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2.洞窟からのリスタート


「ん……」


カサカサ。

何かが這うような音で目が覚めた。


アイガは眼を開くと、まず溜息を吐いた。


「最悪の目覚めだな……」


アイガはクモの糸に縛られ、巨大な巣に張りつけられていた。


洞窟の中だろうか。

拓けた場所だが空は見えず、各所にある魔鉱石が青白く発光している。


そして洞窟内には、イノシシほどの大きさのクモ型モンスターが、大量に蔓延っていた。


「ポイズンスパイダーの巣か」


下級だが集団になると厄介なモンスターだ。


(意識を失ってるうちに連れてこられたか?)


自由の効く首を動かし、周囲を確認する。


クモの巣は天井に近い部分に張ってあるため、全体は見渡しやすい。

巣は大きく、同じように糸で拘束された動物らしきものが何体もいた。


壁には人が通れるほどの穴がいくつもあり、獲物を糸で引き摺るクモたちが、獲物を連れて来ては戻っていく。


(俺もああやって運ばれたのか。情けねえ)


すぐに食べないことから察するに、貯蔵しておくつもりなのかもしれない。


アイガはすぐに思考を切り替える。


(とりあえず、さっさと魔王城に戻ってガウェイクを殺す。その後、ユラとの約束を果たせばいい)


まずすべきことは、こいつらを燃やすことだ。


「〈フレア〉」


火炎魔法を唱える。


「あ?」


しかし、何も起こらない。


「なんだ? 〈フレア〉! 〈フレアゴル〉! 〈マグニーア〉!」


なにかがおかしい。

どれだけ唱えても、〈魔法複製〉で手に入れた魔法が一つも発動しない。


「おい。どうなってんだ!」


ふと、魔鉱石に反射した自分の顔が視界に入った。


「……こりゃあ、どういうことだ?」


知らない顔だった。


写っていたのは、白髪はくはつの男。

年はおそらく二十にも満たない。


しかも人間だ。


「っ!?」


刹那、頭痛が走る。




脳内に映像が駆け巡った。


『呪われた一族が!』

『死んじまえ!』

『近寄らないで!』


知らない人間たちが罵倒する。

蹴られ、殴られ、石をぶつけられる。


自分を囲む人間は、全員笑ってた。

誰も助ようとしない。


ただ、笑ってる。


腕の中では、白髪の少女が泣いていた。


『……お兄ちゃん』


その声を最後に、アイガが我に返った。



「……はぁ……はぁ……」


気がつけば全身に汗が滲んでいた。

鼓動は速度を増し、息が切れている。


『僕の妹を……フィアを助けてほしい』


声の言葉を思い出す。


「……あいつが、フィアか?」


この顔とよく似た少女。


「……生き返らせるってのは、身体をやるって意味かよ」


この身体は、声の主──ユラのものだろう。

あくまで予想に過ぎないが、おそらく間違っていない。


「確かに、元の身体でとは言ってなかったけどよ……説明不足にもほどがあんだろ」


(複製したはずの魔法が使えないのは、別の身体になったからか? 転生したことで、複製した魔法がリセットされた可能性があるな)


「100年かけて集めた魔法がおじゃんかよ……」


アイガは大きく溜息を吐く。

そして。


「ま、しゃーねー」


割り切ることにした。


生きていれば魔法なんていくらでも集められる。

なにより復讐ができる。


アイガにとっては重要なのは『魔王になること』だ。


「それより問題は……」


固有魔法の有無。


深呼吸をして神経を集中させる。

ユラの体にも魔力は僅かながら存在していた。


転生前と比べたら泣きたくなるほど微量だが、あるだけまだ希望が持てる。


(この糸からも魔力は感じる。なら〈魔力複製〉が使えるな)


アイガの固有魔法〈魔力複製〉は魔法に直に触れ、魔力の流れを読み、解析することで発動する。


(さて、どうだ?)


