OIS-019「出来るだけ、一緒に」
日々を過ごしているうちに、中間試験がやってきた。
元々、試験結果によっては問題になることがわかっていたので抜かりはない。
2人そろって、目標通り平均より少し上をキープできているはずだ。
「問題は、こっちか……」
そんな俺のささやきは、誰に聞かれるでもなく休み時間の喧騒に消える。
誰もが、テスト結果に一喜一憂ってやつだ。
視線は、自然と佑美を追っていた。
放課後の付き合いがないにも関わらず、佑美は女子たちに人気がある。
嫌われてはいない、というのが正しいのかもしれない。
異世界で、知らない人との交流の力はかなり磨かれたようだ。
同級生ともなれば、ちょろい……は言い過ぎだが、苦にもならないといったところ。
問題は、そんな佑美を気にする男子もいくらか確認できるということだ。
(どうしようか? あまり堂々と、俺たち付き合ってるんだって言うのもちょっとなあ)
実際に、そういうカップルがいないことも問題だ。
たぶん、既にカップルな男女はいるとは思うのだが……。
でも、そのうちばれる気がする。
そんなことを考えているうちに、午後の授業が始まってしまう。
考え事をしながらの時間は、あっという間だった。
だからこそ、だろうか。
「佑美、今日は何にする?」
「え? 今日はお肉がいいかな」
2人にとっては、何の違和感のない会話。
晩御飯どうしようか?ってやつだ。
ただ、それは教室の中に少なくない衝撃を与えたようだ。
「もしかして、お二人は熱々?」
「あー、まあ、うん。好みの味噌汁の味を知るぐらいには」
我ながら、それはどうかと思う返事だったけど、女子たちには十分だったらしい。
黄色い声があがり、佑美はクラスメイト達に囲まれる事態となってしまった。
俺はと言えば、男子たちからの包囲網が狭まる前に、教室を脱出した。
話せば長くなるだろうし、買い物が遅れてしまうのは問題だ。
そう、セールだってあるのだから!
どこか後ろ髪を引かれつつスーパーでセール品を確保したところで、佑美が追いついてきた。
「一人逃げるって、ひどくない!?」
「どう言った物かって思って……ごめん」
面倒なことはって考えも確かにあったので、素直に謝っておく。
それに、男子同士だと……どこまでだよ?なんて話が出かねない。
学校じゃ、話せるわけがない。
「今日はハンバーグにして、大きいのにしたら許す!」
「それが女子の言うことかよ……ははっ。それより、どこかで先生にもちゃんと言った方がいいよな」
他に買う物はあったかなと2人してスーパーをめぐりながらの会話だ。
高校生の男女という組み合わせは、多分珍しいと思う。
そんな自覚を抱きつつ、無視できない話を続ける。
「そうよね……事情は伝わってるとは思うけど」
「ちゃんと勉強もしてますよって結果を出せば、多分いいとは思うんだけどなあ」
気が付けば、お菓子売り場に来ていた。
以前のように、ラムネが目についたところで聞くのを忘れていたのを思い出す。
「ラムネ、どうだった?」
「あ、そうそう。すごかったよ。いざという時のために買い込んでおこうかな」
俺たちにとっては嬉しいことに、ラムネの類は持ち運びやすい容器か、小分けに保管されていることが多い。
価格も安いし、下手に向こうで同じものを再現しようとするより安く上がるかもしれない。
とはいえ、どこかで向こうでも作れるようになるといいなとは思う。
「魔法でダイエット……あり得るのか?」
「かなー? でも、魔法使いに太った人いないよ?」
他人に聞かれても、このぐらいならゲームとかの話と思われそうな会話を続ける。
こうしていると、まるで新婚家庭のようだななんてのは佑美には内緒だ。
ほとんどの荷物を、俺が持った状態での帰り道。
ふとした拍子に、佑美の手が少し荒れているのを見つけた。
「畑仕事とか、やっぱりつらいのか?」
「これ? ううん。聖女だからってあまりやらせてくれないの。こうしてーって指示を出すのがお仕事だって言われるとね。これは、向こうの石鹸があまりよくないからかな」
ハンドクリーム持って行った方がいいかな?なんてつぶやく佑美は、笑顔だ。
向こうに行く前なら、肌荒れは嫌だなあとか、手がカサカサーなんて言ってた女の子。
でも今は、向こうでの生活がよほど楽しくて、大事なんだろう。
「また何か、考えような」
「う、うん」
そっと、そんな手を空いている方の手で握りこんだ。
初夏が近づいてきて、涼しくはないはずの天気。
でも、佑美は手の間に汗がにじんでも、離れようとはしなかった。
お肉の量が倍は違う。
そんなちょっと不思議な食事を終えて、佑美はいつものように世界を渡る。
「ねえ、つけて?」
「わかった」
今日は、少しだけいつもと違った。
前に買った指輪を、首から下げるのじゃなく、指につけるようにとお願いされたのだ。
もう何年かしたら、付ける指を変えることになるかな?
そんなことを思いながら、ドキドキした状態で指輪を付けた。
「行ってきます」
もう何度聞いたかわからない声に頷き、今日も背中を見送るのだった。