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モレクの後継者  作者: 雨白 滝春
第二章
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第十四話 続・推理

 今度の事件、まだ独楽子さんは、紅山くんたちの対立グループの少年たちが重傷を負ったとしか知らないはずだったが、もしかしたら、兄や五人組の仕業にされるんじゃないかと、ずい分、動揺していたらしい。


 言いにくい話だったが言わずに済まそうとするのは卑怯と思い、可愛そうだがはっきりと伝えさせてもらった。


 犯人は同じ鬼の誰か、そしてそいつは、紅山くんか五人組の誰かに、冤罪を着せようとしていると。


 まずかったかなと、後悔を覚えた。それを告げられた独楽子さんの動揺は、切なくなるほど激しいものだったからだ。


 だが真犯人を泳がせつつ監視するには、なまじっか冷静に下手な演技をするより、ハッキリと動揺をさらけ出しつつうかがわせた方が、動きを探りやすいのも事実だ。


 本当に可哀想な事をさせているとは分かっているが、事は急がなくてはならない。


 重傷中の被害者から供述を取られるより先に、真犯人を特定して、何としても自首させなくてはならないのだ。


 この時点で俺は、どうも犯人の行動は周到に時間を掛けて緻密に練られた計画的な物では無く、俺たちがあの里に来てからの二日間で、短絡的に場当り的に引き起こしてしまった事件なのではないかと、思えて来ていた。


結局、罪を着せた所で、証拠不十分になり冤罪と分かってしまい、ただその結果、今まで通りの学生生活が壊されるだけという、余りにお粗末な犯行だからだ。


 師匠の言う、まだ何か起こす気かも知れないと言うのも、その穴を埋めるための行き当たりばったりを仕出かすかもしれない、と言う所から来る予測では無いだろうか。


 今現在、俺と独楽子さんはスマホを介して通話中だが、そうだな、俺と師匠も知らないだろうあの里の人間関係に通じている独楽子さんとも、真犯人の推測について話し合ってみるか。


「ごめん、独楽子さん。君は誰も疑いたくは無いだろうけど」


「いえ、大丈夫です。私こそ真相を一刻も早く、明らかにしたいんです」


「うん。がんばろう」


「それで、誰かに罪を被せたいための犯行だとしたら、その標的は誰か、ですね」


「たぶんそれは、紅山くんだと思う」


「………何故ですか」


「この事件の容疑者候補として真っ先に挙げられる可能性が高いのは、被害者の対立グループのリーダーである紅山くんだ。別の人を陥れようとしているのに、紅山くんが一番に疑われる状況を作るとは、考え難いだろう」


「………そうですね」


「だから同時に、紅山くん自身が真犯人では無いとも言えるしね」


「そうですね!」


「次に、狙いが紅山くんだとしたら、犯人の動機は何か、だ」


「動機としてありがちな物と言ったら、復讐か、妬みですね」


「独楽子さん、無理に言わなくてもいいから、何か心当たりは?」


「なにも思い当たりません。私たちの村で、兄にそんな感情を懐いている人がいたなんて、私には考えられないよ」


 表には浮かび上がらない、深い、とても深い恨み、妬み。


 師匠の言う根深い、強い動機。それは本当に誰にも気づかれない程、奥底に隠れ潜むような、見えない感情なのだろうか。ここは一つ、別の見地から犯人を特定してみようと俺は思った。


 ズバリ、師匠はどうやって犯人を予測しているのか、だ。


 あの里の住人とほとんど接点の無い、紅山くん以外、五人組とも関わりの少なかった師匠に、どうやら真犯人の推定が出来ているらしい事。


 それ自体が、一つの手掛かりになっているのではないか。


 その犯人の動機と言うのは、見えない闇のベールに覆われているのではなく、誰もが見落とす程、むき出しの、皆が気にも留めず見逃して素通りしてしまう程、あらわに露呈された、有っても不自然では無い、在り来たりな感情、動機。


 例えば俺ですら、紅山くんに対して懐くような、恨みか妬み。


 俺はその時、初めて目の前にぶら下がっていながら気づきもしなかった、紅山くんに対して懐いた、一つの感情に気づかされた。


 そしてその感情を、あの村の中で一番強く抱えそうな人物は、俺はそれを独楽子さんに告げてしまった。




 俺はダッシュで家を飛び出し、自転車にまたがるや、師匠の居る山中めざして全力で駆けだした。


「直に会って、話してくる」


 そう言って、俺が引き止める暇もなく、独楽子さんは通話を切ってしまった。掛け直しても返事は無い。意を決するや即座に、俺は今こうして白藤の滝を目指している。


 すでに日は沈んでいた。街灯もまばらな夕闇の田舎道を、全力疾走で駆け抜ける。もし歩行者がいたら高確率で跳ね飛ばしていたかもしれない。


 滝への登り口まで十五分。新記録だ。ここまで誰も怪我をさせずに来れた。幸運に見放されてはいない。良し。


 ペンライト一本を頼りに、本当に何も見えない暗闇の山道を駆け登る。足を滑らせかけ、つまずきかけ、谷へと転落しかけ、そうならなかったのは、やはり幸運に見放されてはいないからだ。良し。


 五分で山道を登り切り、農道をまたぎ、滝へと駆けつけ、


「モレク師匠、独楽子さんの下に送ってくださいっ――――」


 どこに居るか見当がつかなかったので、取りあえず叫んでみた。

 

「了解っ」


 モレク師匠の声。だが、どこだ。と、滝の上から何かが壁面に沿って飛び降りて来た。驚いたと言うか呆れた。もちろん、俺の愛しのモレク師匠だ。


「居場所の分からない相手の下にも、送り届けられますか」


「初歩的な質問だ。出来るよ。ってより、ほとんどの場合がそうだね」


 暗くて師匠の顔色はうかがえない。事情も訊ねて来ないが、独楽子さんに危険が迫っているのは、伝わっているだろう。


 俺が軽率にも、真犯人と推測した人物の名前を独楽子さんに教えたために、独楽子さんはそいつに直に尋ねに行ってしまったのだ。


 俺の予想が外れていれば何も問題は無いが、もし彼が本当に犯人だったら。


 独楽子さんにしてみれば、生まれた時から同じ村で暮らして来た、家族にも近い間柄にいる相手ではある。自分から問い質しに行った気持ちも、分からないではない。


 が、今の状況は、今のその人物は、もはやタガが外れてしまっている。


 独楽子さんの行動に対してどんなリアクションを返すか、見当もつかない。独楽子さんから連絡が途絶えてから、三十分近くが経っている。


 今すぐ独楽子さんの下に送られたとして、向こうはどんな状況になっているか。武器の一つも持って行こうか。


「岳くん、男ならその身一つで女の子を守らないでどうするのかな」


 その通りです、師匠。相変わらず心を読みますね。岩場を下りて、平らな足元の農道の上に立つ。そこで師匠は地面を指でなぞり、魔法陣を描き出していく。


 師匠が指でなぞった後には、光跡が刻まれ、有機的とも幾何学的ともいえる紋様を織りなしていく。光で描き出された魔法陣の中心に、師匠に言われるがまま、俺は足を踏み入れそこに立つ。


 と、すぐに自分の体が透けて見える。半透明になった辺りで気がつくが、周囲の景色も薄らいでいく。やがて周りの景色は完全な闇へと変わる。


 が、どうやらそれは魔術その物のせいではなく、本当に俺は闇の中の場所に、いつの間にか転送されていた為のようだ。肌に触る空気の質感や気温の違い、木屑や金属の臭いなどから、それが分かる。


 それで俺は今、どこにいるのだろう。


「うわっ」

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