〈魔力複製〉が発動。魔糸の魔力構成が神経を伝い脳に刻まれてく。


魔糸まし〉複製完了。


「よし」


魔糸まし〉は文字通り魔力で作られた糸だ。


ポイズンスパイダーは自身の体内で生成した糸と、〈魔糸まし〉を混ぜ、糸の強度を上げたり、操作したりする。

故に〈魔糸まし〉だけでは、アイガを拘束している糸に劣る。


しかしアイガは100年を超える戦闘経験から、糸魔法の多様性を理解していた。


「〈魔糸まし〉発動」


魔力の込められた糸で、全身を巻いていく。


この体は筋力が足りず、ましてや魔法をおこすことに慣れてない。

魔糸まし〉を纏うことで魔力伝達率を上げ、身体能力を増幅させる。


(あとはなんか、武器があれば……)


拘束された糸の中で腕を動かし、装備を確認する。

あったのは腰につけれれた短刀だけだった。


(魔力武器じゃないが、これで代わりくらいにはなる)


腰に手を伸ばし、柄を握りしめる。

指先から伸ばした〈魔糸まし〉を短剣にもくくりつけた。


そして〈魔糸まし〉越しに魔力を帯びた短剣で、自身を包む糸を切り裂いた。


異変を察知したポイズンスパイダーが、シャーシャーと鳴きながら次々と集まってくる。


「チッ!」


アイガは地面に着地と同時に、走り出す。

目指すは、人間を引き摺ったクモが通っていた穴だ。


(人間を捕まえたってことは外に繋がってるはず……!)


穴の中には目の前に数匹のクモたちが待ち構えていた。


一匹が糸の網を飛ばす。

魔糸まし〉を変質させた捕獲用の〈粘糸網ねんしもう〉だ。


アイガは紙一重で避け、短剣でクモの頭を突き刺した。

続けざまに、噛みつこうとしたもう一匹のクモの頭を切り落とす。


一匹一匹は弱い。

戦闘に慣れていないこの体でも対応はできる程度に。


(問題は数……後ろの奴らに追いつかれる前になんとか脱出を──)


仲間を殺された最後のクモは、後方へ飛び距離を取った。

そして同時に、紫色の霧を吐き出す。


息留めが間に合わず僅かに吸ってしまう。

刹那、視界が揺れアイガは膝から崩れ落ちた。


(体が痺れて、力が入らねぇ。〈麻痺霧まひきり〉か……!)


症状から魔法を予測する。

霧を放ったクモは、続けて〈粘糸網ねんしもう〉でアイガを捉える。


しかしすぐには運ばない。

麻痺毒が完全に回るまで待っているようだった。


(頭使えんのかよ、虫のくせに……だが助かったぜ!)


慎重なクモの判断は、アイガにとって好機だった。


(〈麻痺霧まひきり〉複製。そして発動!)


自身の体内で麻痺毒を生成し、抗体を生成する。

炎魔法を極めた者に炎魔法が効きにくくなるなど、所持魔法と同系の攻撃には耐性がつきやすい。


アイガは魔力で循環を早め、クモが気がつくよりも早く抗体生成完了させる。

覆っていた〈粘糸網ねんしもう〉を短剣で切り裂き、一気に距離を詰めた。


「逃げんなよ」


再び後方に飛んだクモを〈麻痺霧〉と同時に複製しておいた〈粘糸網ねんしもう〉で捕まえる。


空中でバランスを崩したクモの頭部に短刀を突き刺した。

ピギィ、と小さな悲鳴と共にクモは動かなくなる。


と、一息つく間もなく後ろから追いついたクモの大群が押し寄せる。


「もう来やがったか!」


慌てて奥へと走り出した。

前方のクモを最低限の魔力で倒しながら、分かれ道を進んでいく。


もちろん今のアイガに、正解の道などわからない。


全て勘だ。


(ま、そのうち外に出んだろ。つーか、どうしたもんか。〈粘糸網ねんしもう〉で足止めできても、この体じゃ魔力にも限界が……)


