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OIS-018「甘いものは特別」



 本は知識の宝箱だ。

 誰かが、そんなことを言っていたような気がする。


「サバイバル術……これだな。家庭で作る雑貨? うーん、材料が工業製品ばかりだな」


 佑美を見送った日曜日の午後。俺は図書館にいる。

 クラスメイトが見たら、日曜まで勉強かよって驚かれるだろうな。

 ただまあ、ある意味ゲームに没頭しているようなものだ。


「向こうで用意できる奴と、いざという時に佑美自身が持ってる奴とで分けて考えるか……」


 現状、向こうには電気やそれに伴う家電等はないことがわかっている。

 とはいえ、魔法という物があるからには、そのもととなるエネルギーを使ってということが考えられる。

 天災、もとい天才はどの世界、どの時代にだっているものだ。


(例えばそう、手をかざせば箱の中で氷の魔法が使える、みたいなものだって)


 今、流通してるような仕組みは無理だとしても、昔のというか開発当初の物は再現しやすそうだ。

 上に氷を置いているだけの冷蔵庫なんて最たるものだ。

 氷を準備するという問題点さえ、解決してしまえばいい。


「出かける機会は増えてくるだろうし、火起こしの道具も買っておくか。なんだっけ、火花を出す奴、テレビで見たことあるな……」


 ノートに、思いつくままに書き留めていく。

 容器は気を付けないといけない。ペットボトル1つでも、現地ではどうやって作るのかわからない物体だ。

 ガラス瓶も、どこの工房でこんな精巧な物を!となるに違いない。


「竹の入れ物とか、探して見るか」


 俺は、今の便利さにたどり着くまでにどれだけの時間と技術がかかっているかを、痛感している。

 その意味では、異世界という存在に感謝してもいいなと思う。

 地元では売っていなさそうな小物を、ネット通販で頼みながら図書館を出る。


 気が付けば、もう日暮れが近かった。

 今日は何を夕食にしようか、と考えつつスーパーへ。

 確実に2人分とわかっていれば、1人の時よりも食材には案外悩まない。


 ふと、安売りをしている栄養ドリンクが目に入る。

 俺たちぐらいだと滅多に飲まないけど、父さんたちがちょいちょい飲んでるであろうアレだ。

 同時に、佑美が異世界から持ち帰っている野菜なんかが思い浮かんだ。


 魔法使いのために、食べる必要のある食材があるという話。

 つまりは、何かしらの栄養素が魔法使いが魔法を使っていくのに必要ということだ。

 全く新しい物質なのか、それとも……。


「ママー、お菓子かってー!」


 考え込んでいた俺の耳に、そんな子供の声が聞こえる。

 俺たちの親はいないことが多かったから、あんなことはなかったな……ん?


「そういや、あのニンジンもどき、妙に甘かったな。味付けの問題じゃない?」


 大した金額ではないので、お菓子売り場に向かい、ラムネをいくつか買ってみた。

 そう、魔法使いは頭を使う。糖分……これが肝かもしれない。


 駄目だったら、勉強の時に使えばいいと思い、食材と一緒に帰宅。


 ご飯の準備をしていると、2階から降りてくる音が響いてきた。


「お帰り、佑美」


「ただいま! んー、良い匂い。カレー?」


 料理には色々あるけれど、カレーほど匂いでわかるやつはないよなと個人的には思う。

 サラダは私がやる!という佑美を、向こうの生活で汚れてるぞ?と止めて座らせた。

 いつもならともかく、今日は半日、つまりは1週間弱向こうにいたのだ。


「うう、なんだか色々任せっきりな気がする」


「今さらだろ? やれることをやってくれればいいさ」


 自分が異世界にいけないことを、気にする気持ちもあるのは確かだ。

 でも、だからといって佑美に文句を言うのも変な話。


 不思議な出来事の端っこに自分がいる。

 それだって、十分面白い話だと思うようにしている。


「あっちだと、カレーは無理だなあ」


「香辛料は、昔から高い物は高いからな。気候や畑の具合を考えると、もっと暖かい地方じゃないとな」


 第一、同じ色である保証もない。

 もしかしたら、味は一緒でも色が青いカレーとかになるかもしれない。


「ええー!? それはやだなあ……。あ、そうそう。畑のほうだけど、果物の畑にも、導入してみようってことになったよ。もりもりって育ってるの」


「そいつはよかった。まあ、食べ物の栄養と一緒で、畑の土の力なんてのもなかなか目には見えないもんなあ」


 経験で、この土はいいとか、こういうのを混ぜると良いとかそういったのはあるとは思う。

 でも、ずっとそれでいいとも限らないのが難しい……と、農業関係の本にもあった。


 食事を終え、俺は先にお風呂に入るように言われた。

 佑美からは、片付けぐらいはしたいとの申し出である。


 冷静に考えると……女の子と1つ屋根の下で、暮らしているというのは……あまり考えないでおこう。

 もしかしたら向こうで、ひどい目にあうかもしれないから先になんてのは、飛躍した話だ。

 正確には、そのぐらいの世界だと思いたい、と考えているから……かな?


 しばらく考え込んでいたようで、佑美に呼ばれたころにはのぼせそうになっている俺がいた。


 お風呂上りに、今は俺の部屋状態の客間でノートを整理する。

 向こうで再現を狙う物、持って行って隠しておくもの……こう考えると、現代の物品は色々とすごい。


「ねえ、このたくさんの綿って何に使うの?」


「ん、そうだな。持っていける量の確認、だな。限界はあるだろうし、超えた時に全部置いて行かれるのか、あまりの部分だけこっちに残るのか」


 もしかしたら、佑美の持つ魔力とやらを、ごっそり使うといけないので徐々に量は増やす。

 綿自体なら、どこかに押し込んでおくことも出来るしな。


 使うことを考えると、水あたりがいいのかもしれないけど、余りがばしゃってこぼれるのは怖い。

 後は、綿が圧縮された状態でカウントされたらまた面倒なことになるわけだが……。


 そして、本命のラムネ。


「向こうの魔法使いなお婆ちゃんとかに、こっそり試してもらってくれ。上手く行ったら……まあ、秘薬みたいな扱いで」


「了解! ワンコインでMP回復、とかなんだか面白いなー」


 佑美自身は、回復した気がするとは言うものの、試験としてはデータが足りない。

 それに、こっちと向こうで人間としての造りが違う可能性もあるからだ。


「向こうで収穫があったら、また持って帰ってくるね」


「病気が怖いから、少しだけな」


 そう答えつつも、俺も異世界の食べ物が楽しみになっている自覚があった。

 俺たちしか知らない、その秘密は……とても甘い。


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