OIS-006「身近にある物の価値」
人間、大体のことには慣れていく物だ。
そのことを今、俺は痛感している。
「駄目、かな?」
「やめとけ。特殊メイク、実写風ファンタジーCG練習中とか理由をつけても、危ないぞ」
実際に勧誘とか来たらどうするんだと告げれば、うっと押し黙った。
誰かに言いたい気持ちは、よくわかる。
俺たちだけの秘密っていうのも、段々特別感が薄れるもんだからな。
だからと言って、持ち込めたデジカメで撮影後、ネットに持ち出すのはやめておいた方がいいだろうと思う。
「それより、村の近くに出たのか、こんなのが」
「うん。街道にこういうのが出てきて、困ってたところを冒険者?が退治したの。物陰から、ズームでなんとか撮影したんだー」
そりゃあ、目の前でってわけにもいかないか。
第一、近い距離だとグロいってもんじゃないぞ、これ。
最大ズームの距離だから、CGかな?ぐらいになってるけど……。
「あっちの世界に、ゲームみたいに強くなる方法があるといいんだけどな。試すのは……怖いな」
「うん。遠くからだったけど、聞いたことの無い声だった。犬ぐらいあるから、どうにかするのもちょっと……」
なんだかんだ、佑美も俺も、生きた状態から捌いて肉をなんて経験の少ない現代人だ。
敢えて言うなら、魚ぐらいな物だろう。
その状態で、怪物とはいえ生き物を殺すことが簡単にできるはずもない。
俺は……佑美のためなら、頑張れるかもしれないが。
「それこそ、無理してもしょうがないな。魔法?っていうのの訓練は順調、か。こっちはこっちで恐ろしい話だが」
「なんで? 傷も治るし、植物も良く育つよ?」
佑美が、向こうで得た力の1つ、癒しの力。
咄嗟に畑の野菜を癒したことからわかったらしいけど……果たして、どのパターンかまだわからないのだ。
「影響がない奴ならいいんだけどな。一番楽なのは、佑美の魔力的な奴で治すパターン。これとは別に相手の生命力というのか、そのあたりを向上させるやつが怖い。下手に人間に使うと、そこだけ歳をとるかもしれない」
「ぴかって光って、治るからいいと思うんだけど……」
「単純に言うと、相手の時間を早回ししてる奴だと、使い過ぎに注意が必要じゃないかな。植物だと、畑の栄養をすごい吸い取るだろうし、人間相手だとお腹がすごい空くとかになると思う。後、病気の相手に使うと、病気の元も元気になって症状が悪化するかもしれない」
これに関しては、こっちでも実験は出来なくはない。
それに、使い分けができる可能性だって十分にあるのだ。
魔法なんてのは、わからないことだらけだ。
「佑美のイメージ次第の可能性もあるから、使う機会があれば気を付けて……って、あれか。前に桜を触ってた時に使ってたな?」
「うん、そうだよ。何もしないのは我慢できなくて……」
えへへと笑う佑美を見つつ、俺はもう1つの嫌な可能性を少し考えていた。
それは、佑美自身の生命力みたいなものを代償にしてるんじゃないかという怖い想像。
今のところ、使いすぎてだるい、みたいなことはないようだけど……な。
「魔法使いが、いないわけじゃないんだろう? 村長さんたちに相談して、世間知らずだからそのあたりを知りたいってお願いするのが良いだろうな。ついでに、本という形で紙が作れるような状態かどうかもわかる。あまり科学というか技術が発展してない場所だと、やれることが少なくなるからな」
「すごいなあ……持っていけばわかるかなって思っちゃった」
気持ちはわかる。ものすごいわかる。
俺も、マッチとか持たせて向こうでぼろもうけとかさせてみたい。
ただ、いわゆる後ろ盾がない状態、しかもか弱い(と俺は思ってる)女の子1人じゃ、何があるかわからない。
目立てば、我慢できない結果にもなりかねないのだ。
「徐々に、だな。俺たちは調べれば、仮定と結果が両方わかるんだ。いきなり完成形を持って行ったって、再現は難しかったり、受け入れられにくい。ちょっと便利、そのぐらいがいいんじゃないか?」
出来れば、こちらのものは持ち込みたくはないが、既に佑美自身という一番の異物が行き来してるのだから今さらだ。
幸いにというべきか、平和な日本では武器の類を持ち込んでどうこうということはなさそうだ。
「うーん。木工品とか?」
「いいところだな。休みにちょっと図書館とか行って、昔の道具とか調べよう。地元じゃこういうのを使ってましたっていえば、怪しさも抑えられるんじゃないか?」
出来るだけ早く、地域の有力者とかに話を持って行って、保護してもらいたいところだ。
出なければ、真似もされやすいし、こっちが真似してるなんて話になったら、厄介だからな。
後はどうやって伝えるか、だ。
「ノートとかだとまずいよね。どうしようかなあ」
「頑張って覚えるのが一番なんだが……なかなか難しいな」
このあたりは、向こうの事情を確認してからだな。
話でしか聞いたことがない、羊皮紙なんてぐらいだったら覚えていく方がいいとは思う。
この方法には一番の問題があって……。
「テストもあるし、そこまで覚えきれない……!」
2人でうんうんと悩んだ結果、覚えてたものを書きだしたという形で薄い木板に書き出すことにした。
木炭はあるだろうから、向こうでどっちも用意してもらってこっちで書けば多分……いける!
「こう考えると、本当に私たちの生活って色んな技術に囲まれてるよね」
「そうだな。文字を書くことだけ考えても、すごいことだ」
そんなことを話してるうちに、夜もいい時間になってきた。
向こうに行くつもりの佑美を見送り、俺も明日に備えて色々とやってから眠りにつくのだった。