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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第四章
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第二十七話 自宅から希望

呼び方  モレク=岳くん

    鵬美矢真=稲富さん

    楷独楽子=岳さん

    喜多白馬=稲富くん

 母が驚く顔を見たのは、俺が生後三か月で二足歩行を行った時以来だ。


 あの時の母の驚いた顔と言ったら。ぷぷ、ぷぷぷ。


「岳君の部屋、ビックリするくらい何も無いね」

 師匠の驚く顔まで見れたよ。


「マンガが一冊も無い。と言うか、本棚がそもそもない」


「机とベッド以外、何も無い。机の上から三段目の引き出しには、何が入っているのかなー」


「「「参考書と問題集だけ―――」」」


「これは、図書館から借りてきた本? 吉川〇文館と岩〇文庫、石母〇正………」


 何がおかしいんだろ?


「悪いけど、買い置きのジュースや菓子類も無いから」


「稲富くんが、友達出来ない訳が分かったわ」


「マジですか! なぜなんですかっ」


「稲富さんは今のままでいてください」


「ついに理想の男性に会えました」


「岳くん、無理して周りから悪影響受けたらだめだよ。岳君は変わらないでね」


 温室でただの雑草を丁寧に育てている、おかしな園芸家の様な目で俺を見て来る三人。やはりおかしいのは俺では無くてこの人達だ。


「部屋に来たら、適当にその辺にある物で岳君をからかおうと思ってたけど、予想以上に何も無かったね」


 師匠にからかわれるのは嫌いじゃ無いんだが。


「それと岳くん。今、独楽子さんが全力でここに向かってるから」


 そうなるだろうと思っていたよ。


「稲富さん、何も無いとは言え、この部屋、やけに広いですね」


「何畳くらいあるのかな、稲富くん」


「十畳」


「二人で一緒に生活するくらい、出来そうだね。岳くん」


「じゃあ、今日からよろしくお願いします。稲富さん」


「いえ、そんなアホ二人は置いといて、真面目に考えよう稲富くん。この部屋もう少し、何か色々置いた方がいいよ」


「急にまともな振りしながら、稲富さんのベッドに潜り込んでんじゃないわよ」


「アンタこそ、稲富くんの机に頬ずりしてんじゃないわよ」


「ついでにモレク師匠も俺の部屋の床で、五体投地しないでください」


「岳くん、ホントにベッドの下にまで何も隠してないんだね」


「稲富さん、何か趣味の一つでも始めたらどうですか」


「じゃあ、私と一緒にガ〇プラ作ろうよ、稲富くん」


「それより、この部屋にテレビとゲーム機おいて、朝から晩までプ〇ステ三昧しましょう。家から私の持ってきますから」


 鵬先輩が今まで学業不振だった理由が分かりました。それとガ〇プラ好きの女子高生って――――悪くないかも。


「(勝機っ)」


「(まずいわ、ゲーム好き女子高生より、ガ〇プラ好き女子高生の方が、稲富さんの好感度が高いっ)」


「岳君の場合、趣味は勉強でいいんじゃないかな」


「「それよっ。今日から一緒に勉強しましょう」」


 いま気がついたが、鵬先輩と白馬さんは性格がよく似ている。


「稲富くん、もう一台学習机を置いて、邪魔にならないトコにガ〇プラ飾りましょう」


「私だって、ガ〇ダム系のゲームも押さえてあるわ」


「いや、おれ、ガ〇ダムが好きな訳じゃあ、どちらかと言えば城郭プラモの方が」


「「((て、手強い))」」


「岳くん、今度、地元の史跡巡り、一緒に行こうか」


「あ、いいですね。朝日山城とか花倉城とかですか」


「「((その手があったかーーーっ))」」


「いっそ、地元から離れて一日かけて、高天神城まで遠出しない?」


「じゃあ、中間テストが終わったら行きましょうか」


 バンッ。


「ちょっと待ったーーー。それ、私も行きます。岳さん」


 独楽子さん、到着。


「まだライバルが増えるの⁉」


「岳さん、私も行きます。ついて行きます。どこまでも一緒です」


「もちろん、私も行くよ。稲富さん」


「稲富くん、私も行きたいです」


 となると行くのはモレク師匠、鵬美矢真先輩、楷独楽子さん、喜多白馬さんと俺の五人か。人間を辞めた魔術師、吸血鬼ハーフ、鬼女、改造人間。一般人は俺だけだ。


 この日の目的が分からない集会は、次の集会の目的が決まったことで、閉幕となった。


 その日の夕食時、母が気味の悪いものを見る目で俺を見ていたが、気持ちは理解できた。翌朝、新聞の一面は、悪の秘密組織が何者かに壊滅させられたと、大々的に報じていた。珍しいこともあるもんだ、と思ったが、心当たりがあるので一言誉めておこうと決めた。


 それからまた、放課後、モレク師匠の下へ通う習慣を再開した。俺は自然と元の生活習慣へ戻って行った。あの犬と出会う前の日常へと、だ。


 今はまだ、何も考えられない。何も決められない。それをするには、もう少し時間をください。


 誰に頼んでいるのだろう。

 誰かに頼みたかったのだ。


 そうしている間に、中間試験の当日を迎えた。拍子抜けするほど余裕で終わった。手に汗握る心理描写を挿み込む余地のない状況だった。


 スラスラと解いて、サッサと提出、それだけだった。むしろ、全教科提出後の方が、不安になったくらいだ。簡単に答えを書いてしまったが、これがもしほとんど間違いだったらどうしよう、と、変な心配が消えなかった。


 まあ、終わった後だ、気持ちを切り替えよう。ただ最近、俺の生活に大きな変化が生じている。と言っても何のことは無い。


 休み時間の度に、隣の教室から喜多白馬さんが俺の席へとやって来て、話しかけて来るだけだ。いい変化なのか、悪い変化なのか知らないが、別に迷惑でも無いし、悪い気もしないので、普通に会話して対応している。


 クラスの連中は、単に友人になったのだろう、と、特に気にする人もいない。俺の生活の中でこそ、ちょっとした変化と呼べるが、学校全体の人間関係の流動性を思えば、何の変哲もないただの日常事だ。


 そうしてテスト明けから最初の日曜、高天神城への史跡探訪を迎える。

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