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3話 妹の行方①



追いかけてくるクモやコウモリ共を蹴散(けち)らし、洞窟の外へ辿り着く。


「しゃあー!! って、まぶしっ!?」


飛び出ると同時、アイガは太陽の光に目をやられ情けなくも転げ回った。


「予想はついてたが、やっぱり魔界じゃねえか……」


手で影を作り、見慣れない空を見上げる。


魔界──少なくともアイガのいた場所では、空は四六時中赤黒く、月が浮かんでいた。


「太陽とは青い空。……眩しいし、落ち着かねえな。月がねえのも気持ち悪い」


慣れない日差しが、目の奥を刺激する。


「こいつの村はこっちか……」


村の場所を直感的に理解する。

思い出す、と言った方が正しいのかもしれない。


まるで自分の記憶のように通ってきた道がわかるのだ。


「気持ち悪いぜ。自分のじゃねえ記憶があるっていうのは……」


しかも中途半端だ。

全ての記憶を思い出せるわけじゃない。


なぜこの洞窟にいたのか。

妹が今どこにいるのか。


現状、アイガはなにもわからない。 

唯一わかるのは、ここが人間の住む世界ということだけ。


「助けろってのは、あの石を投げてきた村人からってことか? とにかく村にいくしかないか」


少なくとも、村にいけば何かしらの情報は手に入るはずだ。


「さっさと助けて、魔界に戻るとするか」


アイガは目の前に森の中へ足を踏み入れた。

道は最低限、整備されているため迷う心配はなさそうだ。


「にしても、この身体……」


腕を上げ、改めて自分の新たな身体を観察する。

洞窟の中でわかっていたことだが、この体はだいぶ貧弱だ。


体力、筋力、魔力量。

全てが魔界時代より大幅に下がっている。

特に魔力量の低下が問題だ。


〈吸血〉で供給できるようになったとはいえ、レベルの高い奴らは吸い取る隙さえみせない。


「まず力をつけないと、魔界に戻れてもガウェインは倒せねえな」


そんなことを考えている内に遠くに村が見えてきた。


「あれが、ユラの村か……」


森を抜け、村の入り口まで行く。


村は木の柵で囲まれていた。

魔物や動物対策だろうか。


近くの畑で作業をしていた中年の男と目が合った。


「おい。この村にフィアって女が……」


男はアイガを見て驚くと、農具を置いて村の中心へと走り去ってしま


「なんだ? この村のやつは会話もできねえのか?」


呆れ混じりにごちりながら、アイガは村の中心部へと歩を進めた。

中心部はやや人通りが多く、露天もいくつか並んでいる。


(やけに見られてんな)


すれ違った村人はみなアイガを見ては、こそこそと何かを話している。

聞き取れはしないが、良い内容でないのは容易に察することができた。


フィアのことを尋ねようとしても、無視してすぐに走り去ってしまう。


(そういや、記憶の中でも嫌われてたな……)


適当に誰かを脅してフィアのことを聞き出そうか、迷っていると。


「どうかお願いします!」


「だから、無理だっていってんだろ! 邪魔だから消えろ!」


露店から揉めている声が聞こえてきた。


店主らしき男に、みすぼらしい服装の少女がなにか頼み混んでいる。


「お願い。少しでいいんです。お金は必ず返すので……あっ!」


店主に突き飛ばされ、少女は地面に取れこんだ。

アイガは呆れながら、てを差し伸べた。


「おい、大丈夫か?」


「あ、ありがと……」


顔を上げた少女は、アイガの顔を見ると慌てて手を引いた。

それから、他の村人同様、目をそらしそそくさと去っていってしまった。


「お前、ユラか? なんでこんなところにいやがる?」


店主がアイガに気づくなり、ドスの聞いた声で聞いてきた。

声をかけてくれるだけ、他の村人よりもマシに感じてしまう。


「ビドア様に許してもらうために、洞窟に行ったんだろ? なんで手ぶらなんだ。魔鉱石はどうした? まさか逃げ帰って来たんじゃねえだろうな」


「誰に何を許してもらうって? アンタ、他の奴らと違って会話できるみたいだし、教えてくれよ」


「あぁ? 呪われたアルム人が、生意気な口聞いてんじゃねえぞ! もういい。さっさと消えろ。その白髪(はくはつ)が見えちゃ、客もこなくなっちまう」


よく見れば、村人はみな黒髪だった。

店主もさっきの少女も。


どうやら、この嫌悪の視線はこの白髪と『アルム人』ってのが原因のようだ。

にしても酷い扱いだ。


「そのアルム人ってのも……」


「おいおいおーい! そこの白髪頭(しらがあたま)は、ユラじゃねえか!」


後方から飛んできた野太い声が、アイガの質問をかき消した。


ふくよかや体型の豚顔男が、串肉を齧りながら偉そうに歩いてくる。

その後ろには、子分か付き人か、人相の悪い男が二人ついていた。


「あぁ、ビル様! これはこれは、今ご報告に行こうと思っていたところです! このクソアムル人、手ぶらで逃げ帰ってきたようでして!」


店主はアイガを押し除けると、ゴマ摺りをしながら豚顔の男に駆け寄った。

ビルと呼ばれた豚顔は、適当に店主をあしらう。


「さっき、別のヤツから聞いたっての。おーい、ユラ。てめぇ、俺様の顔に傷つけといていい度胸じゃねえか。この村に住めなくなってもいいのかよ」


よくよく見ると、頬にほんの小さな切り傷がついていた。


「あぁ? 誰だよ、お前────」


刹那。

頭痛と共に、記憶が巡る。


目の前の豚顔の男が、白髪の少女──フィアを襲おうとしている映像。

助けに入ったユラが、持っていた短剣でビルの顔に傷をつけてしまう。


そこで映像は途切れた。


(今のは……)


