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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第二章
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第九話 謎の男

 目立つ人に注目するのも田舎者っぽくて嫌なのだが、まあ、実際、周りの誰も気にしていないようにすれ違っていく訳だが、しかしその人影、一瞬立ち止まったあと、何故かこちらを見ている気がする。


 どこがどう目立つと言っても色々とある。まず身長がとびきり高い。190センチ近くあるんじゃないだろうか。恰幅もよく、肩幅も広い。細身でも無く太ってもいないが、ガッシリとした体格がうかがえる。


 次には髪が真赤なのだ。それも染めたものでは無く、地毛ではないだろうか。それに髪型も見事な蓬髪ほうはつ。くせ毛では無くピンと張ったストレートだが、一本一本の髪が太く硬すぎてああなったように見える。


 服装は黒ずくめで、何やら金属類がジャラジャラしている。


 それよりなにより一番目立つその原因は、その人の顔、見事な凶相。目じりが切り込みを入れたようにつり上がり、おまけに黒目が異様に小さな三白眼。他の顔の部品もさることながら、その目の凶悪さは比類ない。


 総じて非常に悪そうだ。


 何故そんな人が、一度立ち止まって、逆にこちらに注目しているのか。俺の地元の人では無いだろうし、この街に俺の知り合いなんてもちろんいない。俺の関係者では無いはずだが、今この場で因縁を付けられるような何かが有るとも思えない。


 となると、モレク師匠?


 しかし、俺の後ろに着いて来ているはずのモレク師匠に、振り返って訊ねる気は起きなかった。その人物の反応が、旧知に出会ったという雰囲気ではなく、むしろ未知の存在に今まさに遭遇した時の雰囲気に見えるのだ。


 その凶悪な人相の若者は、まるで恐る恐ると言った足取りで、一歩一歩、俺たちに近づいて来ている。


 周りの人々もようやく注目し始めた。その若人だけでなく俺とモレク師匠にも。今さら言うのもなんだが、どちらかと言えば最初から、その人物よりもモレク師匠の方がほんとは目立っていた。


 それでなくても人種不明な異相なのはモレク師匠もだし、通りがかった男性の半数以上は振り返って見てるし、通りがかる女性の一部もチラホラ気にしてた。


 並んで歩いていても、誰も俺をモレク師匠の連れとは思わないだろうな。


 そんなことを考えている間も無く、凶悪な人相のお兄さんは俺達(というかもう、明らかにモレク師匠)のすぐ近くまで歩み寄っていた。


 と、その人物、急にハッと我に返り再び立ち尽くし、バッチリとモレク師匠を見つめる。なんだろうなあ、とは思ったが、俺は二人の間に割って入り、モレク師匠をかばうように若者の前に立ちはだかる。


 周囲の観衆の間では感嘆の声が上がる。


 明らかにこの場の雰囲気は、悪者と悪者に狙われた女の子とそれを守ろうとする俺、という図式のイメージが出来上がっていた。周囲の観衆の中で一部の男性は、事と次第によっては俺の味方として参戦してくれそうな態度である。


 その周囲の空気を理解したその凶相のお兄さんは、だがしかし、かわいそうなくらいうなだれているのではないだろうか。


 俺以外、周りの誰も気づいて無さそうだが、その凶悪な三白眼は、今この状況で非常な悲しみに陥っている様に感じられる。


 こんなはずじゃ無かったのに何故こんな惨めな出会いに…………、そしてモレク師匠をもう直視できずにつらく打ちひしがれていた。


 まあ、大体分かってしまった。実を言えば俺は、何となくだが始めから分かっていたのだ。この人物が最初に立ち止まった瞬間、俺は正に人が恋に落ちる瞬間を見てしまったのだろう。


 そして、何と声を掛ければいいかと、胸をときめかせながら歩み寄っている間に、気がついたら周り中から勝手に悪役にされていたのだ。


 可哀想過ぎる、さすがにそう思った。で、この時になって俺もようやく当のモレク師匠に振り返る。罪作りなモレク師匠は、「はにゃ?」と言った感じに首を傾げていた。ダメだ、分かってない。


 仕方ない。俺にしてみたら恋敵(?)だが、この場だけは助け舟を出してやるか。つってもなんて声かければいいんだろう。


「あの、良かった一緒にそこまで歩きませんか」


 滅茶っ苦茶ふしぜん、他にどうしようもないし。


「ふにゃ?」


 やっぱり師匠、分かってないし。



 俺たちは三人で城址公園のベンチに腰掛けていた。その辺の飲食店内だと周囲の視線がわずらわしかったのだ。


「俺は稲富岳。この人はモレク師匠」


 通じるかな。


「師匠? あの、モレクさんのお兄さんっすか?」


「いいえ、違います」


 通じなかった。


「ああ、じゃあやっぱりそういう事かよ」


 いいからお前も名乗れよ、と心の中で毒づく俺。そういう事なのに俺がここまで譲歩してやったのに、そういう態度かよ。


「俺は、かい 紅山こうざん。高一っス」


 しかも歳下だったし。紅山君は俺には目も合わせないで、モレク師匠の方をチラチラと眺めていた。ホントはもうずっと師匠の顔を凝視し続けていたそうな未練がましさが、その凶悪な人相からにじみ出ている。


 この男、見た目通りガラが良くない上に、俺以上に人との接し方がなっていなさ過ぎるのは、驚くべきところだ。ひとまず苦境からは救ってやったのだし、これ以上モレク師匠が変な目で迫られないうちに、引き離しておこうと俺は思うに至った。


 ガラの悪さを除けば、至って純朴な青年なのかも知れないが、ガラが悪いのに純朴と言うのがおかしい気もする。


 ただし生まれ持った凶悪な人相のせいで、ガラの悪い態度しかとることが出来ずに育ってきてしまったのかも知れないし、そうそう毛嫌いするのは悪いとも思う。


 あえて俺がそう考えるのは、人の心を読めるモレク師匠が、この若者の事を迷惑がる節がまったく無い為だ。


 むしろ突然起こったこの事態を、面白がっている風ですらる。ひょっとしたら、俺をからかっているんじゃないだろうな、師匠。


 で、なんでコイツ俺に、早くモレクさんと話せるきっかけを作れよ、みたいな目配せでにらんでくるんだよ。お前、ホントに状況分かってんのか。


「ふーん。それで、紅山くん」


 何を話すつもりか、誰の心をどう読んだ結果か、モレク師匠の方から紅山君に話しかけたその時、


「おい、兄貴。また弱い者イジメしてんのかよ」


 また、謎の人物登場だ。

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