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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第四章
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第二十六話 校内の死闘

「鵬先輩、いまの人まだ生きてますか、アレ?」


「稲富さん」


 教室の中には先輩以外、誰もいなかった。静かな放課後の教室。そこに争った形跡はない。と、その時、


「はっ」


 センパイ、突然その場から飛び出し、回転しながら横っ飛び。それと同時に今までいた座席と机が吹っ飛ぶ。俺には何が起きたのか理解できない。


「渡り廊下でつながった対面の校舎の窓から、何者かがライフル銃で狙撃したわ」


 そうなんだ。


「稲富さんは隠れていて」


 そう言い残すや否や、先輩は助走をつけて窓から飛び出し、向かいの校舎の中へと飛び込む。それじゃ狙撃手の格好の的だと思ったが、先輩は空中で身をひねり、弾丸を華麗にかわしていた。


 向かいの校舎に先輩が乗り込んだ後も、銃声は止まない。窓ガラスや壁が砕け散る音も聞こえてくる。もう帰ろうか、とも思ったが、こうなった原因は俺かも知れない。


 思い直して俺も向かいの校舎へと廊下を駆ける。教室の壁と黒板をぶち抜いて戦い舞う、二人の少女。


「先輩を消死て、稲富さんは私がもらうわ」


「なに! ふっ、アナタに出来るかしら」


 白馬さんは化物みたいにデカい拳銃を、両手で二挺、撃ちまくっていた。


「まさかツェリザカの二丁拳銃とわね」


「先輩こそ、どうして銃弾がかわせるのよ」


 机とイスと銃弾と二人の少女が、縦横無尽に飛び交う教室。おそらく、一発や二発撃たれても死なない先輩だが、未だ一発もかすりすらしていない。


 白馬さんも二丁拳銃を交互にリロードしながら、決して先輩をその間合いまで近寄らせない。二人がぶち抜いた壁と黒板はすでに三教室分。その中を砕け散った机とイスの破片や残骸が、暴風雨で渦巻く雨水のように散っていく。


「あの人は私がもらうわ」


「稲富さんは渡さない」


「「稲富さん、勝った方とつき合ってくれるんですね」」


「俺はモレク師匠が好きだ」


 一瞬、空間中の物体の運動が停止する。そして次の瞬間、再開。


「モレクって誰よ」


「アナタの知ったことではないわ」


「先輩とつき合ってるんじゃないじゃない」


「いずれは私のモノになるのよ」


「やあ岳くん。君が会いに来てくれないから、私の方から会いに来たよ」


「師匠、いいタイミングで来てくれました。二人を止めて」


「え? どういう状況?」


「その女が稲富さんをたぶらかしたのね」


「ああ、そういう状況。しょうがないなあ、岳君は私のモノだよ」


 そういって師匠は俺に顔を近づけ、その、まままさかのキスシーン。思わずジタバタと焦る俺。だがすぐに気を取り直し、自分の方から師匠を強く抱き寄せる。


「うぅ」


 ガクっと、師匠、、脱力。


「勝った」


「なにしてんだぁーーー」


 白馬、襲いかかる。だが、師匠のクロスカウンターでのされる白馬。勝者、モレク。




「分かってるよ。大口径ライフルでの至近距離からの対人狙撃は、国際条約違反だって言いたいんでしょ」


「いえ、全然違います」


 俺と師匠と先輩の三人に囲まれ、その中心で正座させられている喜多白馬。反省の気配は無い。


「今日のところは負けをゆずるわ」


 反省の気配は無い。


「可哀想な稲富くん。こんなどうかしている人たちに囲われているなんて。すぐに私が解放してあげるからね」


 もしかして俺だけどうかしているのかと思わされかかっていたが、どうやら俺だけがマトモだったと思っていていいらしい。


「どうせこの二人、痛い設定とか自分で盛りまくっている厨二くさい連中なんでしょ」


 ゲヘナの創造主・魔術王モレク。ドラキュラの娘・ダンピール鵬美矢真。反論できない。


「アナタだってどうせ、どこかの組織に身体強化された改造人間だとかいうんでしょ」


「何故それをっ」


 おまえもか。


「おれ、もう帰っていいかな」


「岳くん、誰の為にこんなことしてるか、分かっているかな」


 この状況で、俺にどんな利得があると言うんだろう。


「それよりこの砕け散った教室たち、どう後始末すりゃいいんだ。盗んだバイクで走りたかったじゃ、許してもらえそうにないけど」


「そこが、我が鵬家クオリティです。今晩中に片付けときます」


 あの家の力を初めて実感した。


「まあ、稲富さんの為ならそれくらい、安い御用です」


 え、この惨状って俺の責任なの?


「分かった、私も負けられない。今晩中に組織を抜ける」


「「「へ~~」」」


「え、ちょっと、なに。これって結構、大変な事なんだよ」


「それ自分の都合だろ。俺にメリットないし」


「うっ、じゃあ分かった。今晩中に私の手で組織を潰す」


 やはり俺にメリットは無かったが、それくらい覚悟を見せたいという事なのだろう。明日、生きていたら一言誉めてやろう。


「それじゃ、俺、帰らせてもらうよ」


「うん、そうだね」




「へー、ここが岳君の家かあ」


 なぜ、ついて来た。


「稲富さんが高校卒業したら私、しばらくここで一緒に暮らすことになるのね」


 いや鵬先輩、おれ、卒業したらこの街出て行くつもりだから。いや、いや、俺が否定したいのはそこでは無くてですね、


「もう、ご両親に挨拶なんて、稲富くん、気が早いんだから」


 アンタが勝手について来たんだろ、喜多白馬っ。


「「「では、おじゃまします」」」


 まて、勝手に上がるな。

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