「ビル様!」


豚顔のもとに、さっきの少女が駆け寄る。


「お願いします! 母の具合がよくないのです! お金は絶対にお返ししますので、どうか──」


「ああー!! もう!! 俺様が喋ってる途中でだろうがっ!!」


「きゃっ!!」


豚顔が突然喚きだし、像のような足で少女を蹴飛ばした。

少女は受け身もろくに取れず、路上を転がっていく。


「てめえの母ちゃんなんざ知るか! 金がなきゃ、体でも売れや! つーか、汚ねえ手で触ってんじゃねえよ。」


誰もビルを責めないし、少女に駆け寄りもしない。

それだけ権力を持っているということだろう。


「あー。おい、そこのガキ。お前のせいで靴が汚れた。舐めて落とせ。そしたら金を工面してやるよ」


「あっ、はっ……」


少女にビルの声は聞こえていない。

蹴られたお腹を抱え、呼吸するのに必死だ。


「さっさとしろ。母親がくたばってもいいのかよ! それともまた蹴られぶぎゅっ!!??」


アイガの拳が、ビルの顔のど真ん中に突き刺さる。

魔力で強化された拳は、そのまま鼻骨を砕きビルの巨体を吹っ飛ばした。


「び、ビルさん!!」


少女には駆け寄らなかった村人や手下の男たちが、露店に突っ込んだビルに駆け寄る。

平台にあった野菜が崩れ落ち、ビルはその下敷きになった。


「な、なにやってんだ! ユラ! 村がどうなってもいいのか!」


店主がアイガに怒鳴りつける。


「知るかよ」


アイガは未だに倒れてる少女の元で屈み、指先から〈魔糸〉伸ばした。

糸の先端を少女につけ、自身の魔力を分け与える。

〈吸血〉の応用だ。


「これで少しはマシになる。悪いな。回復魔法はまだ持ってねえんだ」


少女の顔から苦悶の表情が消えた。

魔力を得たことで一時的に回復が促進されたからだ。


「で、でめぇ……クソアルム族がぁ……」


野菜の山からビルが起き上がる。


「てめえみてえな、呪われた一族が暮らせんのは、誰のおかげだと思ってやがる! 俺の親父がびゅ!?」


アイガが〈粘糸〉を使い、ビルを引き寄せた。

村人はなぜビルが引っ張られたのか理解できず驚いている。


アイガは引き寄せたビルの襟首を掴み、膝をつくビルを見下ろした。


「魔界にもいるぜ。お前みたいな、自分より弱い奴を狙ってげひげひ笑う下衆が。案外、人間も魔物も変わんねえんだな」


「で、でめぇ何をいぶっ!」


再び、顔面中央をぶん殴る。


ぐじゅり、と初手の一撃で折れた鼻がさらに潰れる。

今度はしっかり掴んでいるためふっ飛ばない。


「俺が話してる途中だろうが。おい、フィアはどこにいる?」


「あ、あがっ……おでの、鼻……」


鼻を抑えるビルの手の上から拳を突き刺す。

手の甲が潰れ、ビルはさらに叫んだ。


「質問に答えろ」


「あぁあ゛! ごべんばさい゛い゛!! だすけでぇ!!


ビルが泣きじゃくる。

もはや会話が成り立たない。


「勝てねぇ相手には命乞いか? つくづく救えねえな、お前」


襟首を掴んでいた手を離す。

ビルはそのまま崩れ落ちた。


「悪いが、クズには容赦しねえことにしてんだ」


膝をついたままのビルの顔に、止めの一撃を食らわせる。


顔にめり込んだ拳は、ビルを後頭部から地面に打ち付けた。

あまりの衝撃に地面が割れ、土煙が舞う。


「あーあ、お前のせいで拳が汚れちまった。拭けよ……って聞いてないか」


ビルは動かない。

顔の骨は砕け、完全に潰れている。

もはや原型を取り留めていなかった。


周囲の見物人たちはみな唖然としている。


「おい。俺の妹はどこだ?」


取り巻きの一人、痩せた男に尋ねる。


「ふぃ、フィアは、その……」


「はっきり言え」


「う、売っちまったんだ! ビルの親父が! 詳しいことは俺もわからない! 本当だ!」


男が声を振るわせながら答える。

嘘を言っているようには見えない。


「親子揃ってクズだな……おい、お前」


「は、はいっ……」


痩せ男が、怯えるように返事をする。



「そいつのとこまで案内しろ」



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