表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/36

OIS-022「涼みの一幕」


 全身を、冷たい風が吹き抜ける。

 両手を上げ、足も開けばなおよしだ。


「気持ちいいー!」


「暑さを忘れちゃうな」


 いよいよの夏休み。

 俺たちは、購入した自転車に乗って、山の方に走ってきている。

 地元に、全国的ではないが滝があるのだ。


 他に見る物もないので、観光地化もされていない。

 精々が、山歩きにたまに人が来るぐらいだ。


 舗装された道路から、少し降りた先にその滝はある。

 距離にすると数百メートルあるかないか。

 それだけなのに、別世界だ。


「写真、とってとって!」


「ああ、わかってるよ。はい、チーズ」


 お互いの両親に、元気でやってますよってするための写真。

 何枚か撮影した後は、目的のために川に降りる。


 町中はかなり暑いのに、ここにくるとむしろ肌寒いぐらいだ。

 滝の音と、冷たい風、それに匂い。

 夏の緑が、目に綺麗だなと感じる。


「あっちにも似たような場所があるよ。森の中、そこの川辺に近いかな」


「田舎っていうか、人間の住む場所、生活する場所は似通ってくるのかもなあ」


 デートにしては、少々色気がないような気もするけれど、気にしない。

 2人で、川辺を歩いて流木を探すのだ。


 歩きやすい服装とはいえ、気を付けなければいけない。

 怪我は、したくないし……学校で説明に困る。


 既に渇いた物、まだ川に浸かっている物、色々と引っ張り上げてみる。

 

「これは、さすがに大きいから無理だね」


「そうだなあ。水槽に入るぐらいのがいいらしいし……こんなのじゃないか?」


 事前に雑貨屋さんで、流木に興味が出たと言って色々聞いている。

 どうやら俺が思ってる以上に、この界隈は一般人でも拾って売るのが良くある話らしい。

 買い取ってもいいよと言われているので、最終的には持ち込むことも考えよう。


 持ち帰った後は、洗ったり虫の対策をしたりと、そのままでは売れないというのもあるのだ。

 

「こうしてみると、面白いねー」


「まったくだな。っと、泥がすごいな」


「任せて!」


 川で洗おうとした俺を引き留め、佑美が何やら念じると……見事に両手の中に水が。

 無重力で水玉を抱えてるかのような姿に、驚く。

 幸いにも人はいないわけだが……。


「もうちょっとこっそりとな。これ、飲めるのか?」


「向こうだと普通に使ってるよ。行商の人も、水魔法が使えて1人前なんだって。荷物がその分、全然違うでしょって」


「なるほどなあ……木はこのぐらいにしておこうか」


 お互いの籠やリュックに数本ずつ、といったところ。

 後は、あるかどうかもわからないけど、適当に散策だ。


「宝石宝石~」


「さすがにごろごろはしてないだろ。石英の塊とかはあるかもしれないけど」


 夢がないことを、なんて言われそうだけど、仕方ない話だ。

 綺麗な川だからって、何でも見つかるわけじゃない。

 精々が、魚を見つけてはしゃぐぐらい。


「あはっ、見て見て。にゃんこみたい」


「そうか?」


「ほら、こうしたらさ」


 小さいの時のようにはしゃぐ佑美。

 黒っぽいすべすべした石に、適当に川の水で絵を描いて見せてくる。

 確かに、猫のように見えなくも……うん。


「持って帰って、塗ってみようか。ほら、中学の時の絵具とか引っ張り出してさ」


「そうする! さっすが、たっくん頭いいね」


 まるで宝物を見つけた時のように、石を抱えてくるくる回る佑美。

 そんな姿が、妙に可愛くて、照れ臭くなった。


「そういえば、ここでも開けるのか?」


「え? たぶん。あっちじゃ、村以外の場所でも開けたから……」


 念のために周囲を確認し、2人して物陰に。

 一見すると、何をするんだ何を、と思われそうな行動だ。


 川のせせらぎと、遠くには滝の音。

 鳥の声、爽やかな風。


 そんな中に、異物が産まれる。

 西洋の建物にありそうな、大きな木の扉。


「うん。特に問題なさそう」


「そっか。よかった……でいいんだよな」


 俺の考えている将来設計的には、大事なことだ。

 出かけた先で異世界に行き、仕入れて来て戻る、という形を目指すのだから。


「たぶんね。この扉もさ、どうも私の魔法の一種みたいで、使う時とかにオプションぽい物が意識できるの。ほら、向こうでの時間がって調整もそこでやるんだよ」


「俺には扉以外見えないけど、そうなのか……」

 

 ちょうどよく、大きな岩があったので腰を下ろす。

 自然と佑美も、異世界への扉を消して隣に座った。

 自然の作り出した光景が、目の前に広がっている。


「私、今楽しいよ。たっくんは?」


「俺もさ。佑美と何かしてるのは、楽しい」


 本音を言えば、もっと楽しくなりたい。

 けど、それは少し先の話になりそうだった。


「なら、よかった」


 ささやいた佑美が、俺にもたれかかり、1つになった。


 自然たちは、変わらない音を俺たちに届けてくれるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