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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第四章
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第二十八話 高天神城攻略

 集合場所は、地元駅前。独楽子さんは隣町から一旦この駅で降りて来るわけだ。


 もっとも、俺が自転車でそこにたどり着いた時にはもう、他のメンバーは全員集合していた。独楽子さんはもちろん、モレク師匠もだ。


 みんな、楽しみにしていたという事か。だが、本当に城跡を見てみんな楽しめるのだろうか。


 モレク師匠はリアルタイムの歴史の知識を持っているとして、鵬先輩が意外と戦国時代に興味がある他は、独楽子さんと白馬さんは城跡なんかに、関心があるんだろうか。


「高天神城の城主・岡部元信と言えば、なかなか名の知れた名将だよね」


 白馬さん?


「それ、岡部元信を討ち取ったのがあの大久保彦左衛門だから、自分の手柄を誇張するために、岡部元信を持ち上げまくったって側面もあるそうですよ」


 独楽子さん!


「三河より東国にて岡部元信の名を知らぬ者無し。『三河物語』ね」


 鵬先輩は歴史ゲームから入ったのだろうけど、二人は一体⁉


「歴史の闇に沈んだ小笠原氏助の悲劇」

 

 モレク師匠はネガティブな歴史観に興味があるのか。まずは地元の駅から掛川駅まで向かう。そこからはバス。土方バス停で降りて西に向かい追手門から入る。


 文章にすれば三行だが、実際はその間、中々の冒険だった。みんな何もしなくても、とにかく目立つ、人目を惹くのだ。


 モレク師匠は日本人に見えないくらいだし、鵬先輩も今でも見た目だけは深窓の令嬢と言った風情、独楽子さんも相当な容姿だからなあ。白馬さんは普通の容姿(そこそこかわいい)だが、見劣りするようなことも無く好く馴染んている。


 つまり、見劣りしているのは俺だけってことだよ。別に気にしてないけど。


 それのどこが冒険だって。

 そこからが、大変だったんだよ。


 鵬家にまつわる因縁の集団や、鬼退治の宿命を背負った妖怪ハンター、壊滅したはずの組織の残党などと言った連中による、細かいトラブルはどうでもいいとして、俺だけが何だか周囲から浮いていた気がする。あか抜けないせいで目立つのってホント辛いよな。


 ちょっかいを掛けて来た連中は、周りの迷惑になる訳には行かないので、徹底的に懲らしめてやった。あれだけ懲らしめれば、後でヤバい事件に巻き込まれることも無いだろう。


 

 地元駅で電車を待つ時間は、非常に短く感じた。鵬先輩と白馬さんは、昨日知り合って殺し合いをした仲なので、もう普通に打ち解け合っている。


「吸血鬼ハーフって昼間出歩いても問題無いの?」


「夜の方が調子いいけど、夜は無理して寝てるわ。明け方が一番つらいのだけど、無理してでも起きるわね。皆勤賞が懸かっているから」


 鵬先輩、白馬さんには敬語使わないんだ。ってあれが素の喋り方か。もともと性格も似ているし、ウマが合うんだろ。


「楷独楽子さん、だっけ? あなたもただの人間じゃ無さそうね」

 

 白馬さんは独楽子さんにも話しかけていた。


「私は鬼の一族ですけど、角は隠せるんですよ」


「私は改造人間。と言っても主に身体強化されてるだけだけど、実は特殊能力もあるの」


「へえ、どんな能力ですか」


「ふふん、稲富くん、興味ある?」


「普通の話題にしないか?」


 と、おおむねこんな会話をして電車を待った。


 ちなみに電車が着く五分前に「キーーーッ」と叫ぶ悪の組織の残党の戦闘員に囲まれたが、偶然となりに居合わせた中国の団体観光客がカンフーマスター達だったので加勢してもらい、三分で片が付いたので、電車には間に合った。


 ゴールデンウィークが明けたとはいえ日曜日、そこそこ車内は混み合っている。空席が無いでもないが五人そろっては座れないので、皆で立って乗ることにする。車窓からの景色は、島田・金谷辺りまでは民家が映っていたが、金谷駅を越え、トンネルを出ると、全くの田園風景に替わる。


 田園風景と言っても洒落た物ではなく、本当に『田』と『園』しかない風景だ。


「のどかだねえ、岳くん」


「私の住んでる村も、大体こんな景色なんですけど。私の部屋の窓から見える景色、山と茶畑と水田だけですよ」


「でも独楽子さんの住んでる所、同じ市内にすぐ都会があるんだからいいじゃないか」


「バスの本数から言えば、私の村の方が市街へ出る為の交通機関の利便性、低いんじゃないでしょうか」


「私は農業に従事する気こそ無いけど、山と茶畑と水田が目の前にある暮らしって悪くないって思うけど。出来ればいずれ、地元の田舎の方、瀬戸谷地区で暮らしたいな」


「白馬さん。田舎で暮らしたい女子高生って珍しいと思うよ」

 

 でも、悪くないかも。


「(勝機っ)」


「(まずいわ。田舎暮らし好き女子高生への、稲富さんの好感度が意外と高い)」


 そんな風に田舎暮らしの得失について話していたら、鬼の一族を付け狙う妖怪ハンターが、俺たちの車両に結界を張って来たが、偶然隣の車両に居合わせた韓国の団体客が借力使いだったので助勢を請い、掛川駅に着く間に撃退した。


 電車を降りてからは、掛川駅の北口に向かい、三番バス乗り場のベンチに座りバスを待つ。バスの発車時刻まで三十分ほどの間があった。


「日本の駅前の景色って、日本中どこの駅前に行っても、同じような景色よね」


 鵬先輩、敬語じゃ無くなってきたのは、いい傾向だと思いますよ。モレク師匠は例外としても、俺や白馬さんより一学年上の先輩なんだから、無理に丁寧に話さなくても。


「確かに駅前には地域性、その街の特色、個性が欲しいよね」

 

 と、白馬さん。


「でも、使いやすさを追求した結果、形態が共通の様式に統一されたという事だろうし、景観の美しさを実利的な住みやすさより優先すると、暮らしにくくなることもあるよ」


「さすがは師匠ですね」

 

 あ、鵬先輩、敬語に戻ってしまった。


「だから、使いやすさ、住みやすさを変えずに損なうことなく、景観の印象を個性化できればいいんだけどね」


 なるほど。


「けど、駅舎や駅ビルだけを、有名な建築家にデザインさせて評判呼ぼうってやり方は、違う気がするよね」


 山の中で、独楽子さんどころじゃない野生の暮らしをしているはずの師匠だが、変なトコだけ世事に詳しい。やがて、時刻表の発着時刻より早くバスが到着する。少しばかりここで停車するようだ。

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