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変化の日2


 大学病院では医師の連絡もあってか、少しの待ち時間で診察室に入ることができた。


「あの、息子はどうなってしまったんでしょうか」


 母も不安なのだろう。しかし医師はそこまで深刻な顔はしていない。


「落ち着いてくださいお母さん。息子さんは命にかかわることはないですから。まずは精密検査をしましょうか」


 医師は大丈夫だといいながらも精密検査をするようにいう。これは一体どうなっているんだ。本当に俺の体は問題ないのか。それを調べるための精密検査なのかもしれないが。ここは大人しく精密検査を受けることにする。


「少し暇だな」


 ゲームとかもできなしMRIを撮るときなんかは暇でしょうがない。しかもうるさいし。っ血液検査もした。貧血の検査はしたことがあるので血を抜かれるのは問題ない。それにしても細い腕だなと思う。もう少し筋肉があったと思うんだけどな。


「ん……、トイレ行きたい」


 トイレ! この際に俺はどこに入ればいいのだろうか。いや、どちらでもない選択肢を俺はとろう。あのトイレは誰が使ってもいいトイレだ。つまりは多目的トイレというやつだ。そこに駆け込みズボンを下ろす。下部をちらりと見ると、やはりない。


「……俺のが……」


 ショックという言葉以外に適切な言葉が見つからない。俺はこれからどうなってしまうのだろうか。精密検査や医師の診察だけでは解決できない問題が生じたかもしれない。こうなりたくなかったから家でその確認をしなかったのかもしれない。


「どうしよう……」


 その言葉しか出てこなかった。トイレに一回行くだけでこれだ。ここから先の生活が思いやられる。

 トイレから出たら詳しい結果が出るのを待つ。


 呼ばれたようだ。母も姉も硬い表情をして診察室に中に入っていく。


「それで息子の体はどうなってしまったんでしょうか」


「先ほど申し上げました通り、命にかかわる病気というわけでありません。しかし重大な問題が生じています」


 ああ、なんか嫌な予感がする。その言葉を言わないでくれと心の中で叫んだ。同時に、医師にこれ以上言葉を紡がないでくれと祈った。しかしそんな願いとは裏腹に医師は無情にも口を開き、言葉を発し始めた。


「息子さんの体は、完全に女性のそれとなっています。戻すことはできません」


 ああ、やっぱりかという感想以外ない。ショックを通り越すと人の感情は無になるというが、その意味がよく分かった。何も考えられない。頭の中はまっしろだ。


「それで原因は何なんでしょうか」


「性転換症候群という病気はご存じですか?」


 性転換症候群……聞いたことがある。


「名前だけはどこかで聞いたことがあります」


 確か昔テレビでやっていた気がする。医師はこちらが病気の概要をまったく知らないということがわかると、わかりましたと言い説明を始めた。


「この病気、と言うのは適切でないかもしれませんね。とにかく、この性転換症候群は端的に言うと、性別が完全に変わるというものです。発症確率も極めて低く、国内でも1000人いるかいないかです」


「完全に変わるというのは、その、生殖機能も含めてということでしょうか」


 そこが俺にとっては一番気になることだ。聞きにくいことではあるが、もしなければ、戻れるかもしれない。


「その通りです。ですから、性別適合手術を受けたとしても、花崎君の思うような男性に戻ることは不可能だと思ってください。酷なことかもしれませんが、あえて言葉を濁さないで伝えました。本当のことを知らないで夢や希望を抱かせるのは非常に愚かしいことですから」


「そうですか」


 高校一年生にしてこの身の振り方を真剣に考えないといけない日が来るとは思わなかった。これからはもしかしなくても、人間関係に少なくない影響がある。それ以上は考えられない。


「何かあったら、また来てください。ああ、それからこれはこれから必要な手続きとか書類などが入っていますので読んでおいてください」


 医師は俺に分厚い封筒を渡した。診察はこれで終わり俺は封筒を持って、診察室を後にした。

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