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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第四章
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第二十九話 高天神城攻略戦

 五人で乗り込んで出発を待つ。割りと空いていたので座席を選び、バス代金を両替している間にバスは出発する。目的地までの所要時間は、事前に調べたところによると、二十数分程度だそうだ。


 始めの十分こそ、駅前の市街地然とした街並みが見えていたが、そこから先はやはりのどかな田園風景に変わってしまう。


「戦国時代にはこんな土地でも、必死で奪い合っていたんですね」


 急に切ないことを言う鵬先輩。


「あの頃は土地が生産力の象徴だからね。あ、でも、今でも、土地は掛け替えのない貴重な物には違いないよな。人から奪う事こそ無くなったけど」


 俺の言うことも幾分、切ない。


「土地の取り合いはゼロサムゲームだしね」


 何故か世事に詳しいモレク師匠。


「クラウゼヴィッツの戦争論ですね」


 独楽子さん⁉


「あれ?」


 ん? どうした、白馬さん。


「いえ、何だか不審な車が背後から三台…………」


 ホントだ、黒塗りの上に窓にはミラーコーティングで車内がうかがえない、不気味な車が。と、見る見るうちに三台の車は俺たちの乗るバスに迫って来て、一台はこのバスを追い抜いて前方を塞ぎ、もう一台は追い越しを掛ける様に右車線を塞ぎ、最後の一台は後ろにぴったりと張り付いて、完全にバスを包囲する。


「まずいわ、あれは我が鵬家に代々敵対して来た、宿縁の集団。こんな時に現れるなんて」


 そうなんだ。だがしかし、このバスの運転手も只者では無かった。三方を囲んだ黒塗りどもを気にすることも無く、追突すら怖れず平気で次のバス停に停車。偶然その小貫停留所で待っていた台湾の観光客が、全員、仙道を極めた方術使いだったため、助力を願い、三十秒で車ごと蹴散らし、無事にバスは運行を再開する。


 こうして俺たちは、トラブルに巻き込まれるようなことも無く、目的地・高天神城を目指す土方バス停で下車した。ここからもう、西の空には高天神城の山容が眺められる。


 が、ここから見た感じ、アレが城跡だと見受けられる手掛かりは無い。ただの、木々に被われた低い岡、そんな印象だ。住宅地を潜り、茶畑の平原を真っ直ぐに突っ切る壮大な農道を、淡々と歩く。


 確かに高天神城の山容より、この延々と広がる茶畑の方が壮大だ。やがて農道は岡に突き当たる。ここを左に折れればすぐに追手門だったのだが、誤って右折してしまう。


 H字型の山城の左半分を回り込む様に、当初の予定の反対側、搦め手門に向かってしまった。そんなこんなで高天神城搦め手門に到着。天気は快晴だ。


 別に、地籍図や地形図を使って、城跡図や縄張り図を作成しようと言う野望がある訳でも無く、我々の目的は城跡歩き、ある種のハイキングだ。景色を眺め、自然を感じ、楽しみながら歩くだけ。


 むしろ追手門から登り始めるより、この搦め手門から登る方が、正解だったかも知れない。駐車場に挟まれた舗装道をしばらく進むと、やがていかにもな林の中へと続く。山の北側から南へ向かって上るので、日差しは山にさえぎられ、日陰の中に入る。


 それでなかったとしても、日差しは結局、木々の枝々にさえぎられ、日陰になったかも知れない。目の前と右手に、切り立った断崖が目に留まる。


「なるほど、この石段を行く以外に登る手段は無い訳ですね」


 鵬先輩、また敬語に戻ってしまった。


「右手の崖の上は西の丸ですね。今は高天神神社が建っているはずです」


 独楽子さんが看板の案内図を元に解説。


「この石段を上った先が、この山の中間分岐点になるようね」


 独楽子さんの解説を白馬さんが引き継ぐ。


「まずはそこまで行ったら、右手の神社をお参りして、そこから引き返して本丸に行き、また下って追手門から帰ろうか」


 俺の提案に反対意見無し。と言うより自然に歩くなら、他に選択肢もなさそうだ。


 この石段、予想外にきつかった。そう思うのも相変わらず俺だけ。みんなは俺に会わせる為に、こっそり足並みを遅らせてくれているので、かえってつらいとは言い出しにくくなってしまった。


 そうは言っても弱音は吐けない。根性を見せろ。何とか登り切った。


「岳くん、お疲れ様」


 俺がつらかったの、バレバレかよ。


「ほら、私改造人間だし」

「私も半吸血鬼ですし」

「私も鬼ですよ」

「ついてこれるだけ、岳くん凄いよ」


「俺もいつか人間辞めようかな」


「「「「それはダメだよ」」」」


「は、はい」


 それからまず右手に向かう。搦め手門から見て右手。西の尾根だ。彼方此方に城の遺構とそれを示した立札がある。人間生き残るためには、手間を惜しまないものだ。


 神社に着いた。狛犬が牛だった。みんなは賽銭、縁起がいいと言う五円玉を投じていたが、俺は細かいヤツが無かったので、五百円を投じた。


 特に願いたいことも無かったので、何も考えずに手だけを合わせた。その時の俺の心を読んだと思われるモレク師匠が、驚いた顔をしていた。


 何ゆえに?


 他のみんなは、とても真剣に願をかけていた。鬼気迫るものが在る。執念を感じた。一体なにをそんなに本気で願っているのか、まあ、訊けるようなことじゃ無いか。


 神社を下り、本丸を目指す。

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