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OIS-014「異世界の洗礼」


 佑美が、異世界へ向かってから数時間。

 事前の確認通りなら、向こうでは1時間に1日経過している。


「三日目……か」


 異世界に行っているのは、これまでと同じ……同じだ。

 なのに、今日は宿題も手につかない。

 つけっぱなしのテレビが、普段見ないバラエティ番組を放送しているけど、耳に入らない。


「佑美……」


 男だから、女だからというつもりはないけれど、こんな時に待ってるだけというのは……辛い。

 脅かしてもしょうがないと、細かくは言わないけれど、世の中は上手く行かないことも多々あるのだ。


 昔の事、西洋のことを調べれば調べるほど、なかなかにエグイ。

 食べ物1つとっても、今とは比べること自体が間違っていたりするレベルだ。

 同じとは限らないけど、似た部分はきっとあるだろう。


 地球のような土地で、人間が生きているのだ。

 

「そんな世界で、さらに怪物がいる……」


 口にして、その恐怖、異質さに改めてもやっとした気持ちが膨らむ。

 きっと向こうの人間にとっては、冒険者等はこちらでいう猟師ぐらいのものなんだろう。

 異形に思える相手が身近で、そう怯えるほどのものではないのかもしれない。


 それでも、それでもだ。

 佑美は、そんな世界で産まれたわけじゃない。


「どうか……無事で」


 気が付けば、佑美の普段寝るベッドにもたれかかるようにして、うとうとしていた。

 今の時間は……嘘だろ!?


「まだ戻ってない……」


 じわじわと、何かがせりあがってくる。

 無事か、そうでないのか。

 どうして自分には同じ力が無いのかと、自分を責め始めた時、光が見えた。


「あっ……」


 目の前で、見覚えのある光が線を結び、形を作り、扉となる。

 そして、音を立てて佑美が転げるようにして出て来た。


「佑美!」


「ただいま……時間、かかっちゃった……」


 怪我はほとんどない。擦り傷とかそのぐらいだ。

 でも、体全体が疲れてる様に見える。

 ここはすぐにでもシャワーを浴びさせたいところだけど……。


「まだ動けるなら、向こうで休息してから戻って来た方がいい。こっちだと、多分疲れが抜けないぞ」


「あ、そっかぁ! とりあえず、顔を拭いてドリンクだけ飲む……」


 力を振り絞ってという動きで、佑美が立ち上がる。

 俺も慌ててそれについていき、買い置きの栄養ドリンクを飲ませ、顔というか頭をさっぱりさせる。


 そうして、心配はあるけどもまた佑美を異世界へと送り出した。

 今度は半日ぐらいで戻ってくるというから、その間に食事の準備でもしておこう。


 元々、自分の担当が多かったけど、最近はますますそれに磨きがかかっている。

 向こうでも料理修行というか、花嫁修業につき合わせてもらった方がいいのだろうか?


「調子のいい奴だな……」


 自分へ向けてのつぶやきは、フライパンの立てる音に消えていく。

 佑美が元気に戻ってくるだろうということが、気分を向上させているのだ。

 そうこうしているうちに、2階から物音。


「ただいまー」


「おう、お帰り。ちょうど出来たところだ」


 重い物は体に良くないだろうと思い、ネギとかたっぷりの肉うどん。

 どうしてもなら、汁だけ飲むだけでも違うはずだ。


「ほっとするなあ……」


「かなり長かったな。苦戦したのか?」


 聞かなくてもいいと言えばいいのだけど、こうして異世界の事を聞いておくのも楽しみの1つ。

 今回は、予定より遅くなったことへの心配したぞというアピールでもある。


「うん。外にいたのは問題がなかったんだけど……洞窟をねぐらにしててさ。中の広さがわからないから、しばらく外で待ち伏せして対応して……最後には、煙でいぶしたの」


「ああ、なんだか燻製みたいに臭いなあと思ったらそれか」


 幸いにも、冒険者には魔法使いもいて、事前にその可能性を考えて準備をしていたのだとか。

 ダメージも出ないような風の魔法で、どんどんと煙を送り込んで……退治には成功したそうだ。


「それからが大変で。一応、大丈夫だと思うけど生き残りがいないかとかをみんなで探し回ったんだー。そしたら、何日も経ってたの」


「なるほどなあ……怪我が無くて、良かったよ」


 外で怪物に襲われるのも怖いけど、洞窟で襲われるのももっと怖い。

 昔から、そういうシチュエーションのゲームは多いのだし……ね。


「なんとかなった、っていうのが一番の感想かなあ。あ、報酬もちゃんともらったよ! 村長さんとかに聞いても、間違いはないって。こっちの価値がわからないけど……」


 そういって、金属の音がする小袋をポケットから佑美が取り出した。

 中には、確かにいくらかの硬貨と、数個の宝石……のようなもの。


 硬貨のほうは、当然こっちには無いから古銭として販売も出来ない。

 もしかしたら、純銀とかで換金できるかもしれないけどね。


「なんだろうな。宝石と、そうじゃない奴が混じってるような気がする」


「あ、私もそう思ったの。こっちは宝石っぽいけど、こっちは違うよね」


 小指の先ほどの、石たち。

 半分は宝石で、残りはそうじゃない感じがする。

 なんというか、触ったら熱そうな感覚がある。


「もしかして、魔力ってやつが内包されてるのか? 俺には魔法が使えるかわからないけどさ」


「そうかも! 確かにこっちには、力を感じるわ」


 俺の仮定は、間違いではなさそうだ。

 となると、向こうでこれらを使ってこっちで売れそうなものに交換、だな。


「佑美から見て、アンティークのハンカチだとか、そうやって言い切れそうなのを探してみてくれ。たぶん、いや……間違いなく古着でつぎはぎだらけとかだったりするけど、そういう服も需要があると俺は見てる」


「あっ、そうよね。コスプレにどうぞってやつね!」


 その後も、わいわいと話し込んでいるうちに、深夜になってしまった。

 明日以降の動きを軽く確かめて、眠りにつく俺たちだった。



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