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OIS-025「コスプレめいた本物」


「じゃ、行ってきます」


「遅くならないようにな」


 まるで子供を見送るように、扉に消える佑美の背中に声をかける。

 もう何度見送ったか覚えていない、異世界への移動。


 向こうで、色々と物作りを始めてもらってるから、その確認のためだ。

 今回は、洗濯の改良をということでかくはん棒とタライ大の桶を試作してもらっている。

 これまでは、川辺等で1つ1つの家庭がやっていたわけだが、それを改善しようという訳。


「汚れの取れ具合で、現地の水の硬度が大体わかる……はず」


 図書館から借りて来た本の中には、西洋、特に硬度の高い水の場所では温かくしないと汚れが落ちにくかったとある。

 洗濯の仕方も、土地によって変わるというのは面白い話だった。

 一見すると、学校の勉強には直結しない調べ物なのだけど、これが馬鹿に出来ないのだ。


「宿題は楽勝だし……まあ、いい感じだな」


 もっとダラダラしてるのが、高校生らしいような気がしないでもない。

 ただ、日々が楽しいのは間違いないのだ。

 時間がいくらあっても足りない、そう感じる。


 いつもなら、1人になったら図書館にでも行くことが多いけど今日は違う。

 今日は、夏祭りがある。

 これを逃す手は、無い!


 我が町の祭りは、イベントがいくつもあり、その中の1つが仮装夏祭り、だ。

 始まりはよくわからないけど、肝試しと気の早いハロウィンを合わせたような奴なんだとか。

 夏場ということもあり、薄着や水着にペイントという人が多かったりする。


「だが今回は、一味違うぞ……ふふふ」


 こんなことに使うのもどうかとは思うが、異世界から色々手配をしているのだ。

 1つは、いかにもな戦士用の装備一式。使い込まれた中古で、汚れ具合がそれらしい。

 ちなみに、武器の方は危ないのでそれは地球のジョークグッズだ。


 そして……。


「ただいまー! どう!?」


 1時間もしないうちに、佑美が戻ってくる。

 その恰好は、行きとは大きく違っていた。


 偉い人たちが着ていくような服……はさすがに無理だったので、一般人の一張羅という感じの物。

 それでも、飾りは少ないながらも綺麗さを感じる異世界のドレスを着た佑美がそこにいた。


 最近、行商の人とも付き合いを増やしたようで、そういう場所に行くかもしれないと手配したのだ。

 ちなみに、代金はこれまで佑美が村に提供した知識やらで儲かった分のごく一部らしい。


(ちゃんと護衛も雇っているっていうし、しばらくは良いだろうけど……)


 近々、その地方の有力者に庇護を求めるのもありかもしれない。

 村やその土地が襲われれば、税金が取れなくなりますよって感じでな。


「綺麗だよ、似合ってる」


 今は、佑美を褒める時間だ。

 恥ずかしいけれど、ごまかす場面でもない。

 それに、2人だけの部屋だしな。


 向こうでも着ているという鎧の下用の肌着を身に着け、手伝ってもらいながら鎧を着こむ。

 重さは感じるけど、動くのに困るほどじゃない。

 要所要所以外は、案外軽くできているようだ。


「向こうじゃ、駆け出しが卒業したら着なくなる奴だっていってたけど、こうしてみると格好いいね!」


「これで駆けだしか……やっぱり、相当鍛えられてるな、向こうの人」


 マラソンをしろと言われたら、無理だと断言できる。

 練り歩くぐらいは出来そうなところに、体を鍛えた甲斐はあったなと感じる。


 気が付けば、外も暗くなってきた。

 今日は風も少しあったから、外は暑いけれどだいぶマシだ。


「では、参りましょうか、姫」


「あははっ、よろしくお願いしますね」


 目立たないようにと、腰の内側に財布を入れてあるぐらいが現代風。

 それ以外は、ゲームのキャラは出てきたように見えるはず。

 そう、まるで仮装したかのように。


 家を出て、祭りがある神社まで歩く。

 すぐ横に公民館もあり、そこで盆踊りではないけど似たようなこともするのだ。


「わー、剣士だー!」


「触ってもいいぞ」


 会場に近づくほど、他の人に出会う回数も増える。

 中には当然子供も多く、男の子を中心に囲まれ始めた。

 佑美も、自分で縫ったの?等と女性陣から集中攻撃だ。


 どちらも、ネットでちょうどいいのを買ったということにしてある。


 だんだんと、周囲にも仮装してる人が増えて来た。


「お化けもいる。あっちはゾンビメイクかな? うーん、最近のはすごいね」


「実は本物が混じってたりしてな」


 待ち合わせなのか、路地裏でぼんやり立っているローブ姿の人を見たときなんかは、思わずそう口に出た。

 少しは佑美が怖がるかなと思ったら、意外に真面目な顔をされてしまった。


「実はさ、見ようと思えば見えるっぽいの。すごいよね、魔法」


「マジかよ……」


 どうやら、魔法とは俺の知る超常現象の1種でもあるようだ。

 周囲が騒がしい中、佑美が小さくつぶやいて指をはじく。

 すると、俺にはわかった……何かが、少しだけ周囲から消えたことに。


「おまじない、かな? 向こうじゃありきたりの魔よけの魔法。向こうならともかく、こっちなら十分じゃない?」


 確かに、命を奪うような怪物が当たり前にいる異世界と比べれば、地球のそれは希少価値なだけかもしれない。

 日常に、意外と非日常が潜んでるのかなと思いながらも、佑美との夏祭りに意識を戻すことにした。


「あっ、りんご飴も売ってるー!」


「食べ過ぎるなよ、半分こしようぜ」


 次の祭り、もしくは来年は、浴衣で来てもいいかもしれない。

 そう思える時間が、楽しく過ぎていった。



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