人間と同じように両腕と両足があって、人間よりも足が速くて力も強く……と言うことですよね。確かに出来れば兵士として強いですけど、確かに複雑ですね」


 『体幹』という概念を完全にマニュアル化することはかなり難しく、人型のゴーレムを作る際、そのスペックのほとんどはこれにごっそり持って行かれる。


 では、人間の体の動きを自動でやらせるのではなく、術式を組む際に錬金術師側が入力しておくというやり方にできればいい……のだが、単純ではない。


 例えば『歩く』場合、腰を動かし、右モモを上げながら、左足の膝をゆっくりと折りつつも左足首の角度を合わせ、と同時に両手の振って……


 といったことをするのだ。しかもこれを『バランスを取りながら』という前提付き。


 まず転ぶ上に、マニュアル化して立ち上がらせようものなら、右肩を持ちあげつつ肘を曲げて、手首を返して地面に掌を……と地獄の連鎖。


 仮に歩いて敵に近づけても、殴ったところでまあまず『ブオンッ!』とはならない。天才が入力してやっと『ひょろ……ごぅ……ぃぃぃ……』となる。


 まあこれに関しては人間の脳の構造がマジで奇跡レベルで進化してきたということの証ということだが、それを人工的にやろうなんぞ、今のゴーレム産業の人間には千年早い。


 だったらもう『ただの板』にして、その板に特定の魔法を組み込んでそれをゴーレムに行わせる方がよほど効率的だ。


「まあ、複雑じゃな……おっ、エースライトが見えてきたのう」

「おおっ。思ったよりも速いですね」


 ホバーゴーレムはエースライトの真上に向かっている。


「あの屋上に置くんですよね」

「そうじゃな」

「十トンって、耐えられるんですか?」

「あらかじめ、店舗と周囲の地盤をかなり強化しておるから、急に乗っけても問題ないそうじゃ」

「錬金術って思ったより万能なんですね!」

「……まあ、そうじゃな」


 実際に万能なところを見せられているのだからフィーテルとしては何も言えない。


「お、そろそろですね。オーライオーライですうううっ!」

「……それは屋上で立って言うべきではないか?」

「む? こういうのは雰囲気と勢いでやればいいんですよ!」

「カメリアの全てを体現したかのような言い分じゃのぅ」


 どこか諦めた様子になるフィーテル。


 その時、板の端にあった石が光った。


「エースライトの真上に来たみたいじゃな」

「ここからはゆっくりおろすだけですね!」

「そうじゃな。今もゆっくり高度が下がっとる」

「うーん。ちょっと実感がないですね」

「デリケートな物を運ぶ場合がこれからあるかもしれんし、あらかじめ調整しとるんじゃろうな」


 フィーテルは『アイツは本当に、人の気持ちはわからんが物の状態はわかるんじゃなぁ』と思いつつ、はしゃいでいるカメリアを視界の端で見ていた。


「……む? なんかぐらついていませんか?」

「ん? ……なんかそんな気が……まだ高度が半分くらい残っとるぞ?」


 次の瞬間、ガクッ! っと強烈に揺れた。


「な、なんですか!?」

「わ、わからん!」


 そして、十トンの鉄の箱が乗っていた部分が一気に脆くなったかのように崩壊し、箱だけが下に落ちていった。


「あっ!」

「あっ……」


 カメリアは驚愕。フィーテルはどこか諦めたような声が漏れた。


 二人はとりあえず、目をつぶって、両手で耳を閉じることにした。













 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!















 天地がひっくり返ったかのような音が周囲に鳴り響き、上で構えていたカメリアとフィーテルは体を震わせる。


 ただ、十トンの『負荷』がなくなって安定したのか、それともまた別の要因か、ホバーゴーレムの残っている部分はゆっくり降下し、店舗の屋上に到着する。


「……だ、大丈夫ですかね?」

「鑑定魔法で見る限りは、箱と内部の素材たち、店舗とその周囲の損壊率は0パーセントじゃ。とんでもない強化を施しておったんじゃなぁ……」


 世紀の大事件になっていてもおかしくないような衝撃だったと思うが、壊れてはいないようだ。


「そういえばリクナさんは!?」

「ああ、心配ないじゃろ。この店舗と騎士団詰め所の敷地が隣り合わせで、皇太子からの注文で地下通路を作っておるはず。周囲の地面にヒビ一つ入っておらぬし、衝撃と音のほぼすべてをこの店舗が吸収しておるはずじゃ。中にいたらひどい目になっとるじゃろうが、今回は問題ないじゃろ」

「ふう、良かったですうううっ!」


 特に被害がなくてよかったと喜ぶカメリア。


「ふぅ、ワシもヒヤッとしたが、何とかなるもんじゃな。ただ、あまりにもでかい音が出たから騎士団がざわついておるの。カメリア。説明しに行ってきてくれぬか?」

「わかりました! 行ってきますね!」


 屋上からそのままピョンっと飛び降りてピューーっ! と走っていった。


「……はぁ、まあ、とにかく、アレじゃな……」


 フィーテルは『下』を見た。


 そこにあるのは屋上の床だが、もちろんソレではない。


「まあ、ドンマイということで。多分気絶しておるから心臓マッサージはしておくかの」

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