OIS-002「嫉妬転じて告白となる」
そのことに気が付いたのは、まさに偶然だった。
何気ない日常の中の、ちょっとした変化。
「佑美、髪留め新しいな」
「え? ああ、これ?」
クラスメイトに聞かれたら、どんだけ見てるんだよって言われそうな気がする。
それぐらい、地味な髪留めだった。
学校に付けて来ても怒られなさそうな、手作り感満載だ。
「どうしたんだそれ。自分で作ったのか?」
「違うわ。貰ったの」
そう言いながら、歩く佑美の表情は、見たことがないものだった。
キラキラ輝いて、すごく満足してる感じ。
ドキッとする表情で、そしてズキっと痛む表情だった。
俺は、あんな表情をさせたことがない。
「男か?」
「何、急に。そうだけど、そういうんじゃないわ」
思わず、声が硬くなったのに気が付いたんだろう。
佑美もまた、ちょっと冷たい感じで返事を返してきた。
そのことが、俺の心を揺さぶる。
別に付き合ってるとか、そういうのではない……ないのだが。
なんだか気まずくなって、それからは無言だった。
それは学校についても同じ。
「珍しいな。嫁と喧嘩か」
「違うって言いたいところだが……なあ、プレゼントにするなら地味な奴と、目立つ奴どっちがいいと思う?」
佑美とは席がほぼ反対側。
だから、小声ならこんな話も出来る。
他所の学校に、彼女がいるらしいと聞いている級友というか、悪友の顔がニヤニヤしたものになる。
ずいっと顔を近づけて、さらに小声という感じだ。
「状況によるな。普段使いなら地味な奴だろうが、ここぞってときに付けてきてほしいなら目立つ奴だな。つっても、相手によっても違うさ。好みってのが当然ある」
「それもそうか……さんきゅ」
そういうつもりはなかったのだが、お薦めの店を送っておくよなんていってくれた。
買う予定はないけど、ありがたく情報は受け取っておくことにする。
肝心の佑美との微妙な空気は改善出来ないまま、放課後。
今日は2人で料理する日だが、買い物もほぼ無言になってしまった。
「じゃ、ごちそうさま」
「あ、ああ」
朝の俺を、ぶん殴りたい気分である。
家に帰る佑美の姿が、妙にへこんでる様に感じた。
気分転換に洗い物を片付け、戻ったところで目に入ったのは、自分の物じゃない財布だった。
佑美が、忘れていったのだ。
「どうすっかな……明日……いや、今もってくか」
躊躇した理由は、単純に顔を合わせづらかったからだ。
でも、このままじゃいけないと思いなおし、家を出る。
部屋に明かりがついてるから、いるはずだ。
インターホンを鳴らすが、出てこない。
「ゲームに集中してるのか?」
イヤホンやヘッドホンをつけていたら、気が付かないもんな。
仕方ない、鍵はあるし、お邪魔しよう。
出入りは今さらだし、怒らないだろう……たぶん。
我が家のように慣れている場所、佑美の家。
それが、幼馴染とはいえ女の子の住む家だということに気が付いたのは、鼻に届いた香りからだった。
ずっとお互いに1人で過ごしてるからか、どことなくウチとは違う感じがした。
「おおーい、忘れ物だぞー」
そんな気持ちを誤魔化すように2階に上がっていくけど、反応がない。
おいていくのも、なんだかあれだし、直接渡すか。
部屋をノックしても反応がない。よっぽどゲームか何かに集中してるに違いない。
「入るぞー」
「あ」
視界に入ってきたのは、佑美の部屋。
俺が来ることを考えているのか、片付いている様子だ。
ぬいぐるみがいくつか置かれていたり、特徴がある。
そんな部屋の中の、ベッドの上。
何もないはずの場所に、変な扉が浮いていた。
そして、佑美自身はそこからちょうど片足をベッドに乗せて出てこようとしているところだったのだ。
「……は?」
「み、見つかっちゃった!?」
一見すると、有名なホラー映画のテレビから出てきた時のように見える。
それにしては、佑美自身は元気すぎるし、這い出すんじゃなくて、窓を乗り越えているかのような姿だ。
思わず部屋から出て、ドアを閉める。
そして、そおっと開くと……佑美が床に座り込んでいた。
その背後には、扉。
「見間違いじゃないか……」
「お話、しよ?」
焦ったような、あきらめたような表情。
俺もいつものように座り、佑美と対面する。
背後に変な扉が見えるってことだけが、変な感じだ。
「それ、なんだ?」
「説明が難しいんだけど……あのね。私……異世界で聖女やってるの」
「聖……女?」
その単語が頭にしみいるまで、しばらく時間を要したのは言うまでもない。
来週からは、月水金の更新予定です。