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OIS-020「未来に備えて」



 あぶく銭、という言葉がある。

 ため込むべきではないお金として、そう呼ぶことが多いのかな?


 異世界から、佑美が持ち帰った物品。

 それらの売却が一通り終わったのだ。


 結果としては、まともにバイトして稼ぐのを考えたくないほどのもの。


「染みも、逆に生活感があっていい!とか、わからんなあ」


「ほんとだね。もちろん、お洗濯はしたけど。洗濯機だと、ぼろぼろになるかもしれないもんね」


 異世界にはミシンもなく、洗うのも手荒いか、踏み洗いだそうだ。

 となれば、機械にかければ破れてしまうことだってあり得る。

 結果としては、それらがちょうどよく重なり、良いものと認識されたようだ。


「ずっと出し続けるのは、駄目なんだよね?」


「ああ。向こうでの仕入れにも限界があるし、それに高校生がたくさん荷物を送るのも、変だろう? だから、時々、な」


 これが俺たちが大人で、表向き中古ショップを営んでいるような年齢になったら別だ。

 ちゃんと届け出も出せば、いくらでも売ろうと思えば売れる。

 でも今は、学生なのだ。フリマアプリが精一杯。


「それより、これで自転車を買おうと思うんだ。これで川の方までいってさ、流木を拾ったり、そういうポーズをしようと思って」


「宝石もどきも、元を山で拾ったってするの? なるほどー……」


 こっそりと、カタログを用意しておいた俺。

 カラフルなそれを、佑美は夢中になって見始めた。


 自転車を買う。これには、俺も体を鍛えたいという目的もあったりする。

 次の休みには、2人で買い物だねと読みながら笑顔の佑美。

 同じように笑いながら、俺は内心、考え事をしていた。


 それは、この先どうしようかというものだ。

 前にも少し、佑美に話したけど……。


(このままだと、佑美のほうが年上の体になる)


 そう、今は俺の方が数か月先に産まれた状態で、たまに兄呼ばわりしてくる関係だ。

 でも、この生活が続けば、間違いなく佑美の方が生きている日にちは長くなる。

 それこそ、30時間も向こうにいたら、1月近くその差は縮まるし、広がるのだ。


 一か月、二か月と続いたら? それはもう、学年が変わる。


「佑美」


「何? 真剣な顔して……悩み事?」


 これは言ってもどうにもならないかもしれない。

 けど、言っておかないといけないことだ。


「異世界への扉だけど、どうにか向こうとこっちの時間を調整できるようにするか出来ないなら、1日1時間ぐらいに留める方がいいと思う」


「……どういうこと?」


 むっとした様子に、俺もじっくりと話すことを選ぶ。

 大事な、とても大事なことだ。


「前にも少し話したけど、向こうで1日が1時間、っていうのは時間の進みが24倍ってことだ。夏休みに、丸1日向こうに行ってみろ。前にも話したけど、一か月近く佑美だけが、成長する。三日行ったら? 一週間行ったら?」


「まずい……よね」


 まずいなんてもんじゃない。

 それこそ、17歳の中に19歳が混ざるみたいになってしまう。

 幸いにというべきか、向こうで佑美がいわゆるレベルアップ、階位をあげると魔法の力も変化している。


 扉の魔法だって、前はベッドの上に固定だったけど最近じゃ場所を移動できるようになった。

 向こうも、最初は森の中で固定だったのが、村で用意された専用の小屋の中だったりするそうだ。

 あるいは、旅の途中でいきなり帰ってくることだってできるようになっている。


 となれば、だ。


「時間の調整。これを意識してみてほしい。たぶんだけど、佑美自身の願望も影響してると思うんだ。向こうに長くいたい、とかそういう感じで」


「あー……そうかもしれない。魔法って、イメージがすごい大事なの。火の魔法も、実際に火を起こしたことがない子供と、家の手伝いをしてる子だと同じ年でも全然違うの。そっか……」


 気が付けば、夜もいい時間になってきた。

 いつもなら、とっくに異世界に佑美が出かけている時間だ。


「ん、よし! じゃあさっそく! 電波時計じゃなきゃ、違いがわかるよね」


「だな。時間合わせ……よし」


 そうして、実験的異世界移動が始まる。

 いつもと違い、くぐる前に何か念じる様子の佑美。


 そして、くぐった佑美が戻ってきたのはぴったり1時間後。

 時計は……20時間近くのずれ。


「どう?」


「確実に変化があるな。この調子だ。一番いいのは、調整できることだな」


 一番の懸念を、何とかできそうなめどが立ったことで胸のつかえが少しなくなったように思う。

 後は、調整がさらに出来るのかと、結局は先送りであることの確認だ。


 佑美に異世界に行くなとは、言いにくい。

 でも、俺たちはどこかに就職するといったことが必要だ。

 たった1つ、その辺を解決する方法があるにはあるのだが……。


 お風呂に行ってしまった佑美には、まだ言いにくいアイデア。

 一人、ノートたちを片付けつつ、考えをまとめていく俺だった。



 

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