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OIS-015「家にいる側ということ」


「最近は便利になったんだね」


「年寄り臭いこと言うなよ。俺たち若いんだからさ」


 怪物退治に、佑美が付き合ってから最初の土曜日。

 村に来る行商から、佑美が買い込んだいくつかの物品をネットのフリマに出品したのだ。


 造りは荒かったり、汚れてたりするけど、まさに本物。

 新品で買うようなものとは、俺から見ても確かに、違いがあるなあと感じる。


「うそ、もうこんなにアクセスがあるんだ……」


「中古感が逆に受けてそうだな」


 特に動きが良いのは、パッチワークと呼ばれるようなつぎはぎによるもの。

 異世界じゃ、ごく普通のことでそこらにある服だったりするのだ。

 でも、こっちでは「らしい」を感じる良い物、となるのかも。


「じゃ、お昼作ってくるね」


「珍しいじゃないかって、俺が言うのもなんだけどさ……」


「んふふー、これでも特訓してるんだよ? そりゃあ、向こうでは10歳ぐらいの子が先生だけど……」


 そう言いながら、1階のキッチンへと降りていく佑美を見送る。

 その間は、残りの撮影もしてしまおう。

 ちなみに、この前両親が来た時に、パソコンをねだった。


 元々、回線自体はどちらの家にもあるのだが、両親が出張中ということでもっぱらゲーム専門だ。

 パソコン自体もあるけれど、昔の物だからな……というわけでノートパソコンを1台、買ってもらったのである。


「次は流木と……うーん、石類はあんまり売れなさそうだな」


 撮影前にと、俺たちが扱えそうな物の相場を確認する。

 流木の類は、意外と安定して高額なのに驚くが、石が逆に安い。

 正確には、とんでもないような強気の物か、そうでないかという感じだ。


「これならペイントでもしたほうが売れるか? むしろ、適当な木工品の方がアンティークとして楽っぽいな」


 実際には、金銭で買い取るわけだけど、そこは異世界。

 こちらの世界の現金が動いてないわけだから、無料でもらったと同じと言い張れる……と思う。

 不定期にするようにしないと、業者だと怒られてしまうから気を付けないといけない。


 今後の物品購入予定をまとめつつ、まだ撮影していない在庫の方を見たところで佑美に呼ばれた。

 階下に降り、食べた食事は……うん、普段みないレシピだけど確かに美味しかった。


「って、材料が明らかに半分向こうのだろ!?」


「あ、ばれた?」


 てへっなんて可愛く言っても、ごまかされないぞ。

 色んな意味で、規格じゃない野菜が混じっているのだ。

 第一、俺の知ってるニンジンじゃない色をしたニンジン、みたいなのまである。


「向こうで、魔法使いのお婆ちゃんが、癒しの力も魔法なら、これを食べると良いんだよっていくつかもらったの」


「そういうことか……妙に甘いし、向こうにしかない栄養素とかあるのかもしれないな」


 単純に、生活環境的に特定の栄養が不足気味という可能性もある。

 もし、もしもそうだとしたら、それを改善することで向こうの魔法使いの事情が一変……いや、やめておこう。

 まだ、そのあたりを考えるには早すぎる。


「でしょー? だけど1人だと、さすがに多いから、ね?」


「仕方ないな。味に問題はないし、最悪俺が体調を崩すだけで済む」


 これ自体は嘘じゃない。

 もし、魔法に関連する新しい栄養がということだと、魔法を使えない俺に悪影響があるかもしれない。

 魔法を使うことで消耗する何かが、蓄積されっぱなしになる、とかな。


 俺の言葉に、慌てて俺から食事を奪おうとする佑美。

 だが俺は、それを防いでさらに口にする。


「俺は向こうに行けないからな。このぐらいは付き合うよ。良いデータだ」


「そうと言えばそうだけど……うーん」


 佑美自身はあまり納得してないようだけど、俺としては嬉しいところもある。

 佑美と同じ経験をしてるというのが、やはり嬉しいのだ。


「そんなことより、食べたら向こうで分かったことを教えてくれよ。今後の作戦会議だ」


「うん、わかったわ」


 長年の付き合いで、俺がこの話の続きに付き合わないことを感じ取ったのだろう。

 佑美も気持ちを切り替えたようで、その後は素早く食事を終えた。


 腹ごなしとして、異世界の事をノートやパソコンのメモにまとめていく時間だ。

 今回、最初に驚いたのは、向こうの馬の類だ。


「馬も、魔法を?」


「うん。こう、強いのじゃなくて、蹴る時になんかどーんって出たり、一時的に速くなったり。だから生き残れてるのかなーって感じ」


 言われてみれば、納得だ。

 犬猫もいるようだし、家畜の類は最初は野生だったはず。

 どうやって生き延びていたのか、不思議だったのだ。


「行くところに行けば、空飛ぶ馬とかもいそうだもんな。馬車となると……バネとかは工業の話だから、ちょっと厳しいな。出来てもこう、化粧品とかそういう類か?」


「石鹸はねー、あるみたいだけど高いかな。後、シャンプーとかがないの!」


 石鹸の話も重要だけど、なるほど、シャンプー。

 男の俺にはあまりピンとこないけど、確かにこの前の佑美は……うん、まあ。

 細かいところは彼女の名誉のために黙ってるとして、そういうことだな。


「リンスは、柑橘類を水で薄めればいいと思うけど、シャンプーはなあ……」


 今度、手作りシャンプーとか、そういう類を調べておこう。

 もっとも、気を付けないと向こうじゃ再現できない材料ばかりだったりするからなあ……。

 さらっと、工業製品をレシピに出された時には時間を返せって感じだったりもした。


「案外、町にいくとあるかもしれないから、身近な分だけにしておいたほうがいいな」


「今度、町まで果物を売りに行くらしいから、ついて行ってみようかな?」


 そんな彼女の希望に、俺は反対しなかった。

 前は反対だったけど、最近の彼女は良く頑張っていると思う。

 扉の魔法、その習熟によって距離とかが調整できるようになったのも大きい。


 最初は、森の中に固定状態だったのが、段々と動かせるようになっている。

 今じゃ、一度閉じた後なら道端にでも扉が出せるようなのだ。


「行くなら、色々準備をしておいたほうがいいだろうから、急には行かないように」


「はーい!」


 返事だけは元気な佑美に、少しだけ頭が痛くなる。

 それからは、俺は異世界で交渉に使えそうな小物をいくつか見繕う。

 その多くは、大した価値のない物のはずだけど、向こうでは化けるかもしれないと考えた物だ。


「じゃ、いってきます!」


 その日、佑美はいつもより遅く帰ってくるはずだった。

 近くの町に、でかけるからだ。


 いつもよりも、寂しさの増した見送りの後、俺は1人の時間を過ごすのだった。





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