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OIS-026「異世界転移は気の持ちようから?」


 いつものように、明るいうちから異世界に消える佑美。

 夏休みは、朝1時間、夜2時間という感じで異世界にいくことになっている。

 結局、時間の差は大きく縮まってないのに?と思いそうだが、最近は事情が変わったのだ。


 何かというと……。


「向こうの自分とこっちの自分が、同じじゃない?」


「うん。他に言いようがないのだけど……」


 夏祭りからしばらく、ある意味充実した夏休みを過ごしているわけなのだけど……。

 休みだからと、ゲームを我慢できない子供のように、佑美は異世界を気にしている。

 気持ちはわかる、わかるのだ。


(俺だって。1人だけだったら絶対入り浸ってる。一人だけこっちでは歳をとる結果になるのを知らずに)


 これで大人で、俺たちだけで人生を生きていく状況なら、ありと言えばありなのだろうけど、そうじゃない。

 まだ、佑美だけ大人になってもらっては困るのだ。

 そんな悩みもある日々で、冒頭の台詞である。


(佑美の魔法も、進化したってことか?)


「最初はね、気のせいかなと思ったの」


「まあ、そうだろうな。この前からの、時間の調整だけでもすごいことだと思う。それ以上のことか?」


 静かな、頷き。

 マジか、そういうことなのか?


「この前、向こうから帰ってくるときに、そうだったらいいなあみたいに考えながら戻ってきたの。元々、向こうとこっちだと時間のずれがあるのは当たり前だったから、気が付かなかったけど前からその影響はあったっぽい」


「そういや、夜に行っても向こうが昼間だったりしたわけだから、微妙に違うんだよな」


 途中から取り始めた、色々な記録代わりの日記には、佑美が出かけた時間も記載されている。

 同時に、佑美にも向こうで朝だったか昼だったかぐらいは記録してもらっている。

 あ、時計も広めてもいいなってそれは後だ。


「いつもなら、1日はたってたんだけど、そうじゃなかったの。2時間ぐらいで、昼間から夕方になったぐらいだった」


「なるほどな……それは間違いない」


 まだ、佑美次第なところがあるから安定していない話だけど、これは素晴らしい話だ。

 うまく行けば、向こうでは長く過ごし、こっちでも通常の生活をすることが出来る。

 ただ問題は、佑美自身の体だ。


「佑美だけが歳をとるのは、変わりなし、か。で、向こうとこっちが違うってのは?」


「それなんだけどさ……私、変わってる?」


 変なことを言って、指を俺に見せてくる佑美。

 確か、今回は行く前に爪を切っていて……ん?


「行った時と同じ?」


「そうなの。もちろん、向こうに爪切りはないから、切った覚えはないよ。だから、今回は3日分は伸びててもおかしくないの。よくわかんないんだけど、向こうの私は、こっちの私なのかな?」


 言われて頭に浮かぶのは、ワープの仕組みの議論だ。

 地点Aから地点Bにワープした物体は同じ物体として、人がそうなった場合、ABの両者は同じなのかということ。

 つまり、異世界に渡ったように見える佑美は、地球の佑美と同じなのか、ということだ。


「俺には、違う佑美には見えないけど……でも、日焼けしたりしてるだろ? フィードバックはあるんだもんな」


「だからややこしいんだよねえ。でも、今回のではっきり分かったことはあって、向こうで食べた物は、こっちだとお腹にないの!」


「お、おう?」


 どーんと文字が背中に踊っていそうな勢いの佑美。

 俺はと言えば、かなり引き気味というか、何を言ってるんだ?って感じだ。

 少し時間が経つと、言ってる意味がようやくわかってきた。


「戻る前に、お腹いっぱい食べたことがあるんだな? しかも、何度も」


「そ、その通りナノデス……フトリタクナイナアッテ、オモッテタノ」


 何やらカタコトになった佑美を前に、腕組み。

 なるほど、と思う。それは確かに強い証拠だ。

 となると、物の行き来が出来るのは別の理屈かな?


「で、他には何か分かったのか?」


「そうそう。向こうの私、少しだけ背が違うんだよ。服が、特に裾とかくるぶしあたりですぐにわかるの」


 どうやら確定のようだ。こっちと、向こうの佑美は同じようで、別だ。

 言い換えれば、毎回異世界に転移・憑依してるようなものかもしれない。


「じゃあ、向こうでの若返りとかの方法を探さないと、そのうちあっちだと大人になってしまうな」


「そうだねー。エルフとか探して見る!」


 キラキラとしだした佑美の顔は、とても可愛いと思う。

 部活でもそうだろうけど、やりたいこと、打ち込めることを持ってる人って、輝いてるよな。


 とはいえ、寂しい物は寂しいのだ。


「佑美、俺はいつも心配してる」


「う、うん……ありがと」


 ベッドに座る佑美の隣に、そっと体を寄せれば彼女も拒否は示さなかった。

 2人とも、まだ早いと思ってるからその先にはいかないけれど、隣あって手を触れあってるだけでも幸せだ。


 お昼直後の、暑い時間帯。

 クーラーの効いた室内で、わざわざ互いの体温が感じられることがなんだか不思議だった。


 湧きあがりそうになる欲望を適当にいなしながら、2人だけの時間を過ごした。


 そんな時間を破ったのは、インターホンの音。

 邪魔をされたな、なんて気分と共に受け取ったのは……。


「佑美、父さんたちから荷物だ。中身は……ああ、お土産というか、現地ものというか……」


「わー! さっそく今日作りましょ」


 中身は、九州方面の食べ物詰め合わせだった。

 まだお昼を作ってなかったこともあり、さっそくとまずはラーメンを……。


「向こうでラーメンを開発したら、別の名前がいいかしら」


「かもな。こう、髭のある怪物がいたら、その辺にあやかったらどうだ?」


 悩みはあるけれど、結局のところ、異世界の事を2人で考える時間はとても楽しい。

 それに、佑美との関係を進ませてくれたのも、異世界だからな。


 このまま、平和に互いの世界で佑美と一緒に成長出来ればいい、そう思うのだった。



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