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第12話 あちらはこちらに容赦はないが、リクナはあちらに対し血も涙もない。

 通信魔法。


 基本的に、遠くの人物と連絡を取る場合、多くの場合は手紙。権力者の場合は『通信』というスキルを所持した者を抱え込む場合もある。


 魔法持ちに関してはとても確率が低く、そしてどこにいるのかを判断するのは大変難しい話であり、基本『手紙』で長距離の伝達は行われている。


 ……等間隔に大きめの塔を作って信号弾を打ち上げまくるなど、方法もなくはないが、そんな信号弾を打ち上げまくるようなことを一般人ができるはずもないので、結局『手紙』だ。


 そんな状態で『通信魔法』という、魔法を起動するだけで相手と話せる魔法と言うのは、正直に言って『破格』である。


 ただ、この魔法の運用にはデメリットが二つ。


 フィーテルも語ったことだが、そこまで遠くまで飛ばせないこと。一応、中継地点となる拠点を作ることで補えるのだが、『帝国の帝都から、教導国の中心である神殿まで音声が直で行く!』ということはない。


 もう一つは、魔力量の消費が膨大なこと。


 射程を長くするという行為を行う場合、弓矢だろうと魔法だろうと必要な『エネルギー』が多くなるのは変わらない。


 ただ、人間の目と違って、魔法を使う際の『認識』というのは本人の視界を超える。理論がどうのこうのと言うより単にその事実があるという話で、要するに『莫大な魔力量』という脳筋みたいなことをすれば、『遠くまで行ける』のだ。


 ただ、『単に遠くまで飛ばす』のではなく、『地平線の向こう』を射程とする技術を『人間目線の認識』でやろうというのだから、当然、莫大な魔力量が必要になる。


「……ここか?」

「ああ。ここから通信魔法の波が見えてる。二本の道に挟まれた間にある四軒だ。正方形みたいな拠点が内部で作られてる」

「こんな辺鄙なところに拠点があったとは……」


 帝都に『貧民街(スラム)』は存在しないが、それでも『端』や『辺鄙』と言える場所はある。


 帝都の主要な店や仕事場からかなり離れていて若干不便。ただし帝都基準で安い物件が並んでいる。


 そんな住宅街に、リクナとデストはやってきた。


 二人とも『認識阻害』のマジックアイテムを身に着けており、彼らが本人であることが分かるのは、対応する認識魔法のマジックアイテムを持つ隠れた護衛くらいのもの。


 一応、デストはリクナに対しても認識魔法を使っているのでリクナと認識できるし、逆もしかり。


 ……まあ、通常の見え方にしか対応していないので、リクナにとってはどうでもいいことだが。


「ふむ……」

「ここはノーマークだったのか?」

「ああ。膨大な魔力がこっちに運び込まれた形跡はなかったからな」

「帝都は広いからなぁ……流石にしらみつぶしにはやってられんか」

「そういうことだ。ただ……魔石が運び込まれた様子がないのは事実だ。一体どうやって魔力を確保しているんだ?」


 デストが首をかしげている。


 長距離の通信魔法を扱うとなれば、当然、大量の魔力を調達する必要がある。


 魔力自体は人間の体内でも作られるが、あまりにも膨大な魔力量を持つ者が帝都の関所を潜れば、当然警戒するし、動向はそれ相応に調査されるだろう。


 魔力量は普通の人間しかここに住んでいない。そして、モンスターが体内に持つ『魔石』を大量に運び込んだ様子もない。


 それでどのように魔力を調達しているのだろうか。


「……ここからでも俺は答えが分かってるが、聞くか?」

「ああ」

「凄く大雑把に言うと、人間にとって無害な植物型モンスターを栽培してる」

「……はっ?」


 言っていることは分かるが、理解に至らない。


「……デストって、『体内の魔力をほぼ扱えないモンスター』っていう分類を知らないんじゃないか?」

「初耳だ」

「モンスターは体内の魔力を使って自分の身体能力を強化したり、素質があれば魔法だって使ってくるわけだ。ただ、中には魔石を体内に持っていながら、それをほぼ運用できないモンスターは存在する」

