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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第二章
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第八話 モレク師匠と一緒

「それで、何で断ったの」


 師匠、嬉しそうだな。だって俺には、師匠がいるし。


「ん、ひひひひひ」


 あ、この人、心が読めるんだった。


「そんな事より師匠、鵬先輩も師匠から魔術を習いたいって言い出したんですけど」


「それは教えてもいいよ。岳くんが気まずく無いならね」


 うっ


「それより鵬君、学業の方はどうなの。勉強の妨げになるようじゃ、教えられないよ」


 鵬先輩の成績、聞いてみたけど予想通りだった。どうしようかな。俺が勉強見てやろうにも、鵬先輩、学年一個上だしな。


「しょうがないなあ。私が鵬君の勉強も見てあげる」


 解決したな。モレク師匠、頭良いし教え上手なのは魔術の講義で納得済みだ。


「それより岳君、今度の日曜日、どこか遊びに行こうよ」


 うん、それはつまりアレだな。アレへの誘いだな。よし、行こう。ぜひ行こう。


「師匠。映画を見に行くとかで、いいですか」


「うん、じゃあそれで。へへへ」


 すまん、美矢真先輩。俺はこの道を選ぶ。鵬先輩もここへ魔術を習いに来たら、俺より先輩の方が気まずいんじゃないだろうか。いや、三人とも居心地つらくなるかも。


 先輩来るのは明日からだが、日曜日の件は内緒にしておこう。ちょっと悪いことしている気分だけど。鵬先輩も居づらさは承知でここへ魔術を習いにくるんだろう。勇者だな。


 翌日。


「そうですか。次の日曜に二人で。へえー」


 何故バレた!


「モレク師匠」


「なんですか、鵬君」


「次の日曜のその次の日曜、稲富さん、借りていいですか」


「う~ん。その日だけだよ」


「はいっ。では修行をお願いします」

 

 俺の人生に何が起きているんだろうか。



 日曜当日、俺はこの日をノープランで迎えた。計画を建てようにも、友人付き合いの無い俺には、一緒に遊ぶ計画と言うのが思いつかなかったのだ。


 せめてモレク師匠の趣味や特技だけでも聞き出したかったのだが、師匠、明らかに自分の趣味嗜好を意識的に隠しているな。だから今日は、映画だけ見て後の予定はその場で、話しの流れで決めることにした。


 映画館だけなら地元の駅前にもあるのだが、そこだとホントに映画見ただけで終わり、その後することが見当たらなくなりそうなので、隣まちの県庁所在市、この県内では一番都会的な街まで繰り出すことに。


 駅前まで自転車で行って駐輪場に預けた後、電車に乗るルートより、最寄りのバス停から直で目的地まで一本で行けるバスルートを選ぶ。


 その地元のバス停をモレク師匠との合流場所に設定していた。そして今、俺はそのバス停で師匠を待っている。


 今日の俺は、頑張り過ぎない服装と言うコンセプトで着る物を選び、待ち合わせ時間の三十分前にここへ来ていた。


 そしてバス到着十分前に、ついに師匠到来。俺の隣の歩道上に突然魔法陣が浮かび上がり、そいつが発光するや立体映像のように師匠の姿が映し出され、そのまま実体化して現れた。


「やあ、待たせたね」


 この魔術を使えば、直接映画館まで行けるだろうな。


「まあ、まあ」


 うん、師匠、可愛いからいいか。


「うしししし」


 あ、また心を読まれた。


師匠は山の中の滝で野宿しているので、着の身着のままなのかと思っていたが、よそ行きらしい服装も持ち合わせていた様だ。これは師匠に読まれないよう、言語化しないで思考した。


 今日の交通費も映画料金も全額、俺が負担する心づもりだが、それとは別に師匠も金銭を所持している事を知り、師匠の為に安堵を覚える。


 師匠がホントにあの山の中で寝泊まりしているのか、食事や食費はどうなっているのか等、気になっていることは多々あったが、経典にその名を留める魔術王、ゲヘナの創造主ともなれば、俺如きの思いも及ばぬ生活手段があるに違いない。


 そうだと思いたい。


 やがて、時間通りにバスが来る。特に会話も無く、隣同士の席に座る。


 バスに揺られながら、道々、通りがかった宇津ノ谷峠や手越原などで、十団子の由来と鬼退治伝説や、南北朝時代の手越原合戦などなど、地元の人でも知らないんじゃないか、と思える話をモレク師匠から教わった。


 もともと興味のある様な話題では無かったのだが、実際に見て来た者にしか言えないであろう臨場感に、むしろビビった。


 安倍川橋を渡り、市街地へと入って行く。地方都市にしては、あるいは地方都市ならではの賑わいが、バスの車窓越しにも届いて来る。


 駅前も通り越し、バスターミナルビルに到着。ここはショッピングセンターにもなっていて、このビルの九階が映画館だ。


 上映時間まで余裕を見て動いていたので、中々くつろぎながら入館できた。モレク師匠は意外にも、かなり場慣れした様子でついて来てくれた。


 もしかしたら師匠、俺と出会う以前、一人でもよくここへ来たことがあったのでは…………。いや、もしかしたらその頃、他の男と一緒に来ていたのでは――――っ


 今のモレク師匠のこともほとんど分からない状態だが、俺と出会う以前の師匠がどこで何をしていたのか、それこそ俺には全く知りようが無い。それもそうだが、そもそも俺はモレク師匠の何だ、弟子だ、それだけだ。


 まあいいさ。


 今の俺がモレク師匠の何だろうと、これから、この先、師匠が俺のことをどう思ってくれるかは、これからの俺の心懸け次第だろ。


 ただの弟子と言うだけじゃないと思われたいなら、そうなれるように俺が、これから努力していけばいいだけの話さ。


 肚が座った辺りで映画を見終わり、モレク師匠とこの後どうするか相談する。昼までまだ幾らか、時間に余裕があった。昼食をとる前に、どこかまだ寄れそうな具合だ。


 師匠の意見で、どこかに寄り、今見た映画の感想会でも開こうか、という事に決まった。


 一旦、外に出て歩き始める。バスと映画館と、座っている時間が長かったせいで、体を動かすのか少しばかり心地いい。ゴールデンウィークまでまだ少しばかりあるが、春先の晴天の日曜日という事もあり、そこそこの人出だ。


 通り沿いに歩きながら、人にぶつからないように少し先を見ながら歩く。すると、やけに目立つ人影が見えた。

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