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第11話 こいつはもうちょっと社会というものを知るべきだ。

 帝都の模型を都市開発部の会議室に搬入したリクナ。


 最初、『いったいどこに置いておくの?』という視線を向けられた。


 まあ、かさばる要素がありすぎて笑えないのがジオラマという存在だが、等分に分解可能で頑丈かつ軽いため、壁に立てかけておくことも可能。


 とまぁそんなわけで、『帝都中の細工師が発狂しそうだなぁ』という雰囲気溢れる会議室を尻目に、リクナとカメリアはエースライトに戻った次第である。


「……で、お主は何をしておるんじゃ? 銀なんぞ触って、珍しいのう」

「銀の食器セットを作りたいから素材を売ってくれって注文があるんだよ」

「なるほど。貴族はそういうのに金を掛けたがるからのう。それで試しておるわけか」

「ああ」


 カメリアは朝ご飯をどこかに買いに行って、シズクは商業ギルド本部に向かった。


 まだ営業時間ではない店舗二階では、リクナが現地調達で手に入れた銀に錬金術を使っていた。

 フィーテルはそれを見かけて話した様子。


「他の素材は一瞬で錬金するのに、かなり時間をかけるのう」

「腐食耐性っていうのかな。あんまり試したことないから、一個一個やってたんだよ」

「注文は間に合っとるのか?」

「一応及第点の物は出来たから注文分の用意はできてるけど、クオリティはそこまでじゃないから割引適用の予定だな」

「職人じゃなぁ……」

「完成してない物を売るわけだからな。金額交渉はこっちが妥協すべきだろ」

「……おぬしの場合、自分から値段を下げると言い出しとると思うがの」

「その通りだが」

「そうか。まあこれ以上は何も言うまい」


 そもそもリクナがしたいのは『研究』だ。


 どんなテーマでどのような仮説を立てているのかはフィーテルから見てもよくわからないが、リクナの中で何かがあるのか確定。


 店に並べる素材に関しては、アーガリア王国国王のシュライムから『店を開け』と言われてここにいるわけで、『店を開くからには商品が必要』なので作っているだけ。


 使う研究素材すら現地調達のリクナは金銭をあまり必要としないタイプであり、どんぶり勘定ならぬどんぶり値付(ねづけ)だ。


 あまり適当にやりすぎるとシズクがキレるので考えないわけではないし、一応『店長兼商品作成者』なので、フィーテルからとやかく言うものではない。多分。


「……ん? 誰かがこの店に走ってきてるな」

「まだ営業しておらぬのに……誰じゃ?」


 フィーテルは一階に降りていった。

 すると、その『誰か』はドアを開けて中に入ってきた。


リクナ(あのバカ)はどこにいる!」

「……何があったか知らぬが、皇太子ならもうちょっと余裕をみせたらどうじゃ?」


 デスト皇太子である。将軍の仕事はどうした。


「これを見ろ! こんな資料を作っておいて、俺に何も言わないとかあり得るか!?」


 そういってデストが取り出したのは、表紙に『帝都ジオラマ取扱説明書』というマニュアルだ。


 編集と装丁はリクナがやったものだろう。かなり整った見た目をしている。


 フィーテルはそれを受け取って中を見る。


「……危険物がこれでもかと記載されておるな」

「確かに帝都の消防力は高いが、対処療法で問題ないというのは詭弁だぞ。なんでこんなの作っておいて何も言わないのか……はぁ」


 デストは一気に疲れたようだ。


「……すまんな。ワシもちょっと対処療法で問題ないと思っとった」

「これだから危険物に恐怖心を抱かない連中は嫌いなんだ。全く……」


 魔法という概念に対して一定以上の実力を持つようになると、耐久性、頑丈性、回復力において人外レベルになる。


 もちろん、高い実力を持つ者がそれを軸にモンスターとガチバトルする分には必要なのでそれは問題ない、しかし、一般人との『ズレ』が大きくなることも事実。


 帝都をはじめとした町や村などの『モンスターと言う脅威がほぼない場所』において判断が鈍くなるのは【社会的な問題】としてどの国も抱えているわけだ。


 もちろん、実力者というものは『勘』が優れているゆえに、暴力的な行為につながることはほぼないのだが、ここで重要なのは『実力者ではない者の脆さへの理解』だ。


 そこに理解が及ばないからこそ、この【社会的な問題】がある。


 で。


 その【社会的な問題】の極致が『素材屋エースライト』というわけだ。シズクは除く。


 しかもリクナに関してはさらにひどい。


 リクナは錬金術の運用のために抜群の認識力がある。要するに、高ランク冒険者が持つ『一般人の脆さへの理解』に対し、齟齬はない。


 というか、錬金術で自分の体を弄っているくらいだ。『人間の体の耐久力』に関しては、そんじょそこらの医者の知識を完全に上回るだろう。


 だが、危険物が町にあることがどういう意味を持つのか理解していないので、『問題と認識しない』のだ。


「……はぁ、アーガリア王国って凄いな。こんな奴を抱えてたなんて」

「……そうじゃな。で、どうするんじゃ?」

「リクナがこの国に来たことで教導国は必ず動く。ちまちましたマニュアルを作ってる暇はない。リクナが手に入れた情報を素早く俺のところに伝達するシステムを作るべきか……」

「ま、そうじゃな。ワシもちゃんと考えておく」


 デストがため息をついて、出入り口に体を向けると……。


「で、殿下。ここにいたんですか」

「バステル? なんでここに……」


 開店初日にデストが馬車と金を用意する際に呼んだあの青年が来た。


 おそらくデストの側近だろう。バステルと言うらしい。


 が、一体何のようだろうか。


「リクナ様の体質……というのか、『通常と違う見え方』をしているという報告があったので、一つ相談があります」

「なんだ?」

「通常と違う見え方の『範囲』は分かりませんが……もしかしたら、教導国の『通信魔法の拠点』がわかるかもしれません」

「……それはそうだな」


 バステルの意見にデストは唸る。


「魔法の通信はそこまで遠くまで飛ばせんし、使う魔力も膨大。帝都から教導国までつなげるとなれば相当な『拠点』が必要になるのう」

「はい。こちらが教導国に作っている拠点はまだ壊されていませんし、崩すことが出来れば、一気に優位になります」

「そうだな」


 通信に対して『理解』があるソーバルという宰相がいるのが帝国だ。


 当然、あちこちに『中継地点』やら『拠点』やら、いろいろ作って、教導国側にも忍ばせている。


 帝国と教導国の間にある『情報戦』はそのような状態にある。


 まあ、だからこそ、アーガリア王国が間にありながら、『教導国の意識を帝国に向ける』と言うことが可能になるわけで。


 その状態で教導国の通信拠点を抑えることが出来れば、優位になる。


「早速、リクナに相談するか」


 ……で、デストがエースライト二階のリクナの部屋に向かい、事情を説明。

 その返答だが……。


「……それらしいのなら、帝都に来るまでいくつもあったぞ」

「先に言えよ!」


 報連相、の文字はコイツにはない。

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