「それはモンスターと言えるのか?」

「帝国では体内に魔石があればモンスターだって教科書に書いてたぞ」

「いつ読んだんだ?」

「帝都に来た初日」

「……」


 何かが納得いかないデスト。


「で……動物なら元々『自分の体を動かせる構造』を持っていて、そこに魔石の補正が加わってモンスターとして強化されるが、植物にはもともと、自分を動かせる構造なんてないからな」


 厳密には食虫植物のように特定の刺激が与えられると反応する場合はあるが、いずれにせよ、動物ほど『自立性』はない。


「ふむ、その、体内の魔石を使えない植物モンスターを栽培し、種を回収しつつ討伐を繰り返すことで、魔石を確保し、それを通信魔法に使っているわけか」

「俺の鑑定魔法の範囲の話だが、いうほど通信魔法の魔道具の性能は高くない。安いパーツをバラバラにして何回かに分けて帝都に運び込んで、建物の中で組み上げてるな。消費魔力は、教導国の最先端のものと比べるとかなり燃費が悪いはずだ」


 もちろん、これは皇帝や皇太子がいる帝都で行われるからこそ『そういう計画』で作ったわけで、警戒が甘い地域になれば普通に高性能の魔道具を用意しているだろう。


「要するに、帝都から発信する情報に関しては低頻度ということか」

「まあ、ぶっちゃけ、建物の中は麻薬の密造現場みたいになってると思うが、育てるのにもコストがかかるからな。帝都内部に農場なんてないから、外部から肥料を大量に持ち込もうとしたら勘づかれる可能性があるし、そこまで栽培できる量も多くない。『低頻度』の判断材料としては尚更だ」

「ふむ。やっと理解した」


 もちろん、低頻度とはいえ、情報を帝都から直接送れるのはかなり問題だ。


「しかし……おもったより浅いな」

「何が?」

「研究度合いと言うか……通信魔法も、植物の栽培も、大体二十年くらいか? 帝国の技術の進歩の歴史を調べて、それを元にした推算だけど」

「二十年前……か」

「何かあったのか?」

「教導国の政権が過激派に乗っ取られた時期と重なる」

「へー……そんなことがあったのか」


 デストは『興味ないのかよ』という感想を持ったが、口にはしなかった。

 言ったところであまり意味はない。


「はぁ、しかし、こんな簡単に見つかるとはなぁ」

「どうしたそんな溜息ついて」

「いや……通信魔法の拠点を用意する難易度は圧倒的だからな。拠点の位置もそうだが、魔法を飛ばす角度を少しでも間違えれば全て水の泡だ。緻密な計画力と、それを支える計算力が必要になる。俺たちも教導国側に仕込んでいるが、あの時は地獄だった」

「へぇ……マードックでも倒れたのか?」

「まあ、そんなところだ」


 今は輸送省を押し付けられてるのに昔はそんなことが。

 かわいそうに。


「そんな拠点だ。そう簡単に見つかるとは思ってなかった」

「だろうなぁ。緻密な計画と計算力か……要するに、血反吐(ちへど)吐いてぶっ倒れるような努力の末に、こういう拠点が作られてるわけか」

「その通りだ」

「ふーん……あ、店を出る時に用意した魔道具があるんだが、通信魔法の遮断と、もし使われた際にそれを感知が可能だぞ。とりあえずいるか?」

「お前、血も涙もないよな……」


 リクナはアンテナっぽい突起物が付けられた直方体をポケットから取り出してデストに渡す。


 受け取るデストの頬はこの上なくひきつっている。


 ……まあ、通信魔法の拠点設置計画は、帝国が進めた時はデストも指揮を執っていただろう。

 それがこんな手のひらサイズのマジックアイテム一つで崩壊するとなれば、頬がひきつっている程度で済んでいるのは精神が強い証拠だ。

 伊達に皇太子をやってない。


「というか、この手の魔道具をつくらなかったのか?」

「どこに拠点があるかわからない以上、帝都全域に結界を張る必要があるんだぞ。予算が溶けるわ」

「なるほど」


 何事もコストはかかるのだ。帝国(こっち)教導国(むこう)も。


 とりあえず必要なものを全て現地調達で金を一切使わずにやるリクナには、わからない話だ。

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