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第10話 この錬金術師の辞書に報連相の文字はない。絶対にない。

「朝日が気持ちいいですうううっ!」


 素材屋エースライトは二階が住居スペースになっている。


 主に店としての機能は一階部分にまとまっているので、二階がそれぞれの自室が用意されているのだ。


 リクナであれば研究のための物資が用意されているだろうし、フィーテルならば酒を置いているだろう。


 カメリアは分からないが……まあとにかく、彼女は窓を思いっきり開けて、外を見た。


 カメリアの部屋は東側に窓があり、太陽の光がしっかり入ってくる。


「……む?」


 何かが視界に入ったのか、目線が下がる。


「!」


 そして驚いた。


「なんで帝都のジオラマがあるんですか!?」


 円形の巨大ジオラマが用意されており、とても優れた質感を持っていそうなソレが存在感を発揮していた。


「……ん? ああ、起きたのか」


 そんなジオラマのすぐそばにはリクナがいて、あごに手を当ててうーんうーんと唸っていたが、カメリアの声を聞いてそちらを向く。


「むうううううっ!」


 カメリアは窓からピョンっと飛び降りて、そのままリクナに向かって突撃する。


「リクナさん! 一体何をしてるんですか!」

「ジオラマ作ったんだけど、よくよく考えたらこれどうしようかなって思ってたところだ」

「なんでそんな適当な感じでジオラマを作るんですか! 意味が分かりませんよ!」

「昨日いろいろなところから大口の取引があったけど、宮廷関係者からも来てただろ?」

「来てましたね」

「その中で、都市開発っていうのかな。そういう部署の人が来て、こういうのを作ってくれって言われたんだよ」

「それをなんで裏庭に作るんですか! こういうのはそういう部署の会議室で作るんですよ!」

「……それもそうだな」

「わかってなかったんですか!?」


 基本的に誰にも邪魔されず研究して十年。


 『自分色』以外の何物にも染まっていないともいえるが、裏を返せば馬鹿である。


 まあ、何となくそんな感じなのは最初からわかってきたような気はするが。


「……むうう。む、でも、このジオラマ。かなり本格的に出来てますね」

「リスク管理とか、そういうのをいろいろ考えたいって言ってたから、いろいろな『仕込み』があるぞ」

「例えばどんなところですか?」

「この……『ルナライト教導国大使館』っていうのがあるだろ?」

「ありますね」

「夜に上から広範囲鑑定のスキルを使ったら、内部に大量の爆薬があるのが分かってな。このジオラマの中にも爆薬を入れてる」

「危険すぎますよ! ジオラマの場合は備考欄みたいな感じで別の資料を作ればいいんですよ!」

「そうなのか?」

「誰も彼もがリクナさんみたいにジオラマを作れるわけではないんですよ!」

「それもそうだな」


 一応、抜群の観察眼を持つリクナは、『観察した相手が持つ技術力』が分かる。


 そのため、ジオラマが作れることが一般的でないことは分かっている。


 当然、いろいろな『技術』に関して、誰がどのようなものを持っているのか、実際に『鑑定スキル』も持っているし、かなり高頻度で使っても脳が処理できるので、概ね分かるのだ。


 ただ、それぞれの人間が持ち合わせている技術が、『社会的にどのような相互関係を構築しているのか』がさっぱりわからないのである。


 こんなバカと付き合ってきたシズクの心労は相当なものだろう。


「むうう、とりあえず、円形でこの大きさなので、等分に切断して運び込めるようにするべきですよ!」

「確かにそうだな。あの出入り口には入らないし」

「どうやって入れるつもりだったんですか?」

「こう……うまく、入れられないかなぁって」


 おそらくコイツにボトルシップを組み立てる才能はない。


「そんな適当だからダメなんですよ! 今日中にジオラマについて職員さんが聞きに来るはずですし、さっさと分けますよ!」

「わかった」


 カメリアに言われた通り、円形のジオラマをうまく切断して後で簡単に運び込めるようにする。


 なお、『重量軽減』の付与魔法はすでにかけているので、見た目以上に軽い。

 パーツ一つ一つはリクナ製でかなり頑丈なので、多少は下手に扱っても壊れない優れものだ。


 ……まあ、実際の建物はそこまで頑丈ではないが、別にそこまでのリアリティは必要ないだろう。リクナの価値基準が狂っているというだけの話である。


 ……。


 …………。


「…………大使館に爆薬。これに対して何か思う所はないんですかね? あの二人」

「さあ。ワシに言われても分からんよ。ただ、あの様子だと完全放置じゃろ。デストの小僧には言っておかんとな」


 カメリアはリクナに比べれば世間知らずとは言わないが、抜けていることに変わりはない。

 いや、爆薬という者に対して恐怖心が足りないということでもあるので、一体どういう人生を送ってきたのかという話にはなるが。


「はぁ、先生ってこういうのが多いんですよねぇ」

「『こういうの』……か。大変じゃな」


 悪意とリスクに対する理解がないわけではない。ただ、『極端』かつぶっ飛んでいるので一般論からズレまくっているのだ。


 シズクとしてはどうにかしてほしいのだが、まあこの願いが届いたことはないらしい。


「しかし、爆薬なんて何に使うのやら」

「帝都は消防力も優れておるし、それは教導国も知っておるはず。誰も見たことがないようなウイルスならともかく爆薬じゃと……コストにあった混乱は起こらんと思うがのう」

「とはいえ、デスト殿下には報告しておきますか」

「そうじゃな。あの二人に報連相は無理じゃし」


 なんとなく、リクナとカメリアの扱い方が分かってきたシズクとフィーテル。


 ……あまり大丈夫な雰囲気はないが、及第点を見つけるしかない以上、シズクとしてはもう『なるようになれ』だ。


 リクナの情報獲得能力が高すぎて、一々彼から零れる情報を気にしていたら身が持たない。


 だから、なるようになれだ。

 残念なことにこれが正義である。

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