悠長に次の手を考えていたその時。

狭い通路が終わり、拓けた空間に出た。


「別の巣に出ちまったか」


と、追ってきてたクモ達の足音が止まった。


振り返ると、ちょうど通路と空間の境い目でこちらを睨んでいる。


「なんだ? 追いかけっこは終わりか?」


煽るように呟いたその時。

首に痛みが走り、同時に倦怠感に襲われる。


「!?」


アイガの首にコウモリ型の魔獣──ブラッドバッドが噛み付いていた。


瞬時に短剣で突き刺そうとしたが、すんでのところで空中へ逃げられてしまう。


見上げると、天井に無数の赤い目が羅列していた。


「なるほど。こっちはブラッドバッドの縄張りってわけか」


無数の赤い瞳がアイガを睨みつける。


「〈吸血〉ね……」


コウモリ型が持つ魔法。

文字通り、噛み付くことで相手の血や魔力を吸い取る。


ただでさえ余裕のない魔力を座れてしまった。


アイガは全身に巻き強化していた〈魔糸まし〉を解く。

魔力が尽きかけ、維持が難しくなったからだ。


「ハハッ」


あまりの現状に、アイガは笑ってしまった。


「ここまでか……」


吸血コウモリたちが一斉に襲いかかる。


「なんて言うかよバーカ!」


アイガの両手に魔力を集中させる。


全身の〈魔糸まし〉を解いたのは諦めたからではない。

残りの魔力を全てこの魔法に使うためだ。


「〈粘糸網ねんしもう〉!!」


天井を覆うほどの巨大な〈粘糸網ねんしもう〉が放たれる。

噛みつこうと飛びかかってきたコウモリたちが巨大な網にかかる。


「そいつはただの〈粘糸網ねんしもう〉じゃねえ。さっきお前らから複製した〈吸血〉と融合した〈吸血粘糸網サクション・ネット〉だぜ」


捕まったコウモリたちから生気が失われ、徐々にやせ細っていく。


コウモリ達は慌てて離れようとするが、粘着性があるため暴れれば暴れるほど絡まってしまう。


魔力を吸う〈吸血〉。

その性質を〈粘糸網〉に付与した〈吸血粘糸網サクション・ネット〉。


網にかかった敵の魔力を吸い取り、さらに糸を通して発動者に供給する。

アイガは複数の糸を短剣に繋ぎ、魔力を吸収していた。


「これで魔力消費の問題は解決だな」


再び〈魔糸まし〉で全身と短剣を強化する。

粘糸網を回避した残りのコウモリたちが空中で距離を取った。


「てめえらの行動なんざ分かりきってんだよ。吸血が無理なら、遠距離攻撃だろ」


アイガの予想通り、コウモリたちは一斉に〈超音波弾エコーショット〉を放った。


アイガはわざと避けず、正面から受け止めた。

降り注ぐ超音波に雨に脳を揺さぶられ、たまらずその場で吐く。


しかし致命傷にはならない。


(くっそ、気持ち悪ぃ……だが!)


〈魔力複製〉発動。魔法構成を解析。


「〈超音波弾エコーショット〉複製完了。お返しだ」


超音波弾エコーショット〉と〈麻痺霧〉を融合。


アイガの放った〈麻痺音波弾パラリス・エコー〉が、コウモリたちの〈超音波弾エコーショット〉を相殺する。


余波でコウモリたちに麻痺毒が付与されたものの、多少行動が鈍る程度だった。


「チッ! やっぱ、相性が悪ぃとイマイチだな」


ぼやきながらも、片っ端から〈粘糸網〉で捕まえ、魔力を吸い取り、短剣で切り裂いていく。


超音波弾エコーショット〉が厄介であるものの、タイミングさえ掴めば相殺は容易だった。



またたく間に巣のコウモリたちを駆逐し終える。

数十匹の吸血コウモリの生気と魔力を吸収に成功した。

負っていた傷は回復し、戦闘後にも関わらず魔力量は戦闘前よりも増えてた。



「あとは出口を探すだけか」


アイガは大きく息を吸うと、魔力を込めて叫んだ。


超音波弾エコーショット〉の派生──〈反響定位エコロケーション〉。


魔力を乗せた超音波が洞窟内へ響き渡った。

音の反響から洞窟内のおおよその構造を把握する。


「あっちか」


アイガは再び歩き出した。


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